2009年2月10日火曜日

Didon et Enée

モンペリエ地方では7日の土曜日から冬のバカンスに入りました。
年末年始のクリスマスバカンスから1ケ月あまりですが、ここでまた二週間のお休みがあるわけです。
この間、多くのフランス人家庭がすることと言えば、スキー旅行。アルプス方面、ピレネー方面、そしてフランス内陸部のセベンヌ方面へとそれぞれ出かけていきます。バカンスの話だけしてると、なんて優雅でのんきな民族だと思っちゃいますよね。。。

さて、学校がバカンスのため、私も音楽学校での仕事は2週間お休み。でもオペラjrの方では、今年度一番のプロジェクト「デイドンとエネ」がプロダクションの段階へと突入しました。つまり、普通のプロのオペラ公演の準備と同じく、関係者すべてが集結して2~3週間で舞台を作り上げる段階なわけです。演出家と歌手の立ち稽古、舞台稽古はもちろん、舞台美術、衣裳、メイクの準備、大道具小道具、そして照明や舞台セットの秒刻みの調整がまとめられていきます。

オペラjrでは普段からコンサートや舞台を独自に行っていますが、年に一度、モンペリエのオペラ座とのCoproduction (共同制作)があり、2008-2009のシーズンはこの「ディドンとエネ」が共同制作で行われるのです。





オペラjrからこの舞台に参加するのは、14歳~18歳の女の子と16歳~24歳の男の子たち。10月から週一回のペースで合唱の練習をはじめ、11月にはソリストが選ばれました。彼らに加え、エネアス役のテノール歌手と俳優がプロとして出演します。演奏はL'Yriade という若手ミュージシャンが集まったバロックアンサンブル。見ものはやっぱりジャン=ポール・スカルピタによる演出です。これまでこのブログでも何度か名前が出ている演出家ですが、彼がプロではない若者たちを相手にどんな演出を実現するのか、そばで見ていてとても楽しみです。

2月24,26,28日の三回にわたってモンペリエのオペラ座コメディで公演のあと、3月にはカルカッソンヌ、5月にはセートでの出張公演が予定されています。


バロックオペラ傑作中の傑作と言われるこのオペラ。古代ローマの詩人ヴェルギリウスの「アエネーイス」をもとに、ネイハム・テイトが台本をまとめ、ヘンリー・パーセルHenry Purcell(1659-1695)によって作曲されました。初演は1689年といわれています。テイトとパーセルはともにイギリス人。二人は友人であったといいます。英語で書かれたオペラです。そのため原題は「Dido & Aeneas」。日本では「ディドとエネアス」として知られています。実はこのタイトルの表記の仕方に私は迷っていました。フランスでは人名をフランス流にかえ、さらにフランス語読みしてしまうので、「Didon et Enée」ディドンとエネになってしまうのです。そのために、私はモンペリエ現地の発音をそのまま使わせてもらっています。でも日本では「ディドとエネアス」、もしくは「ディドーとエネアス」、さらには「ダイドーとエネアス」との表記もみられるようです。

3幕からなるオペラですが、演奏時間はたったの1時間。一時間で密の濃いドラマと音楽が凝縮されていて、「傑作中の傑作」という言葉にはうなずかされます。本当にすごいオペラです。もともとオペラが好きではなかった私が言うのだから本当ですよ。

物語の舞台は、現在のチュニジアのあたりであるカルタゴ。カルタゴの女王ディドと、戦いにやぶれてカルタゴに漂着したトロイの王子エネアスの悲しい恋の物語です。明るくエネルギーに満ちた侍女べリンダともう一人の侍女が、国の未来と恋の間で苦悩するディドを励まします。そこへディドを憎み、いつかカルタゴの女王の座を奪い取ろうとたくらむ魔女とその手下が物語に加わります。魔法使いの霊がエネアスの前に現れてウソのおつげをし、ディドとエネアスの関係を壊します。自分たちのたくらみの成功を確信して笑いがとまらない状態の魔女たちに続き、船出の準備をする水夫たちの楽しく陽気な歌が入って、オペラのムードにアクセントをつけますが、ディドとエネアスの言い争いからオペラはクライマックスへと向かいます。プライドの高さから気丈に立ち去るようエネアスに言い渡したディドは、死を決意し、姉妹のように親しかったべリンダに別れを告げ、「私のことを覚えていてね、、、でも私の運命は忘れてちょうだい、、、」と、涙を誘わずにはいられない名曲中の名曲「Remenber me 」を歌います。最後、悲しみに沈むキューピットたちのコーラスでオペラが幕を閉じます。

オペラのあらすじをこうしてまとめてしまうと、「なんのこっちゃ」と思ってしまう人も多いことでしょう。だって、私自身、オペラのもつおおげささやわざとらしさが好きになれずに、挙句の果てには「なんでそこで何回も同じことを歌ってるの?」なんて冷たい突っ込みをいれてしまうタイプでした。

でも、やっぱりなんでもそうですが、良く書かれた台本、よく書かれた楽譜、そして練られた演出がそろうとオペラってすごいな~と思うようになりました。
特にこの「ディドンとエネ」には無駄なところが全くない。無駄なメロディー、無駄な音楽がまったくないように思います。短くて構造はシンプルだけど、それぞれのソロと合唱部分がテンポよく場面転換を果たし、1時間で本当にドラマティックなオペラになっているのです。

もともと人気のある演目ですが、今回のオペラjrもすごい。内輪を褒めてなんですが、このオペラに参加するメンバーは、楽譜なんて読めない頃からオペラjrに加わり、ウラジミールとヴァレリーのもとで数年間学び、成長してきた子たち。ウラジミールに言わせると「純正オペラjr産」とのこと。私がオペラjrに関わるようになって5年がたちましたが、5年間での成長が明らかにみてとれます。この4日間、私も彼らと一緒に演出家との稽古に参加しましたが、16歳の子たちがする演技と歌に圧倒されるシーンもありました。

演目、演出家、出演者の3本そろった今回の公演。お勧め度五つ星です。
2月4日の夕方にチケットが発売開始になったのですが、翌日にはもうすでに最終日のチケットが完売となっていたそうです。
日本にいるみんなにも「見るといいよ~」と宣伝したいところですが、せめてモンペリエの人にはいっぱい宣伝しようと思ってます。

インターネット上でもチケットの予約はできるので、どうぞのぞいてみてください。

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