2009年4月19日日曜日

La Petite Chorale

この3日間、6月に小さなスペクタクルを公演するオペラjrのちびっこグループ La Petite Chorale の舞台練習に参加しました。
私は彼らの毎週一度の練習には関わってはいないのですが、スペクタクル本番ではピアノで参加するうえ、演出上彼らと一体となるので、本番通りの会場での練習は大切だからです。

La Petite Chorale のメンバーは6歳から9歳。オペラjrの中でこのグループだけは、参加登録する時の選抜オーディションがないので、音楽経験全くなしの子だらけの35人。
年度初めの9月の時点では、楽譜なんて読めないのは当然で、音感がなければリズム感もなく、発声の仕方もしらなければ、集団活動にも慣れていないごく普通のわんぱく集団。
それが週一回の練習を重ねて7ヶ月たった今、難しい音程についても厳しく要求できるくらいに成長しているのだからたいしたもんです。

この「要求度」が日本とフランスでは違うんですよね。

今までにも何度か言いましたが、フランスでは幼児教育が発達していません。幼児教育というと固い印象を与えてしまうけれど、ちびっこ向けの習い事の中で、子供たちは楽しみながらもある程度の質の高さを追及できるようなものがないのです。

音楽に限って言えば、日本には世界的に定評のあるヴァイオリンのスズキメトードや、ヤマハ音楽教室など、3歳児くらいからを対象にして独自のメトードを打ちたてたものがいくつかあります。子供の成長段階や発達段階をよく理解したうえで、子供のもつ可能性をしっているからこそ「結果」を産むことができるのだと思いますが、フランスの人は(フランスだけでなくヨーロッパ全体といえるでしょうけど)あまりこの点に注目してこなかったようです。
そのために習い事を開始する年齢がかなり遅いうえに、「子供向け」ということだけが念頭にあって、いたってのんびりマイペース派が主流です。家庭環境などに恵まれた結果、10歳以前にすごい技術や知識を身につけて「神童」と呼ばれるような子が極々まれにいるだけ。しかもそういう子は10代前半にしてパリの国立高等音楽院などに入学しちゃって、国際的に活躍するアーティストとなるパターンが多いので、「神童」と言われるだけあって、特別な例のようです。

フランスでは、幼稚園や小学校で行われる音楽活動もとても乏しく、ただ「子供が元気に歌う」という段階どまりな感じです。日本では幼稚園や小学校で合唱をしたり合奏をしたり、音楽に触れる機会がたくさんあるし、保護者むけに発表会などをもうけてそれなりの取り組みをしているのと比べると、フランスでのレベルが低いと感じられるのは明らかです。もしももうちょっときちんとした音楽を習うには、コンセルヴァトワールと提携している小学校に入って、授業時間の一定数をコンセルヴァトワールでソルフェージュや楽器のレッスンにあてる特殊なシステムに入り込まないといけません。こうなると学校のカリキュラム内におさまるわけですから、一般的にいう習い事というのとはまた違います。

そもそも、フランスで音楽教育を担っているコンセルヴァトワールと呼ばれる教育機関の存在が、他の国の者から見れば特殊なものなので、またいつかこのことをお話したいと思います。

その点、オペラjrというのは文部省が管轄する教育機関ではなくて、あくまで非営利団体のアソシエーションと呼ばれる種類の組織なので、完全に学校外の習い事の活動です。

フランスの子供たちは、1年生から皆、下校時刻は17時なので平日に習いごとをする時間が限られています。その変わりに水曜日は学校がないわけですが、土日の週末については、伝統的文化的に言って働かないのが週末ですから、週末に活動をすることには好意的でない家庭がほとんどです。

そんなわけで、学校外で何かの活動に充てる時間が絶対的に少ないので、要求できるレベルが限られてしまうというのも無理ありません。

そんななかで、オペラjrの創設者はブルガリア出身でスラブ民族のエスプリをもった人だったことと、彼自身の経験から、子供がもつ可能性の幅の広さを確信している人だったので、活動の目標のレベルが高いところに設定されたし、その結果を生むために必要な取り組み姿勢への高い要求が、参加条件の大前提となったのでした。
結果、バカンスの最中に一週間ぶっとおしで午前も午後も練習とか、土日の練習とか、フランスでは普通見られないようなスケジュールが、子供たちにも課せられているのです。世間一般では受け入れがたいスケジュールだから、たいてい驚嘆の目で見られるか、批判の目で見られるかのどちらかですが、参加した子どもたち自身は、経験を通して「取組み内容」と「結果」を体感するので、みんな大満足で、それがまた次への成長の糧になるし、うまく機能していると思います。

ちびっこグループの話に戻りますが、まったくの未経験者たちであるけれど、難しい音程はもちろん、発声の仕方、声の質などにも取り組めるので、4月現在の段階で、めざましい成長をしています。さらにオペラjrの活動の重要なところが、「歌」だけ、「音楽」だけではなくて、「演劇」に関わることも学んで、さらには「舞台」の上にたつということを学ぶことなのですが、このちびっこたちも、しっかりとそのすべてを学んでいます。

6月のスペクタクルというのは、イザベル・アブルケール Isabelle ABOULKERの「ちびっこのための5つの音楽物語」をもとに、俳優さんであるCが演出を行って、セリフや動きはもちろん、衣裳もみにつけて、1時間弱の子供による子供のためのスペクタクルとなるのです。

普段から合唱指導をしているVもそうだけど、演技指導をするCも、未経験の子供相手に新しい世界にうまいこと誘導し、教えることはもちろん、かなり高度な要求をします。そして見事な結果を生むのですいつも圧倒されますが、そのカギは子供との接し方にあると思います。

私自身、日本人であることや、自分の経験をもとにすると、いつもいつも要求度が高すぎる傾向になります。そこへフランス人の子供相手にショックを与えずに、うまいこと進歩・成長する方向にむけるにはどうやったらいいか、というのが悩みの種になるけれど、難しいのは話し方、話す内容。フランス語であるというだけでなくて、文化的に背景が違うのですから。

そんな私にとって、Vの話し方、Cの話し方がとても勉強になるのです。もちろん、彼女たちと私とでは性格が全く違うので、同じ様にはできません。でもヒントになるようなことがあちこちにあって、すごく参考になるのです。

この3日間、Cの演出のアイディアはもちろん、子供たちの成長ぶり、CやVの子供との接し方など、たくさんの刺激をうけて、とても楽しい練習だったので、終わってから「je me suis régalée !」と言ってしまいました。この表現はもともと「御馳走を食べる」というところから来ていて、「お腹いっぱいで大満足」が基本の意味なのですが、同じように何かを体験したり鑑賞したりして「思いきり楽しんだ」、「思いきり堪能した」、「思いきり満足した」などのときに使う表現です。
だから仕事が終わってからこんなセリフが口から出るというのは、幸せなことだな~と思いました。

問題は、この三日間、Vも私も、午前中3時間、このPetite Choraleとの練習。午後の三時間、Choeur d'enfants との練習。そして夜も三時間Groupe Vocale との練習という、一日3つの練習をこなすという前代未聞の超ハードスケジュールだったということ。いろいろとトラブルがあったので、急きょスケジュール変更で、このようにする他なかったのでした。
でも、あまりのハードさに、Vも私も「一日3グループの練習は二度としない!」で一致しました。

このLa Petite Chorale のスペクタクルについては話したいことがいっぱい。
また追って報告します。

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