2023年2月25日土曜日

抗議者なるもの

前回、フランス全土で久しぶりに行われた大規模ストライキについてお伝えしましたが、あれからすでに早一ヶ月近く。この間、政府の年金制度改革に対して抗議の意思を伝える活動は続き、これまでにすでに5回のデモ活動が行われました。

一回目が前回にお伝えした1月19日木曜日のこと。大きぼなストライキやデモが行われると、たいていその日のうちに組合団体が今後の見通しについても発表し、いわゆる次のストライキデーが通告されます。そうしてこの一か月の間、以下の日程で抗議活動が行われてきました。

  • 第2弾1月31日火曜日
  • 第3弾2月7日火曜日
  • 第4弾2月11日土曜日
  • 第5弾2月16日木曜日

ストライキというと、日本社会ではもうこの数十年間、実質的に行われていないので、日本人の多くは「よくやるねえ。」とか、「そんなことしないで仕事しろよ。」といった批判的な目で見てしまうこともあると思います。

労働に関して抗議の意思を示すという行為は、労働者の権利として日本でも憲法により保障されているにも関わらず、いつのまにか日本の労働者にとっては関係のない話のようになってしまいました。

フランスでだって、ストといえば批判的な目で見る人はいるし、特に交通機関が頻繁にストをおこすと、正直自分にもついていけないところがあって、それどころか、乗客を人質にとっているように見えてついつい批判的なことを言ってしまうこともあります。

けれど、労働者が自分たちの雇い主やパトロン相手に給料の交渉や労働環境の改善を求めたけれども、全く相手にしてもらえない場合、ストの権利の行使に至るのは当然のことでもあります。事実、こういう行動が起こる背景には、企業としては売り上げ利益をどんどん更新しているのに、労働現場では人員削減、賃金停滞の上に、求められるタスクは増える一方といった、構造的問題があるのが一般的です。だから労働者側が何も言わずにいれば、パトロンがどんどん利益を独り占めして、格差拡大、不平等が広がって、労働者側には心身の健康問題が発生したりして、結果的には大きな社会問題に発展します。というか、ここ数年の世界の姿は、その結果なんだろうと思います。

ストに参加する労働者を批判的な目で見る人が、一つ理解しておかないといけないのは、彼らはただ仕事をさぼってデモに参加しているというのとはわけが違うという点です。

おおまかに言って、ストの権利、デモに参加する権利というのは、その間、仕事から離れる理由として認められる権利のようなもので、正式な診断書を届けて病気欠席を認めてもらうのと似たところがあります。有休でもないし、さぼって仕事にこないのとも違う。病欠したときに給料補填の保障などがあるかどうかというのは、国のシステムによっても違うし、職種によっても勤め先によっても違うものですが、欠席を正式に認められるという点にしぼって言えば、デモ参加で仕事に出ない権利は同じようなものです。

つまり、その時間、給料は発生しません。だからスト参加者、デモ参加者は、給料と引き換えに抗議の声をあげているのです。

勤務時間調整の都合がつく人は、時間をずらしたりして工夫するでしょう。たまたまその日に休みを合わせられる人は、休日をデモに充てることになります。けれど勤務時間にデモ参加する人は、その時間の給料を返上することになります。

この一ヶ月、すでに5回の抗議活動が行われたと伝えましたが、想像してみて下さい。都合よくお休みにできた人がたくさんいるわけもなく、ほとんどの参加者は、少なくともそれぞれ4、5時間の勤務時間を一回のデモに充ててきたのです。

そうなると、もちろん5回の抗議活動に毎回参加したという人が多いとも言えません。だって、みんな守るべき生活があるのですから、お財布事情とにらめっこして、参加方法をやりくりしているわけです。

フランスのストライキ文化、デモ文化について、 この部分を無視しては、どうしても「仕事をさぼりたがる人達」や、「文句ばっかりいってる人達」といった見方に終始してしまうでしょう。

今回の抗議活動は、ある一定の業界や職種の人だけが声をあげているのではなくて、フランスで働き、年金というシステムに参加しているすべての人にとって関係ある大きなテーマです。年金と言えば、すでに年金システムの恩恵を受けている世代から、現在年金システムが機能するべくお金を払って年金を支えている世代、そしてまだ働いていないから何も払っていないけれども、自分が老後をむかえる頃に社会がどうなっているのか見当もつかないという不安を抱える若い世代、そのどれをとっても、それぞれの立場、体験、経験が違います。でもその全ての世代が参加して、それぞれの立場で政府の改革に反対の声をあげる姿には、それぞれの立場を配慮する思いも垣間見れ、フランス人らしい「連帯」という気質がよく表れているように思います。

フランスと言えば何が思い浮かぶか、と問われれば、ワイン、チーズ、エッフェル塔、ルイ・ヴィトンなどと同じくらい、連想されるキーワードとしていつでも上位に上がるであろう、ストライキとデモ。フランスの社会、フランスの文化、そしてフランス人の気質を理解するのには不可欠なワードの一つかと思います。

下の写真は、デモ行進が行われた日のモンペリエで、デモ行進のゴール地点でもあるコメディ広場の様子です。

 

  

 

こんなに晴れたいい天気の日の午後、一地方都市であるモンペリエで、人々がお給料を返してでもデモ行進に参加する姿に、少し興味をもってもらえたらうれしいです。

しかも、すでに5回行われた抗議活動には、すでに第6弾が予定されています。それは来る3月7日の火曜日。前回の2月16日から少し間を開けてあるだけに、ちょっとやそっとの規模ではないと予想されています。「国の機能をストップさせる」とまで宣言している団体もいるので、大規模、かつ、本格的なストライキ行動がフランス全土で行われることになりそうです。

というわけで、今回の年金改革に対する抗議活動は、まだまだ終わりが見えていません。どういう着地点を迎えるのでしょうか。

実は一連のデモ活動について、これまでに少しなんちゃって密着取材のようなこともしてみたので、引き続き、この年金改革に対するデモ活動について報告をしたいと思っています。


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