数か月前から、モンペリエの中心地であるコメディ広場には、とある電光掲示板が表示されています。
しかも、「X日前」というカウントダウンを示すものです。(J-XでX日前を意味する)
実はこれ、 モンペリエ市と周辺地域でなりたつメトロポル(都市圏)の全域の住人に対し、 トラムとバスの無料化が実施される日を掲示するものなのです。
数か月前からと言いましたが、正確には今年の9月12日からカウントダウンは始まっていて、 無料化実施100日前を機に、 J-100としてカウントダウンがスタートしたのでした。
公共交通機関が無料になるというのはかなり大胆な政策ですが、 実は3年前の時点で、フランスにおける30もの市町村で公共交通機関の無料化政策が実施されていました。そのうち4都市は人口が10万人を超える規模の都市で、フランスではまあまあ都市と言えるようなサイズの街でもすでに実施されていたのでした。
現在のモンペリエ市長、かつモンペリエ・メディテラネ・ メトロポール(都市圏) の会長のドゥラフォス氏は、市長に選ばれた時の選挙時にこの無料化を公約に掲げていたほどで、彼による主要施策の大目玉でもあります。
今週の木曜日、2023年12月21日にいよいよその実施日がやってきます。
彼は、公共交通機関の無料化は、 以下のような効果をもたらすと繰り返し述べてきました。
- 購買力の向上
- エコロジーへの移行を加速し、地球を保護する。
- 大気の質の向上
- 自由な移動
- 地元商店の支援
この大改革はそれなりに段階を踏んで進められてきていて、 2020年9月以降、モンペリエ都市圏の住民ならば、 週末に限っては無料で乗車ができるようになっていました。
さらに2021年の9月1日からは、 18歳未満および65歳以上の住民は毎日終日無料で乗車できるよ うになっていました。子供の通学にお金がかからないというのは、各家庭の家計の助けになったことでしょう。
ただし、無料と言っても乗り降りが完全に自由でフリーというわけではなくて、このためのフリーパス用カードを作成、 所持していなければいけません。 その手続きや世話をきちんとしてなかった私は、 トラムやバスにめったに乗らないとは言え、 週末無料の恩恵を受けずにきてしまっていました。
まあ、このように徐々に制度を導入しながら段階を踏んだうえ、
ぼーっとしていた類の私ですが、この日が近づいてきたので、 ようやくフリーパスの作成をしたところです。
環境保全に熱心な市長さんは、デジタル化にも熱心です。
以前なら、窓口に行って必要書類を提出してから、 定期やパス類を作ってもらっていたわけですが、 今回はインターネット上で簡単に発注することができました。必要書類や写真をプラットホーム上で直接追加しながらの登録です。しかも注文といっても、もちろん無料なわけです。意外や意外、写真付きでできあがったフリーパスの郵送もスムーズといき、無事に受け取ることができました。
このフリーパスは、 上記の週末制限や年齢制限の無料制度のために作らなくてはいけな かったものなのですが、全面無料化になる暁には、 このフリーパスをもっていれさえすれば、
乗車がいつでも無料でフリーになるということになるそうです。つまり、乗車の旅にチケットを機会に通して刻印させたり、 タップしてカウントさせる必要がなくなるのです。
そして、何かしらの追加の手続きは不要だとのことです。
さらに、アプリケーションをインストールしておくことによって、 スマホにもフリーパスを保存することができます。
現在、31の市町村がモンペリエ都市圏を構成していて、 全住民の数はおよそ50万人ほどになります。
9月の時点で、20万5千枚のフリーパスが発行されていて、 内訳は18歳未満は5万4千枚、65歳以上は5万2千枚、 それ以外は10万枚の週末パスとなっていました。
私でも準備が遅い方でしたが、 きっと今日明日で慌ててパスを作成する人も多いことでしょう。
この無料化は在住者のための政策であって、 圏外の在住者やツーリストは、これまで通り、 乗車チケットを購入する必要があります。
ただし、これももうデジタル化が目的でもあるので、 従来の紙のチケットは徐々に廃止に向かって、 QRコードシステムによるデジタルチケット購入が基本となるようです。
いろいろな割引プランは提案されるものの、 基本となる一回乗車券や定期券などの値段は値上げが発表されてい ます。
コロナの全面隔離期間のころから、モンペリエ市内のいたるところに自転車レーンが設置されて、 自動車用レーンは減らされる一方だということは、 以前にお伝えしたと思います。
現在は、トラムの第5番線の工事が急ピッチで進められていて、 モンペリエ市内や周辺各方面は連日大渋滞です。
もうここまでくると、 よっぽど渋滞に飲み込まれる覚悟がある人しか、 車に乗ろうとは思わないだろうというのが現状です。
環境保全政策への市長の強い意気込みと実行力は評価されるべきと ころだと思いますが、 人々の中にはどうしても車が必要な人もいるわけで、 この渋滞問題は議論のテーマとしてますます重要になってくるでし ょう。
しかも、全住民が無料でトラムに乗れるとあれば、 乗車人口もさらに増えるでしょうから、トラムの大混雑も予想されます。
市長の強気な判断は、 こうして人々が徒歩や自転車に切り替えざるを得ないように向かわ せていく意思があってのことなんだろうと、 私なんかは推測しているところです。
いずれにしても、かつての日本での生活の中で、大都市圏での通学通勤ラッシュというものを連日経験してきた身としては、移動のために片道だけでも一時間だとか二時間とられ、しかも超満員という極悪環境の中での通学通勤ということ自体、やっぱり非人間的なことだとつくづく思っています。往復で三時間、四時間が失われているなんてとてつもない損失です。
フランスでもパリとその周辺地域では同様の現象があるわけですが、人間らしい生活を求めて生活の地を変える人が多いのも無理はありません。
今こうしてフランスで広がっている公共交通機関の無料化や街中から車を排除するような動きは、そもそも、人々の日常の生活範囲が、徒歩や自転車、そしてトラムやバスによる移動で事が済む範囲 におさまっていればこそのことだと思います。
大気汚染対策や騒音対策などもあっての動きでありますが、人間が自然との関わり方を見直して、人間が人間らしい生活を取り戻していく流れの一環でもあるのかなあと感じています。
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