エルヴェ・ニケ氏と言えば、先ごろお伝えした「アーサー王 King Arthur」で、しゃべって歌って踊っての大サービスを披露してくれたマエストロ。Hervé Niquet と書いて「エルヴェ・ニケ」というより「アルヴェ・ニケ」という発音の近いような気がしますが、日本ではエルヴェ・ニケの表記で通っているようです。
ヨーロッパだけでなく、カナダ、アメリカ、そして日本でもかなり指揮している人で、バロック音楽の専門家として知られています。特に、「コンセール・スピリチュエル」という古楽オーケストラと合唱を自ら結成し率いて、各国各地で高い評価を得ています。まだ知られていなかったバロック時代のフランス音楽を調査、研究し、音楽学の研究分野でも評価されています。
一流の演奏家、音楽家が研究もとことんやって一流の研究家も兼任しちゃって、もう言うことないですね。
しかも彼と「声楽」のつながりも本物。彼はピアノ、クラヴサン、オルガン、声楽、合唱指揮、指揮の勉強を終えてから、23歳という若さにしてパリ・オペラ座のコレペティになりキャリアをスタートさせました。歌手のトレーニングを務めるだけでなく、自らも実際にテノール歌手としても活動した経験もあって、「声楽」に精通した人なのです。
そのため、ニケ氏との練習は学ばせてもらうことがたくさん。ジャン・アブシル(Jean Absil) の「Chansons Plaisantes」と 「Le Cirque Volant」を練習する子供たちとはジョークもふんだんに、そしてダリウス・ミヨー(Darius Milhaud) の「Barba Garibo」を歌う若者たちとはもっと要求度もあげて厳しく、でも楽しく一日が過ぎました。
マエストロの教え : 「Rrrrrrrrrrrrrrr!!!」
まるで鳩のものまねかのように「Rrrrrrrrr!」という雄たけびを連発するニケ氏。「R」の発音というか発声を強く要求してのことです。「R」だけじゃなくて、すべての子音がはっきりと聞こえるようにしつこく要求します。声楽を学ぶ人にとったら子音の発音は基本の基本でありますが、ニケ氏の要求度の高さはすごいです。「これでもか~!」というほどに子音が聞こえるようにしないといけません。
日本人にとったらこの子音、難しい問題なんですよね。日本語は母音と子音がぴったりくっついて発音されるので、子音だけを発音することに慣れていないからです。一方、フランス人などにとったら、「V」、「B」、「Q」、「C」、「S」とか、「P」、「F」、「M」、「N」とか、子音だけを発音することは日ごろからしていること。それでも歌う時にはっきりと歌詞が聞こえるようにするのは、また特別な注意と努力が必要なんですね。
それにしてもこんなに知識豊富で経験豊富な指揮者さんの横でピアノに向かい、一緒に仕事をさせてもらうというのは、報酬付きでお勉強をさせてもらうとてつもない貴重な経験です。時には彼も私と一緒にピアノに向かい、ニケ氏と連弾をしたりして、楽しませてもらいました。なんという贅沢。
オペラjrのみんなも贅沢な経験のチャンスをもったものです。ニケ氏がおもしろおかしく身振り手振りで説明したり、歌ってみせたりすることで、理屈ではなくて生きた音楽が感覚で伝わるし、その感情とパワーがダイレクトに伝わりますからね。
一見、気難しくて要求の高い人といった印象を与えるニケ氏ですが、6時間の練習を通して、子供や若者に対しての音楽教育の才能にも長けた人だと発見しました。
休憩中、彼がかなり日本に行ってるようなので、ちょっとおしゃべりをしかけてみました。東京、名古屋、横浜、などはもちろん、金沢でも指揮をしているとのこと。彼の日本好きはかなり本格的なようでした。そんなに日本に行ってるのなら、日本での受け止められ方はどんなのかな?と興味をもってインターネットで調べてみました。
そしたらニケ氏は「鬼才」と呼ばれていました~。
正直言って、見た目「鬼才」という言葉もぴったりくる人。
興味ある人は覗いてみてはいかがですか?
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/music/080824/msc0808240846001-n1.htm
http://www.operacity.jp/concert/2008/081028/interview.php
私は日本での生活を続け、モンペリエに来てなければ、こんな人と一緒にお仕事をする機会なんてなかっただろうに、人生はおもしろいもんだな~と改めて思いました。
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