2009年9月13日日曜日

旅の醍醐味 : おじいさんの教え

この夏のイタリア旅行の記録の続きです。

旅の3日目。
16時55分トリノ発のユーロスター・シティ(イタリアの新幹線のような電車)にのり、ミラノ乗り換えでヴェネチアに向かいました。



トリノ―ミラノ間は一時間弱であっという間。
ミラノでの乗り継ぎのタイミングも良く、すぐにヴェネチア行きの電車を探しました。
駅のエントランスの出発案内表示では、きちんと電車の番号とホームを確認したものの、いざ向かったホームに止まってる電車には、行先表示が出ていない。とりあえず自分の席がある車両まではいったけれど、電車の準備がまだできていないのか、やっぱり行先表示がでていませんでした。そのため、すぐそばでタバコを吸っていたおじいさんに、「ヴェネツィア行きですよね?」と念のため確認。おじいさんが「うん、そうだよ。」というから、小さいけれどしっかり重たいスーツケースを引きずり上げるようにしながらトラップを上がりました。で、いざ車内の客室に入ろうとすると、自動ドアだろうに、扉がひらかない。おかしいな~と思って手でドアをひいてみると重々しげに一応ひらいた。でもやっぱり自動扉だよな~と思いながら中に入ってみると、むぉ~んとした空気。そう、冷房がまるで効いていなくて閉めっぱなしの車内はまるでサウナ状態。

とても耐えられる温度じゃないし換気もゼロだからいや~な空気。これはおかしいと思って、結局また電車から外に出ました。荷物をかかえておっちらと降りてくる私をみて、さっきのタバコを吸ってたおじいさんが、「どうしたんだい?」とでもいう顔でこっちをみて、「出発までまだ時間があるから大丈夫だよ。」と言ってきました。
「それはそうなんだけど、なんかこの車両おかしいです。。。」と言いたかったけど、おじいさんと何語で話したらいいのかわからないからそのまま。

おじいさんはのんびりタバコをふかしていて、私は結局もう一つ前の車両まで進んでいき、反対側の入り口から同じ車両に入ろうとしたけど、やっぱりドアが自動では開かない。しかもあいかわらずの密室。。。隣の車両の様子はどうかと思ってのぞきにいくと、冷房もがんがんきいていて、乗客もけっこういてみなさん快適そう。
しばらくの間、車両の間の通路で待ってみたけど、私の席がある車両は出発時刻が近づいてきても誰もいないし、あいかわらずサウナ状態のまま。

もうよくわからないけど、とにかく息苦しいほどの異常な室温なので、黙って勝手に隣の車両に乗り込んで、空席に座りました。

ほどなくして電車が動き出す。

そして5分ほどしたら、さっきのタバコをすってたおじいさんが真っ赤な顔して荷物とともに現れて、通路をはさんで私の隣に座りました。そこでお互い目があって、おじいさんが「ひどいねあれは、もうサウナだよ。」と言うから、私も「そうでしょー。だから勝手にこっちに来ちゃいました。」と答える。

まあそこからというもの、このおじいさんは何かと私の方を見ているし、おしゃべりしたげなんだけど、私はあまり気も乗らなくて、フレンドリーそうに見えて実はフレンドリーでない私の性格のため、気がついてないふりをしてぼ~っと外をの景色を見ておりました。

電車はかなりのスピードで長距離を走っていきます。
ブレーシャBrescia に停車してから湖の近くの駅を通り、ヴェネツィアを目指します。

すると突然、黒人男性が荒々しく車両に入ってきたかと思うと、私の前の席の頭上の棚に荷物をほおりあげ、そのまま座ることもなくまた車両から出て行ったんです。

突飛な行動に私は驚き、数分たってもこの男性が戻ってこないことが気になりだしました。

「もしかして、これがよく言う『車内の不審者の不審な荷物』というやつなのでは?!」と思ったわけです。おかげで次第に私はそわそわとしてきました。10分たっても15分たっても男性が戻ってこないんです。「車掌さんに言いに行った方がいいのかな~。でも心配しすぎかな~。あと1分したら戻ってくるのかなー。でもここで見逃して爆発したらどうしよう。うー。」とどんどん気になっていき、前や後ろをちらちらと見て落ち着かない状態になった私を、今度はとなりのおじいさんが気にし始め、「次の駅が〇〇でまだ何十分あるし、ベネツィアまではまだ〇〇、◇◇、△△に止まるよ。」と言ってくれました。私がベネツィアがもうすぐかと思ってそわそわしてると思ってくれたんですね。そのため私も「いや、違うんです。さっき黒人男性が荷物おいてったまま戻ってこないでしょう。だから変だなーと思って、、、」と説明しました。
するとおじいさんは笑って、「大丈夫だよ~。爆弾が爆発するってか?駅でも空港でも電車でも爆弾を心配してたらやってられないよ~。わっはっは!」と言う。

でもこのときの私はかなりマジで心配し始めてたので、おじいさんののん気さがカチンとくるほどでした。「そんなこと言って、ほんとにこれが不審物だったらどうすんのさ。」と思ってまだ一人心配を続けていました。すると、だいぶたったころにさっきの黒人男性が戻ってきました。どうやらトイレに行っていた感じ。それを見ておじいさんが「ほらね。」と言わん顔をし、私も「はい、おそれいりました。」という顔で返しました。

そこで私もちょっとうちとけたのか、自然とおしゃべりがはじまりました。

「君は日本人?中国人?」
「僕も日本には行ったことがある。日本人の仕事への取り組みはパーフェクトだね。」
「フランスのどこに住んでるんだい?」
などと質問がはじまり、こっちもおじいさんが世界中を旅している様子なので、「いつも仕事で旅行なんですか?」とか質問を始めました。

で話していると、このおじいさんがおもしろい人物かも、、、と思いだした私。おじいさんが何者かということに興味を持ち始めました。

彼は仕事で世界中を飛び回っている。ヨーロッパ各国はもちろん、日本、アメリカ、南米も、ロシアも東ヨーロッパも、文字通り世界中を旅している。そして仕事は航空会社関連という。どうやらおじいさんの会社っぽい。ヴェネチアの中でもリゾートで有名なリド島に家をもち、そのすぐ近くには経営する小さなホテルがあるという。パリにとっても小さなアパートがあり、アメリカ大陸のどこかしらの街にもとっても小さなアパートがあり、、、、、etc。おじいさんは「小さな」と付け加えるけど、でも普通の人ではないのは明らか。
常に旅をしている様子で、この日も、一晩だけリドの自分の家に寝て、明日はまた出かけ、数日後からは東ヨーロッパに出かけるという。
おじいさんはドイツ系イタリア人家庭に生まれたという。
私がピアノ弾きだというと、音楽が好きだという。

だからイタリア人でピアノ弾きといえば、私が大フィーバーしているチッコリーニと思い、チッコリーニのことを話題に出してみると、

「あ~、知ってるよ。昔彼がコンビ組んでたフルーティストがいてねえ、その彼と僕は親しかったんだ。で、その縁で、チッコリーニと二人してうちに食べに来たことがあるよ。」という。

わぉ~!チッコーリニおじいちゃんが家に食事に来たですと?!

おじいさんは何者?
おじいさん、もしかしてセレブ?
おじいさん、ひょっとして大金持ち?

でも、彼の身なりは恰好は、いたって普通のおじいさん。お腹がちょっと出ててメガネをかけてて、普通の服。そして私たちが座っている車両は2等車。

でもおしゃべりをしていて、おじいさんはおもしろい人物だと実感してきました。なんでかというと、彼は本当に世界を見てきた人だということがわかるからです。

おじいさんは先進国だけでなくて、ユーゴスラビアとか、社会状況がまだ厳しい国にも行っています。

そんなおじいさんが世界というものを、人間というものを語った語録 :


「国やら政府やら宗教やらいろいろあるけれど、しょせんは一人一人の人間の問題だ。」

「物事はいたってシンプルなのに人間がそれを複雑におかしくさせてるだけ。」

「言葉や文化が違っても、現地へ行って現地の人々と接すれば、コミュニケーションがとれてわかりあえるもんだ。」

「外国語なんて勉強すべきもんじゃない。現地へ行けばいいだけ。」


フレーズとしては同じ考えを持つ人はたくさんいるだろうけれど、おじいさんは実経験からきているのがよくわかる、言葉が身となり血となり肉となっていて、そのことが強く印象に残りました。

「世界を知るおじいさん」という感じですね。

今思い出せば、おじいさんと何語でおしゃべりをしたのかあまり覚えていない、、、。多分彼はイタリア語でしゃべって、こっちはフランス語でしゃべってたのかな。

私が降りるのはヴェネチア本土の方のメストレ駅。おじいさんは終点ヴェネチアの島の本島サンタルチア駅までいきます。

おしゃべりしていると時間はあっというまに過ぎるもんです。パドヴァPadovaに電車が止まると、パドヴァの街の見どころなんかも教えてくれました。
メストレ駅到着を前にして、21時頃。外はもう暗くなってきていました。荷物自体は小さいスーツケースだけの私でしたが、おじいさんが私の荷物を持ってトラップまで見送りについて来てくれました。

車両間の通路でもおしゃべりは続き、こんなinterestingなおじいさんとおしゃべりしていてうれしくなった私は、せっかくの出会いと思い出にと思って、おじいさんの名前とリド島のホテルの名前をおしえてもらいました。
「ちっちゃなちっちゃなホテルだよ。」とおじいちゃんは笑っていましたが、ヴェネチアのリゾート地でリド島ですからね。
いつかこのホテルに泊まりにいったら、もしかして再会することがあるかも、、、です。

メストレ駅のホームには、去年のラジオフランスフェスティバルで出会った日本人コレペティさんのTさんとその彼氏が出迎えに来てくれていました。実はこの夜から数日間は、Tさんのおうちにお邪魔することになってたんです。

電車から降りる前からTさんは電車の中にいる私を見つけてくれ、再会するなり手が悪い私を気遣って心配してくれたんですが、私のうしろからおじいさんが荷物をもって降りてきたからTさんもびっくり。

おじいさんはサンタルチアまで行くので、荷物をおろして電車の乗り込み、「ありがとうございました!お元気で!」、「ヴェネツィアで楽しむんだよ。よい旅行を!」と手を振ってお別れしました。

大金持ちのイタリア人のおじいさん、と言うとふと思い出したのが、日本人女性Aさんのストーリー。日本で離婚を経験して、ふらりと旅に出てベネチアの駅で一人こしかけぼーっとしていたら、ひとりのおじいさんが話しかけてきて、、、、。という話。まあ人づての又聞きですが、その二人は結婚をして、おじいさんは本当の億万長者で、結婚後まもなく亡くなり、すべての遺産をこのAさんに残し、Aさんは若い音楽家を援助する活動をしている、、、ということは本当のようで。

私とおしゃべりしたおじいさんも似たようなパターンじゃん!とか思って、こういう出会い、きっかけで10日後には結婚とかするケースもあるんだなあと考えると、私には何がどう転がってもありえない展開ですが、おもしろいもんだと思いました。

おじいさんと接して感じたことは、やっぱりいろんな国を訪ねて見てきた人には、自分の生まれた国、街にずっといる人にはとても得ることのできないものがあるなあということ。しかもおじいさんの年だと、戦争時、戦後の世界も知ってるわけです。社会や世界を見る目、世界に対するビジョンが器の大きなものになりますよね。
私もたとえおじいさんと同じ考え、主張をもっているとしても、説得力のレベルが違う。まだまだひよっこですね。

みんながこうして異国を知り、異文化知り、互いに交流ができたら、世界はあっというまに平和になるだろうに、、、と思った夜でした。

そしてこういうふれあいこそが旅の醍醐味。もし車で旅に出ていたら、こういうふれあいはもてなかったでしょうから、電車の旅にして大正解。

私も世界市民でありたいと思います。

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