2010年2月28日日曜日

Audition 生徒の発表会 ―大それた挑戦―

さる2月6日の土曜日、音楽学校で私のクラスとヴァイオリンのMathias(マチアス) のクラスの発表会を行いました。
場所は毎度のようにSt.Georges d'Orques の小学校の多目的室。



マチアスも私のクラスもお互いこの音楽学校でも1、2を争う大所帯なので、参加者とその家族、友人で部屋はすぐにあふれかえってしまいます。立ったまま鑑賞の方も多く。。。

私とマチアス、ほぼ毎年のように一緒に合同発表会をしています。なぜならヴァイオリンの生徒の伴奏を私の生徒にさせてるからです。もちろんそれなりのレベルに達した生徒しかピアノ伴奏というものはできませんが、ちょっぴり無理を承知で挑戦させているのです。厳密に言うと、この「挑戦」という言葉ですが、理性的に度を越した挑戦だったりもするんです。

というのも、音楽をやってる方ならわかってくれるでしょうが、楽器を習い始めてまだ数年という子には、楽譜通りに曲を最初から最後まで弾きとおすということはまだまだ難しかったりします。つまり、「間違える」という行為が「ちょっとミスタッチをした」という行為とは根本的に違うからです。
例えば、よくある例が「間違えちゃった=止まっちゃった=弾きなおす」です。初心者がソロで弾く場合、いたってあたりまえのこの行為ですが、ドゥオなんかで誰かと一緒に弾いている場合、相手のことなんて完全無視的な行為となります。
また、初心者によくある問題がリズム感、拍感のなさ。4拍子の曲なのに、突然二分音符を四分音符にしたりして3拍子混入の変拍子を平気な顔でしてしまう。あるいは休符を完全無視とか。。。

もちろんこういう問題はレッスンと練習を通して直す努力はしてるのですが、根本的に拍感が身についてないレベルでは、いつ何どき勃発するかわからないよくあるトラブルです。

だからこそ、こういうレベルの生徒の伴奏はプロがするのが常識です。日本でだってヴァイオリンやフルートの生徒の発表会なんかには、ヴァイオリンの先生が簡単な伴奏を弾いてあげるとか、ピアノが上手なお姉さんが妹の伴奏をしてあげるとかっていう例以外はプロの伴奏ピアニストが準備されていると思います。
フランスでだってそれは同じこと。まず、コンセルヴァトワールにはプロの伴奏ピアニストたちが教授陣たちとともにそろっていますから、基本的に発表会も試験も、このプロたちによって伴奏が保障されています。また「ピアノ伴奏科」が設置されているコンセルヴァトワールではこの伴奏科の生徒による伴奏もよく行われますが、彼らはピアノのレベルが最上級学年のレベル以上であることが必須ですし、まあセミプロとよべるでしょう。
また「室内楽」という科もありますが、こちらも器楽の生徒が誰でも初心者から受けれる科ではありません。それぞれ上級の学年になってから生徒の空きがある場合にオーディションでとってもらって初めて受けることができる授業であることがほとんどです。そのため生徒たちの楽器の腕前はまあそこそこ。そのうで、ここで初めて他の楽器と一緒に演奏することを知る子たちがほとんどなのです。

私が教える音楽学校でも、私が働き始めたころは私がピアノ伴奏をしてあげていました。でも私が合わせの練習をしてあげる時間、そして本番で弾いてあげる時間はボランティア行為であるという現実面の問題に加え、私には初見で問題なく弾ける楽譜で、楽器の子がどうにかこうにか譜面どおり弾けるかどうかというレベルにつきあってのドゥオは正直言ってちょっと退屈なものでした。
そこで、私が「レベルの進んでる私の生徒にやらせてみるのはどう?」と提案したのが始まりでした。

最初は本当にピアノの生徒で一番上手な子、一人、二人に与えて挑戦するという段階でした。

それならまだしも!

私たちの挑戦は毎年オーバーヒートしてきて、なんと今年のヴァイオリンの発表会には8組ものドゥオ、フルートでは3組のドゥオ、トランペットにも3人のピアニストを送るということになったのです。しかもヴァイオリンの生徒が弾く曲は年々ハイレベルになってきています。まずいろんなヴァイオリンコンチェルトがあるのは当然ですが、これらの伴奏パートはもともとオーケストラの楽譜をピアノにアレンジされています。そのため、ピアニスティックな楽譜ではないのでピアノの生徒には難しかったりします。彼らは和音が苦手ですからね。もともとヴァイオリンとピアノのために書かれたソナタなんかも最近増えてきています。そうなってくるとピアノパートははっきりいってハイレベル。今年なんてバルトークの「ダンス」もありました。

私が理性的で安全を好む先生なら「これは難しすぎる。」と却下して終わりなのに、「やってみよう!」と言ってしまう性格の私。はたしてこれがいかに狂気に近い挑戦かわかってもらえるでしょうか、、、。

この音楽学校では毎週一回30分の個人レッスンが年間32回あるだけ。
その中で、まあそこそこ練習し、頭の回転も速く、リズム感にもめぐまれて、「音楽が好き!」と感じてくれてそこそこのレベルに達すことができるのは誰にでもあてはまることではありません。

幸い、この上記の条件がすべてそろって、とてもたのもしい生徒になってくれたのが今年高校一年生のCharlotte。この音楽学校でゼロから初めて今年ピアノ9年目の彼女は、私にも「あっぱれ!」と言わせる初見能力までみにつけてくれました。さらに相手のミスやアクシデントなんかにも対応できて合わせることができて、素晴らしい伴奏ピアニストの卵です。
こんな生徒の場合、私はなんの心配もなく伴奏の楽譜を与えることができるのですが、これは幸運な特別例。

今年私が伴奏14曲のために人選に頭を悩ましたのはもちろん、誰にどの曲を与えるかにも悩みました。それぞれの生徒の性格も考慮しますからね。「あの子はハードルに立ち向かえる子、あの子は譜読みさえできたらあとはなんとかなる子、あの子はハッパをかけたら応えられる子、」などなど。
結果、私が選んだピアニストはピアノ歴10年の子、9年の子からピアノ歴まだ5年だけど音感リズム感が強い子まで。中ではピアノ歴8年だけど基礎力が弱い子なんてのが一番心配だったりします。

そんな子のためにもとにかく早く楽譜を頂戴!と頼んであったので、ほとんどの子が11月後半には楽譜に取り組み始めました。初見が得意なシャルロットのような子を除き、この譜読みの段階は私に我慢を強いる時期です。どの子も片手ずつ、ゆっくりさらわせないといけないから。
しかも普段、ピアノで2ページ以上長い曲なんて弾いたことないのに、突然5ページあるヴァイオリンの伴奏譜を見て「え~、こんなに長いの~!?」と反応されるのもごもっとも。
まあ、私としてはクリスマスまでにはなんとか譜読みを終えて、、、、と考えていました。

さらにマチアスとともに、「ハッパをかける意味で、合同練習を早めに始めよう。」と決めていたので、クリスマスバカンス明けから一週おいて、ヴァイオリニスト達に私のレッスンに来てもらいました。

そこでまずは厳しい大問題発生。
ほとんどの子がクリスマスバカンス中、練習をおざなりにしてたんですね。
。。。。。
バカンス天国のフランスでバカンス中に普段以上の練習を期待する私がバカなのはよくわかっていますが。
バカンスはピアノにもヴァイオリンにもバカンスなわけです。
バカンス前にせっかく譜読みをちゃんとした私の生徒も、そこから進歩してるどころか退化した、、、?なんてことありです。(笑)

そんなわけで、「これで大丈夫なんやろか。。。。」という大疑問を頭にかかえての練習スタート。

また毎年私をちょっとイラっとさせるのがテンポの問題。

例えばヴァイオリン歴6年の子が弾く曲でテンポの速い曲があるとします。たいていこのピアノ伴奏譜は早く弾くにはとっても難しい。だからピアノ歴6年の子には弾けません。私がピアノ歴7年の子に与えたとして、テンポを上げていくのは過大な要求です。でもマチアスにしてみれば「これくらいのテンポで。」と軽く要求できてしまうこと。そこで毎回「テンポはおおめにみてあげてね。」とマチアスに頼むのですが、音楽的にも当然テンポを上げるべきなのは私もわかってる。こうしてテンポのおりあいをつけるのが私にはフラストレーションのたまることだったりします。
ま、そもそも無理な挑戦、無理な要求を私の生徒に課してるだけだったりもするんですけど、、、。

私のレッスンにヴァイオリニストが来たり、私の生徒がマチアスのレッスンにいったりして練習を積むんですけど、1月末の時点ではマチアスもかなり不安だったみたい。
「やっぱり大それたことしすぎかな、、、。」とメールを送ってきました。
それは明らか!
でもマチアスは自分の生徒にそれなりに適したレベルの曲を与えているわけです。そのピアノ伴奏譜を明らかにレベルの達していない生徒に与えている私に問題があるんですね。

もちろん私も毎回「これは無理ってことわろうかな、、、」と迷います。
でもこちらで生活してて年々明らかになっていく私の思考回路の問題に「最初からあきらめるのはもったいない。やってみたらできるかもしれない。」と思ってしまうってのがあります。自分の仕事上のことでも、プライベートのことでも、何か頼まれたりしたときに「leonardo はなんでも引き受けすぎ。」「leonardo は断りベタ」といつも指摘されています。これが自分のことならまだしも、自分の生徒に「がんばったらできるよ!!」と押し付けるのはやりすぎなのかも。

でも、なんで私が「最初からあきらめたらもったいない。」と思ってしまうかと言うと、個人的に他の楽器とのアンサンブルや共演が好きな私としては、自分の生徒にもそれを体験、経験してほしいと思ってるからです。しかも、毎回、機会を与えた生徒たちは「アンサンブルって楽しい!」と発見してくれるのです。さらにちょっと難しい曲に挑戦して「できた!」という自信と喜びも生まれて。それを傍で見守る父兄のみなさんもすごく評価してくれるし。

そんなこんなでやめられないんですね。この大それた挑戦。

結局この2月の発表会でも、私たちのドゥオ奏者たちは、それぞれ最後の追い込みをしてくれて、満足のいく演奏をしてくれました。中にはレッスンをしていて私自身に「室内楽のレッスンするのって楽しい!」と思わせてくれるドゥオもいたし。

それにしても私にとっての最後の問題はこのフランス流「最後の追い込み。」

これってすごいんすよ。わかる方にはわかってもらえると思うけど、プロ、アマチュア、仕事、趣味関係なく、フランス人はものごとを計画的にすすめるというのが苦手というか、そういう概念が頭にないようなんです。(笑)
そのため、最後の土壇場ですごい能力をはっきしてくれるんですけど、私としたら、もうちょっと計画的に進めて私を安心させてくれよ、、、、。てつぶやいてしまうのでした。

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