2010年5月13日木曜日

Concert des grands élèves

一か月ほど前になりますが、4月10日のコンサートの様子をお伝えします。

このコンサートは、私が働く音楽学校でそれぞれの楽器の上級レベルの生徒だけを集めてコンサートをしようという企画から始まったものでした。名付けて「Concert des grands élèves」。言いだしっぺはヴァイオリンの先生であるマチアスだったんですが、私の生徒に上級者が多いことから必然的に私は企画・運営のリードを取り出し、いつのまにやら私がまとめ役となっていました。

コンセルヴァトワールでもない私たちのような音楽学校で、上級者といっても、もちろん一般全体を対象としたレベル分けによる上級ではありません。あくまで私たちの学校内での上級者。つまり、モチベーションがあって練習もきちんとし、それなりに楽しめる曲を弾きこなせるようになってきた人たちが対象です。学校には大人の生徒さんもいるのですが、今回のコンサートでは始めからあえて大人は入れずに、中高生の思春期の子たちを対象として、先生側から見てこのコンサートで弾くのを提案してみようと自然に思える生徒、そしてその中で喜んで弾きたがるような子たちが選ばれました。

残念だったのが私たちが選んだ日があまり理想的な時期ではなかったということ。
もともと言いだしっぺのマチアスが4月を想定していたのが大きな原因ですが、まとめ役となった私の都合により選ばれたのが4月10日土曜日の夕方。実はこの日からパック(イースター/感謝祭)のバカンスに突入したのです。そのために前から旅行を予定していた家族は参加できなかったりしました。
それから私たちの学校ではいろんな合同行事が熱心に行われています。それぞれのクラスが発表会をすることはもちろん、年度末に学校全体の発表会があるうえに、地元の行事に参加したりもして、かなり過密スケジュールなのです。そのために準備する曲を数曲かかえて、本番の日もたくさんもってるギターのクラスの先生二人は参加するのを断念してしまいました。

この点は来年度以降、前もってふさわしい日を選んだりして改良を加えていくところですね。

そんなわけで、準備段階での問題もあったわけですが、なんといっても今回は音楽学校初めてのラヴェリュンヌのお城内部でのコンサートとなるうえに、音楽学校初めてのグランドピアノしようという、二大ポイントが売りです。

たくさんの人に聴きにきてもらいたいし、上級者だけを集めたということもあって、私は普段の発表会との違いをつけたかったから、忙しい合間をぬって、全員で通しリハーサルをしたり、現地リハーサルをしたりして準備をしました。
お客さんを集めるためにといって、私たち教師もピアノトリオとフルート・ピアノのドゥオで演奏することにしたわけです。まあ、だからといってお客さんが増えるかどうかは怪しかったんですが、やっぱり効果はあって、そのことを知って「聴きに行く!」と言ってくれた生徒、親御さんが結構いました。

さて、写真で当日の様子を追ってみましょう。

まずは学校の代表をつとめるFのあいさつで幕開け。



用意できた客席はだいたい110席くらい。 瞬く間に席はうまりました。演奏する生徒の家族、先生はもちろん、生徒が出ない先生や、子供が演奏しない親、さらにはラヴェリュンヌの住人も何人か来てくれたんです。

プログラムにはピアノソロはもちろん、ピアノ連弾やヴァイオリンやフルートとピアノのドゥオあり、



ヴァイオリン2本やフルート2本によるドゥオあり、



チェロもあり。




大半はクラシック音楽ですが、中にはジャズや映画音楽、そしてロックもありました。
前半の最後に弾いたのがロックギター少女。




彼女とは今回初めて接したのですが、典型的な思春期のロック少女と言う感じで、口数少ないんですが、周りに雰囲気があるんですね。
彼女はレッド・ツェッペリンの「Stairway to heaven」をエレキギターで弾きました。
実は私はリハーサルで彼女の演奏を聞いて、すっかりファンになってしまいました。
もちろんちゃんと弾きこなしていて暗譜で演奏してくれたのですが、ちょっとした間とかを上手にとるんです。いや~、こんな子が学校にいたと知って単純にうれしかったです。

前半終了して休憩。

音楽学校側から無料で飲み物の提供です。
大人も子供も、みんなワインやジュースを片手にお城の庭でおしゃべり。



生徒や親、みんな年齢も世代も関係なく自然とおしゃべりがひろがっていく様子を見るのはとても楽しいものです。

なかなか途切れないおしゃべりなので、「第二部開始しま~す!」と宣言して、みんなに中に戻ってもらいました。

今回、実はお城のホールでのコンサートということで、普段とは違う約束をしたことがあります。
それは演奏者の服装。

いつもの発表会では、もうみんな思いっきり普段着のままの子が多いんですが、今回は「それなりにかわいらしくきちんとした服装にしましょう。」とお願いしたんです。
日本でのピアノの発表会とかって言うと、ちびっこも学生もみんなはりきって新調の服装でやってきますが、ここはフランス・モンペリエ。
彼らは「それなりの恰好」という恰好をしたことはほとんどないうえに、そんな服はもってなかったりして当然なのです。だから一応私も「わざわざ買うようなことはしなくていからね、もちろん。」と付け加えて、「できることならジーパンにバスケットシューズとかは避けましょう、、、、。」と言っておきました。

すると、やっぱりかわいく決めてきた子もいましたいました。

普段ズボンしかはかないこも、こんなスカートで。


男の子コンビはシャツと黒めのジーンズと新しいスニーカーというスタイルで決めてきてくれました。



                                                            
最終的に一番張り切ったのは、18歳の男の子A。
私とピアノをして3年目の彼は、超マイペースでおおらかな子。
きちんとした練習は全然してくれないんですが、2年前に私があげたジャズの曲をたいそう気に入って、フィーリングたっぷりに弾いてくれたことから、すっかりジャズ路線に入ってしまいました。
テクニック的には上級者というには遠いのですが、のりのりで楽しんで弾いてくれる姿は、他の生徒に見せたかったから参加してもらったんです。

このA。普段からなにかと笑わせてくれるんですが、この日現れた彼の姿を見て私は「!!」
なんと、ビシッとスーツ姿で現れたではありませんか。ネクタイまでしめて、皮の磨き上げられた靴。
私が「すごいやん~~!!」というと、「実は買ったんだよ。」と言う。「え~~~!まじで~!」と思わず騒いでしまったけど、彼が「どのみちいずれ必要になるし、きっかけになっただけだよ。」という。
まあ、確かにそのうち就職活動とかでも必要になるかも知れませんしね。


                                                                       
今回のプログラムは全部で18曲となりました。

生徒たちが16曲です。中には正直言って「上級者」というにはちょっときついなあ~~という子もいましたが、大半の子たちはこちらの期待通り、曲の難易度からいっても、音楽的な面からいっても、素敵な演奏をしてくれました。
ピアノではシューマンの「トロイメライ」や映画音楽「ピアノレッスン」を表現豊かに弾いてくれて、ピアノ連弾ではドビュッシーの「小さな組曲」を頑張って弾いてくれて、ヴァイオリンの曲ではバルトークの「ダンス」やクライスラーの「プレリュードとアレグロ」とか、立派な曲を弾いてくれました。

これを聞けばだれもが「私たちの音楽学校もたいしたものだねえ!」と思ってくれたことでしょう。

生徒たちの演奏が終わって、最後におまけとして講師の演奏。

まずはフルートのリザと私でエネスコの「カンタービレとプレスト」。



私は2003年以来、人前で演奏することが全く苦にならなくなり、変な緊張をすることは皆無となって、まるで「ボンジュール!」というときのような笑顔とともに、お茶を飲む時のようなリラックスモードでピアノに向かうようになってるんです。

この日も、リザは緊張してましたが私はリラックスモード。
ただ、この楽譜をもらったのが2週間前で練習時間がほとんどないまま本番になったので、思いっきり楽譜を読みながらの演奏になってしまった点は反省。。。変なミスもしたし。。。。

でも、演奏後は割れんばかりの大拍手。
そういえば、私たちが生徒や親御さんの前でそれなりに真面目に本格的なクラシック曲を演奏したのはこれが初めて。
きっとみんなにとったら期待以上だったってことなのかな?

間を置くことなく、続いてショスタコヴィッチのピアノトリオ。

マチアスが曲について作曲家について一言説明して笑いをとったりします。


この曲はマチアスとチェロのマリーが「弾くっきゃない!」と思い立って一緒にすることに決めたのですが、なんといってもかなり規模の大きいガッツりした曲ですから、「適当に、、、」では済まされない取り組みを必要としました。忙しい合間をぬって、それなりに3人での練習を重ねたから、音楽的に不安はなかったのですが、このコンサートでは問題が発生!
実は、このグランドピアノ、古いものだとはわかってたんですが、最高音部分の鍵盤が少ないんです。つまり88鍵でないんです。
よりによってこのショスタコヴィッチのピアノパートは高音をかなり使う。。。
しかも音があがるところはたいてい音楽的に盛り上がるところ。。。
残念ながら私はオクターブ下げるか残念ながら音が弾けないかで、かなりのハンディキャップなってしまいました。しかも高音部分の音が響かないんですね。だから欲求不満も。

そんなこんなでメカニックなトラブルに出会ってしまいました。

でも!3人の息はあってたし、エネルギーの面ではガンガンにのめりこんでた私たち。

15分弱の演奏が終わるとすごい拍手と歓声とスタンディングオベーションをいただきました。



ショスタコヴィッチの曲は、よく知られた曲やロマン派の曲とは違ってクセがあるし、とっつきにくいところもある曲です。クラシック音楽のファンにしたって、入り込みやすい曲ではありません。
もしかして「難解な曲」と思われるかな、、、という不安もあったのですが、演奏終了後の盛り上がりを見て、やっぱり音楽は伝わるものなんだと思いました。(一部の意味不明な現代音楽を除いて、ね。笑)

何分もの間、拍手とブラボーが続いて、リザも含めて演奏した4人そろって並んだところで、会長のFからお礼の言葉をいただきました。
が、そのとき、彼女の顔と声でびっくり。なんと彼女は泣いてるではないですか。

感動して涙が出たというのです。

この日、会場にいた人たちはみんな音楽ファンだけど、クラシック音楽のプロのコンサートとかにはめったに行くことがない人がほとんど。そんな人たちに私たちのショスタコはインパクトが強かったのかな?
私たちも完璧な演奏とはとても言えない、あちらこちらでちょっとしたへまとかもあった演奏だけど、でも息はぴったりで、集中力もばつぐんで、そして何より楽しめました。
そのお返しに感動して涙が出たと言ってもらったのは、素敵なサプライズでした。

終了後、みんな笑顔で、このコンサートを企画したこと、生徒に指導したこと、準備に時間とエネルギーを費やしたこと、そして演奏に対してたくさんのありがとうをもらいました。
何より参加した生徒たちがみんなほんとにうれしそうに帰って行ったことがうれしかったです。



企画して正解。
実行して正解。

これは今後、毎年恒例の行事となりそうな予感です。

この後、マチアスとマリーとは打ち上げとして食事に行って、「毎年ピアノトリオを一曲!」という目標を掲げました。
フォーレ、ショーソン、ラクマニノフ、etc.etc. 楽しみです!

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