今日の話題は4月12日のこと。
例のショスタコヴィッチのピアノトリオのコンサートから間もない月曜日。音楽学校でレッスンをしている最中に電話がなりました。
生徒かと思って電話に出ると、常勤スタッフではないけれどオペラjrの宣伝広報を担当しているEでした。
「leonardo ボンジュール! 元気かしら?」と話しだされて、こっちは生徒もいるのであんまりゆっくりしゃべれないな、と思っているところ、彼女はいきなり大きな話をしてきました。
「モリエールって賞を知ってる?毎年、舞台演劇の優秀な作品や俳優たちを選んで表彰するんだけど、いわば演劇のためのオスカー賞とかヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュジークみたいなものなのよ。」
「ああ、それなら知ってるよ。毎年テレビでセレモニーしてるやつだよね?」と返すと、「そうそう、それよ。」とEは続ける。
「実はね、表彰されるカテゴリーの中に、Jeune Public というのがあるのだけど、今年からその表彰式だけをフランスの地方ですることになって、私が働いているヴィルヌーヴ・レ・マグロンヌの劇場が選ばれたのよ。で、ディレクターと話していて、私たちのホールにはグランドピアノがあることだし、お客さんが席につく間とかにピアノ演奏があったらいいわねえ、ということになって、leonardoがいいんじゃないかと思ったのよ!モンペリエ周辺の重要人物とかたくさんくるし、格調のあるセレモニーにしたいのよ。もちろん出席者はみんな正装だしね。」とおっしゃる。
私はどういう状況のことを言ってるのかいまいちわからなかったけれど、一応、「ふんふん、、、」と聞いていました。
ヴィルヌーヴ・レ・マグロンヌというのはモンペリエの隣町で海沿いにあるVilleneuve les Maguelonne のこと。中世の古いカテドラルが有名です。
このEがそこにある劇場で働いているということは知っていました。でもなんせ小さな町のこと。劇場と言われても、一体どんな劇場があるのか想像もついていませんでした。そこへその劇場がモリエールの賞の表彰式の会場に選ばれたとかいうから、まるでちんぷんかんぷんだった私。
でもさらに驚くことにEは「でね、このセレモニーは来週の月曜日のことなんだけど、どうかしらleonardo?」というではないですか。
「ええ!?来週の月曜日のことを言ってるの?」と私。
モリエールの表彰式は毎年テレビで生中継されて、フランスの演劇界で歴史あるとても大切な賞だということは十分に認識していました。映画でいうカンヌ映画祭やセザール賞みたいなもんです。
でもそのjeune public だけ地方でうんぬんというのがどうもよくわかりませんでした。普通jeune publicというと、小中学生を始めとする子供たちが学校のクラスと見学に来たりするときのことや、教育目的の作品のときのことをいいます。
私が「??」と思っている間にも、むこうは話を続けます。
「ところでleonardo 、演奏のギャラはいくらとるのかしら?」と。
これまた唐突ですね。こうなってくると、私は目の前に生徒がいるし、時間も押してるし、「ごめんなさいE、30分後位に電話かけなおさせてもらっていい?私、実は今ちょっと手がふさがってて、、、、。」と言って一旦は会話を終了させてもらいました。
実は、このEという女性と私は親しいわけでもなく、あんまりいい印象ももってなかったし、あまりに突然の話だし、月曜日の夜は音楽学校でレッスンをしているうえに、今年のスケジュールは無茶苦茶に乱れてしまって、月曜日の生徒さんにきちんと決められた数のレッスンを年度内にできるのかどうかで四苦八苦しているところ。そこへさらにレッスンなしで補講とかってことになったらさらに大変なことになる。
どうもいい予感がしない。。。
そこで、先ほどの電話で私はとっさの反応として、「でも、19日は私仕事でふさがってるわ、、、。」と言ったのです。
でも電話を切ってからレッスンをしつつ、頭の中でちょっと考えた私。
なんだかよくわからない仕事の話だけど、私が一人でお客さんが席に着く間に演奏するってことは、日本で私がよくしていたレストランとか結婚式場でのムード音楽の演奏ってことでいいのかな?モンペリエでは伴奏ピアニストとしての仕事ばかりしてるわけだし、たまにこういう話がきたときに乗っておいたほうがいいのかな?とかグルグルと。
で、約束の時間に電話をこっちからさせてもらいました。
「あのね、もう一度詳しい話を聞かせてくれる?ムード音楽を演奏するってことでいいの?」
そこでEは19日のセレモニーではJeune public にノミネートされている作品を紹介して受賞者を発表するだけの短いものだと。でもモンペリエの政治家やモリエールの主催者のえらいさんとかがいてスピーチをするから全部で30分くらいかしら、とか説明してくれました。さらになんとかという俳優さんが特別ゲストでくるし、、、とか。そしてその日の模様はテレビ用に撮影されて、一週間後のモリエールの受賞セレモニーがテレビで生中継されるときに5分間録画放送されるんだとか。
「わかった。じゃあ、落ち着いた感じのクラシック音楽とジャズと映画音楽とか、私が自分で選んだ曲でいいのね?もし何か特別な指定とかあるのなら、また話は別だし、、、、。」と言いながら、19日の仕事を移動させれるか見てみる。と返事をしました。Eの方も私が申し出たギャラで劇場のディレクターがOKか翌日に電話で伝えると言われて電話を切りました。
それにしても相変わらず驚かされるわけなんですけど、なんでそんな大事なセレモニーの運営、進行について今頃話あってるんだ?だいぶ間からセレモニー会場に選ばれたことくらいわかってたんでしょ?と思ってしまう。
やっぱり恐るべしフランス人。
さて、翌日の火曜日。約束通りにEから電話がきました。
ギャラの面では問題ないとのこと。私のほうもなんとか都合はつけると返事しました。
ただ、あいかわらずはっきりとしないのが演奏内容と演奏時間。
まずは「で、ピアノはどこにあるの?ステージの下とか?」と私が尋ねると、「いいえ、ステージの上よ。」うちはちいさな劇場で、オーケストラピットみたいなものはないんだし。」と言うではないですか。「え?ステージの上で私弾くの?それだとムード音楽を弾く、っていうのとなんか状況が違うんだけど、、、。せめてステージの隅っことかよねえ?」と私が聞く。Eは「ステージの真ん中かすみか、わからないわ。まだ何も決まってないもの。」と言う。え?まだ何も決まってない?
さらに私が改めて、「私が勝手に好きなように弾いていいのね?」と念を押すと、「それについては今週末にしか返事できないわ。」と言ってきました。
え?!今週末って、セレモニーは6日後にせまってるのに、セレモニーの3日前にしかわからないってどういうこと?3日前になってあの曲を弾けだの、言われたって困ります。
私がしつこく「3日前に突然言われても準備の状況とか全然違うわけだし、、、、」と言うもんだから、Eも「でも何か特別なものを指定するなんてことはないと思うわよ。」というだけ。
なんだかよくわからないけど、「はあ、、、、、」とあっけにとられて、一応私がそのセレモニーで何かを弾くらしい、、、、というあいまいなことだけが決定されたのでした。
さて、続いてその週末、金曜日の夕方のこと。
仕事も終わって友達とカフェにいた私に電話がかかってきました。Eです。
「あのね、leonardoにしてほしいことを言うわよ。ピアノはステージの上にあるの。でもお客さんたちがホール内に入る間、幕が下りてるからお客さんからleonardoの姿は見えないの。その間、だいたい15分から20分くらい、バックミュージックを弾いてほしいのね。それから重要人物がスピーチをするのだけど、客席から壇上に上がる間の時間を何か音楽でつないで欲しいのよね。」という。
ここで彼女が言った言葉は厳密に言うと、「いくつか音を鳴らして欲しい。」というものでした。
スピーチする人が壇上にあがる間の音楽と言えば、アカデミー賞とかいろんなセレモニーで見られるようにオーケストラがちょっとしたパッセージを奏でるのをよく聞きますよね。どういう音楽を求められているのかは私だってすぐにわかります。でもそれを「いくつか音を」とか言われて、なんかすごく適当にしかも簡単そうに言ってくるなあ、とちょっとムカっとしました。なんせもともとあまりいい印象をもってない人なもんですから、、、、。
彼女が言うには4人スピーチが予定されいるので、それぞれが壇上に上がる間と客席に戻る間に音楽が必要なんだそうです。
それから彼女は続けます。「スピーチが終わってから幕があがって子供たちがステージ上にあるブランコに向かうのだけど、そのときに何か一曲弾いてほしいの。leonardoが弾いているときに幕があがって、leonardoの姿が現れるってわけ。」と。
「はあ、、、、」と聞く私。
「それからはまあ普通の受賞セレモニーなのよ。leonardoには多分一旦ステージから去ってもらうことになると思うんだけど、受賞が発表されて全部終わってから、もう一度最後に一曲弾いてほしいの。leonardoの演奏で式を終えるというわけ。」という。
ていうか、それだと私は完全にセレモニーの進行の一部になってるじゃないですか。
大事な存在じゃないですか。
それでは「軽くバックでムード音楽を演奏する」と思ってお願いしたギャラともなんかずれてくるような、、、、。
あっけにとられて「ていうか、だいぶ話が違うんだけど、、、」という私にEは、「そうなのよ、変わったのよ。」とあっさり言う。
私が「2曲を弾けと言われても、、、、」と言うと、Eは「leonardoが知ってる曲でいいのよ。もちろん。ほらフォーレとか。」と、オペラjrで昨年のコンサートがフォーレだったことや、私がフォーレを好きなの知っていて言ってくる。さらには「なんならゴールデンヴァニティーでもいいのよ。」とか言ってきました。
え?Golden Vanity って子供が死ぬストーリの曲なんですけど。。。。
冗談にしても悪い冗談だし、適当に言ってるのなら適当にもほどがあると思って、私もブチッ。。。
しかも「明日、ブランコに乗る子供たちと練習が予定されてるんだけど、leonardoも来てくれないかしら?」と言われました。
このところぶっ通しで仕事をして、日曜日なんて5週間に一回とかしかないペースで、その貴重な日曜の休日が18日だったので、「。。。。。」と止まってしまった私。
セレモニーで大事な役目を担ううえに前日にも来いと、、、。
そこでむこうからすんなりと「ギャラはそれなりまた変化させるから。」とか言ってくれてたらいいのに、なんにも言ってくれなかったんです。
もちろんこっちもお金お金という意識はないけれど、ちょっとしたことですっきりと居心地よくなったり悪くなったりするというもの。なんせ、いい印象をもっていなかった彼女ですからね。(ってしつこいですが。)
「はあ、、、、、」ととにかくあっけにとられたまま、セレモニーで私が何かを弾くということは決めてしまってあったのだし、事前にどんなホールでどんな場所で弾くのかぐらいは知っておいたほうが私自身のためだと思って、結局は日曜日に出向くことをOKしました。
というか、金曜日の夜も、一日中仕事をしたあとの土曜日の夜にあわてて曲選びをしてピアノを弾いて準備したのはいうまでもありません。
そうして4月18日の日曜日。
気持ちよく晴れた日曜日。せっかくの貴重な休日だったわけですが、午前中の約束をいいわたされたのでマグロンヌに向かう私。
しかし!!こういう時に限って車がおかしい!!
前の古い車の時代には毎日のように車の故障にはらはらさせられていた私ですが、車を変えてからは日本にいたときのようにすっかり安心しきっていました。
車は動くものと信じ切っていた私は車のトラブルにめっきり弱い。
さいわい駐車場に洗車をしているムッシューがいたので、助けをもとめに行ってなんとか車も動くことができました。
マグロンヌはカテドラルと刑務所がある街という認識しかしてなかった私。
街の中に入ってみれば、モンペリエ周辺のそのほかの村、街と同じで、住宅地という感じでした。
その劇場というのはいってみれば公民館のような建物の中にあるホールのことでした。200席の小さなホール。とは言っても、ちゃんとした作りで、客席は立派なシートでひな壇式になってるし舞台には照明とかひと通りそろってるしちゃんと音声や照明のミキサー室もありました。
ああ、こんなところにこんなホールがあるのか、と驚いた私。
Eに出迎えられてホール内に入ると、4、5人の子供たちが一人の女性とリハーサルみたいなことをしていました。
そう、その女性がこの劇場のディレクターでした。
「日曜日にわざわざきてもらってありがとうございます!」とかなり熱烈に迎えていただきました。
子供たちにも紹介されて、「わ~、この人がピアニストなのね~!」と言わんばかりのキラキラした目で迎えられてちょっと照れちゃったりして。
まずは、とコーヒーを頂いたのですが、そこでディレクターさんが「実はさっきこの子がショパンのなんとかをポロポロと弾いてたんだけど、私、それが気にって!どうかしら明日に?」とか言ってきた。
「え?」。。。。。
セレモニーの前日に結局は曲を指定してくるんですか?とあっけにとられる私。
一応気をとりなおして、とりあえずはぶっつけでリハーサルということになりました。
つまり、カーテンが閉じられて、「はい!客の入場!」とか叫ばれて私は弾き始めるわけです。私は勝手にリストアップしてきた曲を弾きました。
するとまた驚くことに、「それ!気に入ったわ!なんという曲?」とか「はい!次の曲に行って!」とか言われる始末。え?あなた今選んでるんですか?という感じ。あいかわらずわけがわからない私はとりあえず考えてきた曲を弾き続ける。
私は30曲くらいをムード音楽として選んできたわけです。とくに授賞式なわけだから暗い曲や悲しい曲、重い曲は避けて、明るく穏やかな曲をメインに選んできました。
私が弾き始めて4曲めくらいで、「それ!それよ!」とディレクターさんは叫び、「子供たちがブランコに行く時はそれにしましょう!」と早々と一曲が買い取られました。
先ほど言われたショパンのなんとかは結局ワルツだったんですが、短調のワルツで、私は適当にならすぐに弾けるけど、人前で、しかもステージの上で翌日に弾くというのはどうもしっくりこなかったので、「これはちょっと暗くないですか?」と難癖をつけて却下させてしまったりしました。(笑)
私もたくさん曲を用意してきていたわけですが、結局ディレクターさんは、子供たちがブランコに行く時の曲とセレモニーの終わりの曲を選び、お客さんが客席につく間は「あなたの好きなようにしてくれていいわ。」と言いました。
「それにしても、あなたにはまたぜひ来てもらわないと!素晴らしいわ!ゆっくり聴きたいという思わされるもの!」と言ってもらい、よくわからないままここにいるけど、気にってもらえたのならよかった、と一安心。
それからスピーチのときの練習はというと、カーテンの向こうでディレクターさんが「どこどこのディレクターの○○氏!」と叫び、私が自作のちょこっと音楽を弾く。「はい!スピーチ終了!」と叫ばれて、今度は壇上から降りる間のためにちょこっと音楽を、、、。
もうなんだか笑えてくる状況でした。
そんな大事なセレモニーを翌日に控えて、よくもまあこんな土壇場で、、、、。
そんなこんなでなんかわけわわからないままに、リハーサルも終了。
「それじゃあ明日!よろしくね!」と言われて去る私。
マグロンヌのとなりはパラバスのビーチです。
天気もいいことだし、海岸沿いに車を走らせて、ちょっと海を眺めてぼ~っとしてみました。
相変わらずの地中海です。
青い空と青い海。波の音とヨット。
なんだかこのシーズン、すごい仕事をしてきたけれど、こんな近くにこんなきれいな海があるんだな~、って改めて気付かされました。
この日は人影も少なく、ピクニックしてるカップル、そして一人で服脱いで日光浴している青年、、、。
平和な風景ですね。
私はこの後、家に帰ってから最終的に選ばれた曲とお客さんが会場に入る間の音楽としてメドレーの順番を考えたりしてピアノに向かいました。
当日の様子はまた今度お伝えします。
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