2010年6月19日土曜日

新しい職業?

気がついたらもう6月も下旬。

なんてことでしょう。昨年末に日本に帰省してからというもの、あれよあれよと仕事をこなしているうちに6カ月が過ぎてしまいました。あっという間でした。。。

フランスでは学校やスペクタクルの世界は9月始まり6月終わりのサイクルなので、ただいま年度末なわけです。高校3年生は今週バカロレア(高校卒業資格のような全国統一試験)を受け、中学生3年生にはまもなくブルベといわれる高校入学資格のような全国統一試験があり、さらにあらゆる方面で年度末の行事が行われます。その他の子たちはもう半ばバカンス気分。大学生はすでにバカンス。
みんなが「vivement les vacanaces !」(バカンスが待ち遠しい!早く来い来いバカンス!)と叫んでます。

私も例にもれず恐ろしいスケジュールの5月と6月をくぐりぬけ、「あと少し!」と言い聞かせてるところです。

そんなわけですっかりブログが停滞していましたが、お伝えしたい話はたまる一方。
もともと日本にいる家族や友人に近況報告をするつもりで始めたこのブログですが、今やあちらこちらでこのブログをのぞいてくれてる方がいるんだということがわかりました。いろんなキーワードでインターネット検索してたら何気にここにたどりついた、って方の声をちらほらと聞きます。
そんな方の中からこんな突っ込みをいただきました。
「leonardoのブログで『続きはまた今度!』というのがよくあるけど、その続きを楽しみに待ってるのに続きがない!!(by Yさん)」と。(笑)
確かにそのパターンが多いような、というかそのパターンでブログが停滞することばかりのような気が。。。
でもたまってる話は時間ができたら必ず、話の続きも含めてお伝えしますからね!

さて、今から一カ月ほど前のことでしょうか、7月にモンペリエで開催されるラジオフランスのフェスティバルの事務長さんからメールが来ました。

「元気ですかleonardo?今年も4つのコンサートで字幕操作を担当してもらうことで了解ずみというのを確認しました。が、実はそのうちの二つのコンサートのために、leonardoご自身で字幕のファイルを制作してもらうことは可能でしょうか?楽譜上で字幕のキュー出しのわりふりをし、文字数、バランスなどを考慮しながらパワーポイントでファイルを作成してもらう作業です。」との依頼でした。

普段、私がオペラ座やフェスティバルのために字幕操作の仕事をするときは、すでに翻訳の作業とパワーポイントの制作の作業が完了済みで、私はただキュー出しの指示にしたがって音楽を実際に聞きながらパワーポイントのページを変えていくという仕事をしているだけです。今年のフェスティバルでもこの仕事をすることは、1月末の段階で決まっていました。
どのオペラ座でも字幕操作を担当するピアニストがしている作業はこれのこと。誰もその字幕のファイル作りには関わっていないはずです。

しかし今回、なぜか私にそれをやってくれないか?という話なわけです。
もちろん翻訳の作業は別の人がするか、すでに存在しているものを使うので、私の仕事は楽譜と訳詞が材料。
正直、やったことがない作業だし、フランス語の文章のバランスを字幕という観点からそれなりに修正したりもしなきゃいけないということで、私の母国語じゃないし、、、とためらいはみせながらも、「どうするべきなのか、何がもとめられているのか、というのはだいたいわかりますので、十分な時間を与えてもらえるのならやってみたいと思います。」と答えました。

この仕事をするにあたって、パワーポイントが扱えて、楽譜が読めて音楽がわかって、そして必要なときにはフランス語をコンパクトにまとめることができる、というのが条件なわけですが、はっきりいってそんな人、他にも見つけられるだろうというのが私の正直な感想です。なんせ依頼主はラジオフランスのフェスティバルですからね。彼らはフランス最大のラジオ局「Radio France」なのですから、そういった人材や人脈には困らないはず。 お金だってあるだろうし。
そこがなぜかモンペリエの外国人の私に話が来た。
私がコンサート当日に字幕の操作をするということが、彼らにとって何か都合がよかったのだろうか、、、?それともモンペリエにいるということが有利なことだったのだろうか、、、?

いずれにせよ、「私は未経験者で外国人ですから!」と改めて言っておいたので、「やっぱり別の人にしてもらうことになりました。」という連絡がきて当然と思っていました。

そしたら数日後、「お返事ありがとう!」と言ってきて、報酬や提出期日に関する具体的な仕事契約内容についてのやりとりに進みました。

そんな中で「ギャラは著作権として支払うということでいいですか?」と聞かれたのです。

7年前の私なら、仕事上で相手が言ってくることになんでもOKしてしまっていたでしょうが、フランスで仕事をしているなかで学んだことは数知れず。「著作権?ちょっとまてよ、、、」と思い、周辺の人たちにアドバイスを求めました。
するとやっぱりいろいろなからくりが潜んでいることがわかりました。報酬の額面の値段と手取りで残る値段と、さらには社会保障のパーセンテージなどなど。雇い主側の損得と雇われ側の損得とがいろいろとあるようです。
まあ、私の身分、私の労働環境がけっこう特殊なために、厳密なところまでは把握できてないんですけど、今回のところはとりあえず「著作権ではなくて給料として報酬をいただきたいです。」とお願いすることにしました。

それから提出期日についても、6月いっぱいまでといわれたのですが「今、コンサートとかいろんな仕事を抱えているし、初めての仕事ということで、もう少しだけ日数をもらえたら落ち着いてきちんと取り組めるので助かりますが、、、。1週間プラスしてもらえますか?」とお願いしました。

結果的に両方ともOK。
期日については「わかりました。ただもし何かあったら直ちに知らせてくださいね。フェスティバルの開始直前になってトラブルが判明ということだけはごめんなので。」と言われました。

これには「もちろんです!」と応えて気持ち良く交渉成立。

おもしろいのは、今回のやり取りの中で、私が「やったことありません。」というスタンスを出して、「私にはこの仕事は楽々できます!おまかせください!」という姿勢ではなかったことから、相手方にいろいろと気遣いをしてもらったこと。というか、単に心配させてしまってるということなんだろうけど。
例えば、私が念のためにと思って、打ち込む文字のポリスの種類や文字の大きさについて質問をしたら、「あなたの方が普段から現場にいるわけだから、あなたの方がいろいろとご存じでしょう。」と言ってきて、「誰かアドバイスを頼める人はいないかしら?モンペリエのオペラ座の人たちとはどうかしら?」と心配され、「昨年の字幕ファイルを送ったら参考になるかしら?」と気遣いをしてもらいました。
「ちょっと待って、、、、、あ、私の手元に○○と△△と□□と、、、、があるけれど、、、、、、。」と言うので、「いえいえ、一つだけでも送っていただけたら参考になって助かります!」と言いました。

しかも私にとったら、この仕事に関してアドバイスを求められる人というのは、モンペリエのオペラ座でいつもこの仕事をしているJ=M。
早速会いにいって、「実はね、フェスティバルのために私が字幕のファイルを作ることになったのだけど、2、3、質問してもいい?」とお願いしました。
そしたら彼は「パワーポイントの使い方は知ってるの?」というから、「まあ、だいたい。」と応える私に、「全然ってことか。」というんです。(笑)

みなさん、わかってもらえるでしょうか?ここに日本とフランスの違いがあるんです。自分の能力についてしゃべるとき、日本人なら確実なこととか自信があること以外は、見栄をはることは避けて正直に、さらにはちょっと控えめに謙遜も含めて話すと思うんです。
でもフランス人はアピールがすべてです。自分にはこれができるあれもできる、というのを見せるのです。まあ、それならいいことなんですけど、実は落とし穴があります。

例えばよくある例で、英会話力について比較してみます。
日本人に「あなたは英語をよくしゃべれますか?」と聞くと、「少しは。」とか「基本的なことは。」とかいう返事が多くて、そこに「発音下手ですけどね。」とか「旅行で困らない程度。」とか付け加えられます。
どんなにペラペラでネイティブ並みに話す人でも、「英語を上手にしゃべれるか?」という問いに、「はい。」とシンプルかつ100%肯定の返事をする日本人はあまり見かけないと思います。

ところが一方フランス人に同じ質問をすると、「まあ結構やりくりできるかな。」とか「まあ、結構できるかな。」という返事が結構多いのです。

でも実際は、「少しは」と答えた日本人のほうが、「まあ結構やりくりできてる。」と答えたフランス人よりもずっとか上手に英語を話す、ってことがほとんどなんです。(笑)

おもしろいですよね。

そんなことがあるので、私がパワーポイントを扱えるかという質問に関して、私はパワーポイントで実際にファイルを作成したことはないし、パワーポイントを使って発表とかしたこともないし、ただ一度だけパワーポイントの翻訳をしたことがあるから、どういうものかというのは知っているので、「だいたいはわかってる。」と答えたのは事実なのです。

でもそしたらJ=Mは「全然てことか。」なんていうから笑えちゃいました。

まあ、意地悪でもなんでもなくって、「おいで。」と言って彼のパソコンで実際の字幕ファイルを見せながら説明してくれたのです。

ただ彼も「leonardoがファイルを作るの?!」と驚いてましたけどね。

その数日後、例の事務長さんからまたメールが来て、パリに住むこの仕事のプロの連絡先をくれたのです。「先日あなたに送った過去の字幕ファイルはこの人が作ったものです。彼女は私たちのために何年も前から字幕ファイルを作成している人です。もし質問や困ったことがあったら彼女に電話してください。あなたから連絡が来るかもしれないということは彼女も了承ずみです。」とのこと。

私はJ=Mの他にも一人、あちこちのオペラ座のためにこの仕事をしているRを知っています。彼はイギリス人なんですけど、ハンガリー語のオペラやチェコ語のオペラ、ロシア語のオペラの字幕とかも担当しています。
で、私はすでに数人の人が作った字幕ファイルを見てきたのですが、それぞれの人によって多少違う点とかあるわけです。だから私は自分も一番慣れていて仕事がしやすいJ=Mのバージョンにのっとってファイルを作成することにしました。

でもそれにしても、事務長さんの気遣いは親切ですよね。
逆に私が未経験者ということで心配させちゃったのかな?

ま、そんなこんなで怒涛のスケジュールに新たな仕事が加わったのでした。
しかも初めての仕事。

今回私が作成するのは、ダンディ作曲(Vincent d'Indy)のオペラ「L'Etranger」、レーガー作曲(Max Reger)のアルトと合唱のための「レクイエム」、そしてバーンシュタイン作曲の(Leonard Bernstein)交響曲第三番「Kaddish」の字幕ファイルです。
「カディッシュ」はかろうじてCD録音が存在しますが、いずれもメジャーな曲ではありませんね。「L'Etranger」に至っては完全に無名の作品。演奏会で耳にすることもない作品ですから、誰も知りません。あるのは楽譜だけ。

仕事を引き受けたのは3週間前ですが、作業に取り掛かりだしたのは三日前!(笑)
だって忙しかったんだもん。。。
今も忙しいけどさすがに閉め切りが近づいてきますからね。
それにフランス語に関しては、提出する前に誰か友人に一応チェックを入れてもらわないと。。。

日本語での仕事ならやっぱり勝手が全然違うなーと感じながら、土壇場で作業に取り掛かっている私でした。

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