2010年7月24日土曜日

バーナード・ハーマンのオペラ

みなさんはバーナード・ハーマンと聞いてすぐに誰だかわかりますか?

Bernard HERRMANN (1911-1975)はジュリアード音楽院で学んだアメリカの作曲家です。ヒッチコック映画の音楽を手掛けた人として知られています。ロバート・デ・ニーロ主演の「タクシードライバー」の音楽も彼の作品です。
映画音楽について研究をしていた私にとっては、歴史上重要人物の一人です。

彼は映画音楽だけではなくて、交響曲なども作曲しました。

そして実は今年のラジオフランスのフェスティバルで、彼のオペラが演奏されたのです。

昨年暮れの時点では、スカルピタ氏の演出による舞台バージョンで公演されると聞いていたのですが、結局は演出なしのコンサートバージョンとして、7月14日の夜に演奏されました。

このオペラのフランス語タイトルは「Les Hauts de Hurlevent」、英語原題は「Wuthering Heights」。ご存知の方はすぐにわかるんでしょうが、私は有名な小説であることはわかっていたのですが、あまり気にも留めずに仕事に取り組んでいたんです。そしてコンサート本番が終わってから、この作品が超有名な小説をもとに作られていたことがわかりました。

ハーマンのオペラというのは「嵐が丘」だったのです。

小説はもちろん、映画とかいろいろな形でたくさんの成功をおさめてきた作品ですよね。実は私、読んだことがなかったので、スト―リーを知らなかったんです、、、。

このコンサートの字幕操作を担当したので、オペラに使われた部分のストーリーはすっかり理解してたんですけど、これが「嵐が丘」の話なのかとわかって驚くやら納得するやら。

さて、このコンサートの指揮はアラン・アルティノグル氏(Alain Altinoglu)。いつかブログで彼のことを書きたいと思っているのですが、彼は私とほんのちょっとしか年も違わないんです。でも、もうメトロポリタン劇場での指揮デビューも果たしていて、フランスの若手どころか、フランスを代表する指揮者へと、着々とステップアップしているすごい人です。

彼の指揮のもと、モンペリエ・オーケストラと共にロラ・アイキン(Laura Aikin)など豪華な歌手が顔をそろえました。

このオペラには合唱パートがなく、唯一第一幕の終わりで登場するクリスマス・キャロルを歌う若者たち、という設定で短い4声のアカペラ合唱があります。

このパートを託されたのがオペラjrのLe Groupe Vocal だったのです。

彼らは先日の記事にあるように、「嵐が丘」の練習をこなしつつ、本番の前日には別のプログラムでラジオ出演生演奏をしてきました。

アカペラである上に、最後に登場するバス・クラリネットの不協音との摩擦で音程上微妙で難しいパートでしたが、彼らのさわやかな歌声はたくさんの拍手を浴びていました。




「嵐が丘」は復讐劇なだけに、ハーマンの音楽もヴァイオレンス度の高い部分やスリリングな部分が多く、亡霊のシーンもミステリアスな雰囲気が出ています。不協和音や大音響もあちらこちらにあり、騒がしいと思う人もいると思いますが、私としては音楽的に楽しめました。

でも一番の不満は、やっぱり演出つきで見たかったというところ。

ハーマンの音楽は情景を浮かび上がらせてくれるので、それは素晴らしいことだけれど、やっぱり演出とともに楽しみたかった。これは大半のお客さんの感想だろうし、メディアの批評も同じ意見でした。

まあ、作品として「オペラの大きさに達していない。」とかいう批判もいろいろありましたけどね。

予算の問題や時間の問題で演出つきの上演が簡単にはできないということはわかっていますが、やっぱりオペラのコンサートバージョンほどおもしろくないものはない!と思います。

ラジオフランスのフェスティバルでは無名の曲、忘れ去られた曲を演奏するという目的意識は高いのですが、そこをなんとかあと一声、というところですね。だって今年のプログラムでは、オペラのコンサートバージョンが普段以上に多かったんだもん、、、。

ちなみに指揮者のアランは、「ハーマンは映画音楽を書くのと同じようにこの作品を書いたんだと思う。その結果、楽器の音量やオーケストラと歌手とのバランスの面で少々問題がある、、、、。」と指摘していました。指揮者ならではの苦労話ですね。

めずらしい作品ということで、各国からのプレス、批評の方々が来ていますが、どうやら日本から来ていらっしゃる人もいるようでした。どんな感想を抱かれて、どんな記事を書かれるんでしょうか、、、。

コンサートが終わってから、いくつかの批評記事を読んだんですが、一番話題として取り上げられていたのがイザベル・リントン役を務めたマリアンヌ・クレバッサ(Marianne Crebassa)。実は前にも彼女のことをブログで書いていますが、彼女はモンペリエのコンセルヴァトワールで学んだメゾ・ソプラノ。学業を終えたばかりでまだまだ若い子です。数年前にクリング氏の目にとまってから、ちょくちょくと小さな役やコンサートでのソロなどを与えられていました。

が、今年のこの役は今までとは違って大役だったのです。単に歌う部分が多いだけでなく、ドラマチックな要素が求められるパート。

さらには作曲家が楽譜に「できるならば歌手自身が演奏してほしい。」と書き込んだように、イザベル・リントンがピアノに向かって弾きながら歌うという場面が設定されており、マリアンヌがコンセルヴァトワールでピアノも学んだということを知っているクリング氏の判断から、彼女はステージ上にセットされたコンサートサイズのグランドピアノに向かってピアノ弾き歌いということもやってのけたのです。

このことが聴衆やメディア、プレスからの大好評をかい、しかも若くてとってもきれいな子なので、誰もが「これからの彼女が楽しみだ。」とか、「これから彼女の名前をよく聞くようになるだろう。」ととっても好意的なフレーズを彼女に贈りました。

彼女はモンペリエでの学業を終え、来シーズンからパリのオペラ座バスティーユのオペラスタジオに研修生として受けいられることが決まっています。
輝かしい未来が待っていそうですね。

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