2015年3月9日月曜日

社会の縮図

私は現在、個人的にいろいろと難題を抱えています。健康問題と仕事のこととこれからのこと。全部がつながってしまっているからかなりやっかいです。

が、そんな私を雇っているモンペリエの国立オペラ座・オーケストラも、実はかなりの難題を抱えています。内部事情をこんなところで語っていてもよくないですから、あくまでメディアを通して世間に出回っている情報にとどめておきますが、倒産、閉鎖の可能性も含めた存続の危機についてのお話です。

お金がないというのは、今やどこの国の政府も頭を悩ませる問題で、フランスももちろん類にもれることはなく、連日、年金問題をはじめとする社会保障問題と失業者率問題とともに、それをカバー、ケアする資金をどこから作るかというところで論争が続いています。

どこから資金を見つけるか、というのは、新しく見つけるのはどこでも難しいわけで、「どこからお金を取り上げるか」 という単純な発想につながります。
そこで、まっさきに対象となる一つが、文化・芸術活動なのです。

お聞きになっているかもしれませんが、世界各地でオーケストラが活動休止、あるいは解散、閉鎖に追い込まれています。ローマの歌劇場のオーケストラと合唱団解散のニュースが昨秋世界を駆け巡ったのも記憶に新しいかと思います。
国は変われど、事情はどこも一緒なのです。


日本と違って、これまでフランスは文化・芸術活動の保護、支援を積極的に行ってきました。美術、音楽、演劇などなど、どの分野を見ても、公的な支援、助成金によって資金の大半が保障されていました。その成果といったら、「素晴らしい」としか言いようがないほど、さすがは文化大国フランスです。日本では見られないようなありえないような政策をとって、文化・芸術の促進を可能にしてきました。
しかし、ここ数年で、これまでのようにはやっていられないと、文化、芸術活動を支えてきた助成金の大幅カット、あるいは全面カットが各地で発表されてきました。

公的な支援といっても、そのレベルは様々です。国レベルでの援助、つまり政府からの援助だったり、文化庁からの援助だったり、いろいろあります。 その下には地方レベルの援助。つまりモンペリエでいうとラングドック・ルシオン地方が保障している助成金です。さらにその下には県レベルでの援助があり、モンペリエではエロー県の管轄にあたります。その下には今度はアグロメラシオンという地域共同体という枠組みがあって、モンペリエとその周辺の村々が一緒になって構成しています。このアグロメラシオンという枠組みは、つい最近に、メトロポルという新しい枠組みに再編成されました。この話はまた別の機会に話したいと思います。このメトロポルの下には、それに参加する市町村それぞれの枠組みがあります。モンペリエで言えば、モンペリエ市にあたります。
これまで、勢いがあったり活動を認められていた団体は、このそれぞれのレベルから助成金をもらっていました。

私の勤め先であるオペラ座・オーケストラもその一つです。国、地方、アグロメラシオン、市と、それぞれから大規模な助成金を受けて、運営が成り立っていました。
もともとは、オペラ座、オーケストラ、オペラjrという三つのばらばらの組織だったのが、今では皆が合体して一つの組織となっています。
勤務しているのは総勢250名近い人々です。中にはミュージシャンが全部で130人ほどいて(オーケストラのミュージシャンが100人近くいて、オペラ座の合唱団が30人ほど)、残りは舞台技術関係の人と事務職の人です。舞台技術関係というと、オペラ座なだけに、大道具、小道具、衣装、メイク、照明さんなど、かなりの人数の人が働いています。そして事務職というと、会計とか広報とか、そういった役職があります。
この大所帯の組織も、数年前から助成金の大幅カットという厳しい波にもまれ始めたのでした。

地方からの大幅、しかも突然のカット宣言、県の撤退など、気がつけば支えてくれてるのはアグロメラシオンだけ、というに近い状態になってしまいました。

かつてモンペリエにはジョルジュ・フレッシュという文字通り王様的な政治家がいました。モンペリエが一地方都市から今ではフランス有数都市のひとつにまで発展したのには、彼の貢献が大きいです。例え敵も多かろうが、この点に関しては反論できる人はあまりいないでしょう。
そんな彼は生粋の左派社会主義の人で、文化・芸術の保護者でもありました。その彼が急死して世を去ったことから、モンペリエの政治事情が不安定になり、文化・芸術をめぐる政策も二転三転しているうちに、みるみるうちに下り坂となってしまったのです。

この収入の大幅な低迷に加えて、もちろんもう一方にも大問題がありました。それは支出。
ここ数年に渡って、この組織を指揮ってきた方々は、自分たちの給料だけはしっかりと、しかもがっぽりと確保されていたのです。

例えば、私がモンペリエに来た時にはすでに天下を治めていらっしゃったK氏。
彼は長年ラジオフランスでも業績を残してきた人で、音楽に関してはフランス当代きっての博識な人であり、自ら作曲家でもあったので、それはそれは膨大なネットワークをもっている人です。
この方、かつての王様ジョルジュ・フレッシュとは強力なタグを組んでいた人で、モンペリエの音楽界が急成長したのは、ひとえにこの二人のおかげです。
地方都市の一オーケストラに過ぎなかったオケも、いつのまにやら国立というタイトルを頂き、古典から現代音楽まで、幅広く演奏する優秀な交響楽団へと成長をとげました。オペラ座も同様、モンペリエ市管轄の一劇場に過ぎなかった時代から、国立というタイトルを掲げるフランス全国有数の歌劇場へと成長していったのです。

このような実績、成果は認める人が多いものの、このK氏、自分の懐にはがっぽりとお金を入れていったのです。
2009年の時点で、その額なんと月々23000ユーロ!!
フランスの普通の人が 月収2000ユーロとすると、その10倍を楽々と超す額です。フランスの国立大学教授の給料が月々5000ユーロとすると、楽々その4倍以上です。
つまり、フランスではとんでもない金額なのです。
なぜそんなことができたのか。そればっかりは彼の実力と実績を認めて、彼の要求通りにしてしまった当時の理事会の非もあきらかでしょう。けれど、それだけこのK氏はやり手だったのです。
組織の運営の上に、作曲はもちろん、なぜかオペラの演出にまで手を出し始めて、なんやかんやで執筆料だの作曲料だのと、臨時収入までもをどんどん上げていったのです。

別々の組織だったオーケストラとオペラ座を合体させて、いろいろと融通よく組織改革をしようとしたのはわかりますが、その二つの組織のトップにいるということで、自分の給料もどんどんあげていったのです。

しかも、私が毎年7月に働いているラジオフランスの音楽祭も、実は彼の力で立ち上げたもの。そのトップを務めるディレクターとしての給料も入っていました。

全部合わせていったいいくら稼いでいたのK氏???

世の芸術家と言えば、貧乏アーティストが大半ですが、彼は違いました。

でももちろん、いつの日か問題視されますよね。
2010年になったごろから、メディアが彼のことを騒ぎたてはじめました。
だってそれもそのはず、彼の給料は公的な資金から賄えられていたのですから。

そんなこんなで彼は引退に追い込まれました。
しかし、またもとてつもない退職金とともに去っていったのです。給料12か月分相当の退職金といいますから、、、。

そして不幸は続きました。彼が選んだ後継者が、これまた大問題へと化していったのです。
それがS氏。
世が世ならヴェルサイユ宮殿でルイ16世などのおそばでいろいろとしていたであろう人物です。つまり生まれも育ちも庶民ではない人。 貴族の家系の人であり、さらには有名人と友達になるのが大好きな人。彼の親友と呼ばれる人にはサルコジ元大統領の奥さんであるカルラ・ブルー二や、超大物映画俳優のジェラール・ドパルドューなどがいます。
このS氏はもともとオペラ演出を行っていた人で、さすがにK氏ほどの給料はとりませんでしたが、なんせ日常の暮らしが度を越した超ハイソな人。パリの某ホテルのスイートルームを自宅とし、モンペリエにいるときはモンペリエで一番の星付きホテル「ジャルダン・デ・サンス」に寝泊まりしていました。もちろんパリとモンペリエを行ったりきたり。モンペリエでもちょっとした移動には黒いハイヤーを出させて移動。
そんな彼の宿泊費、交通費などが、オペラ座から出されていたのです。

そんなこんなで、減る一方の資金に対して、過度な支出。
誰が見たって、資金管理がちゃんとできていたとは言えません。

S氏は250人のスタッフ9割近い人から不信任案をたたきつけられ、政治も取り込んでの大騒ぎとなりましたが、一部の支持も虚しく、結局は引退を余儀なくされました。
そしてもともとS氏が外部から連れてきたような上級管理職レベルの人々は、S氏と同様の高額な給料を得ていました。もともと存在しなかった役職、必要もなかった であろうポストが作られて、こんな高い給料があてがわれていたのです。こんな人達が2,3人いたのですが、彼らはS氏の失脚後、後を追うように去りました。
皆に残されたのは「あのポ ストはなんだったのか、あの給料はなんだったのか、、、」という想いです。

そこで新しくディレクターの座に着任したのが40代後半の女性であるC氏。
もともと歌手だった人で、オペラ歌手のマネージメントや地方オペラ座の事務長職なども務めてきた人で、現場の事情が分かる人として、皆の期待も高まりました。

当然、彼女に課せられた役目は、オペラ座・オーケストラの混乱を鎮めて、かつ、資金難を打ち砕くべく、組織の立て直しを図るというものでした。
それにしても、彼女にしてみたって難題です。だって、彼女が就任したときには、もう火の車だったのですから。彼女にできることだって限られています。しかも「国立」というタイトルをキープするには、シーズンの内容、質はもちろん、演奏される曲のジャンル、作曲年代、演目回数などなど、いろいろな条件を満たさなくてはいけません。

そこで発表されたのが、支出削減とそのための人員削減でした。
現在240人の所帯を少なくとも200人に下げなくてはいけないとのお達しです。
年金退職に近い年齢の者から立ち去ってもらう、そして6か月間、皆の労働時間を40パーセント減らして、給料もそれに伴ってカットするとのこと。 給料40パーセントカットに関しては、国からの援助が出れば実質4パーセントカットまでカバーされるとはいいますが、それにしても、、、。

何が起きたと思いますか?
当然、250人ほぼ全員の大反対です。
なぜかというと?
それは不公平だから。

まず、あまり外からは見えないけれど、この組織に務める人々にはかなりの格差があります。管理職やオーケストラのミュージシャンたちは立派な給料と適度な労働条件が保障されている一方で、舞台技術の大道具さんや、劇場のお掃除隊員たちもいるわけで、彼らの給料はいたって質素。国が定める最低賃金に限りなく近いレベルです。
例えば月々6000ユーロもらって生きている人が4パーセントカットされるのと、月々1500ユーロでぎりぎりの生活をしている人が4パーセントカットされてしまうのでは、生活を賭けた問題としての重要さが違います。

さらにこの流れの背景で、隠れようとしていて隠れきれていない人々がいるのです。
例のS氏に媚をうってとりいって、自らの給料や労働環境の改善をゲットした人々。決して多くはないけれど、実際に数人いらっしゃいます。しかも皆がその事実を知っています。
不当としか言えない彼らの現在の給料を改めて見直したりする必要があるのではないか?

そして何よりも、働く私たちがすべてのツケを背負わなくてはいけないのか?私たちに罪と責任があるのか?ミュージシャンも事務職の人も、トップが言うように仕事をしてきただけなのに、トップが組んだシーズンのプログラムに沿って仕事をしてきただけなのに、、、。と皆が思うのは当然のことです。
しかも、立ち去った歴代のディレクターが、膨大な給料を得ていたことはもちろん、多額の退職金を得て去っていったとなると、我慢がなりません。

これはもう王様と庶民の格差問題以外の何物でもありません。

時は21世紀。中世の王様の時代なんて過去の話とは言ってみたところで、結局、現代社会には根深い格差問題があるのです。能力の違いという一言だけでは片づけられない格差が存在するのです。そして政治というものは、とある一部の人と強いつながりをもっていて、その人たちが思うように政治を行っているというのも否定しきれない現実なのです。

しかし250人の悩みは深刻です。だって、今この打開案を受け入れなければ、即閉鎖、解散ということになるほか、ほぼ道が残されていないからです。
そうすると250人の間にもひびが入り、分断が始まります。
どんな犠牲を飲んででも、組織の存続を大事とする人々もいれば、組織の存続を望むけれども、不当な政治、不当な決断の尻拭いをさせられるのはまっぴらだと主張する人ももちろんいます。
これから新しい仕事を探していける人もいれば、50歳も過ぎて今さら新しい仕事なんて探せないという人もいるでしょう。
しばらくの間、多少収入が減ってもなんとかやっていけるという人もいれば、今100ユーロ減ってしまったら食べていくお金が無くなってしまうという人もいます。

そういう意味では、この組織も社会の縮図でしかないのです。
いろんな立場の人がいます。
いろんな社会階層の人がいます。

いろいろなレベルで会議、面会、話し合いが行われていますが、どうなりますでしょうか。

先週、今週とまさにそんな緊張したやり合いが続いています。

ここ数年、この仕事場の事情や問題を取り扱いたかったのですが、同時に進展を見守っていたので、今日こんな状況でのお話となりました。
あくまで、こちらのメディアではもうすでに取り扱われている内容ですので、裏事情を伝えているというわけではありません。

そして何より、そんな事情はあったとしても、今のところ通常通りに作業も演目も行われています。
もしかしてモンペリエからオペラ座とオーケストラが無くなってしまうことも無きにしも非ず。
モンペリエ近郊にお住いの方は、ぜひまたプログラムをチェックして、コンサートに行ってみてください。

http://www.opera-orchestre-montpellier.fr/

また具体的な進展があったら、お伝えしたいと思います。

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