正直に言うと、私は小さい頃からずーっとピアノをしていて、高校も大学もクラシック音楽畑にどっぷりつかり、最後には音楽学という研究の分野にも踏み込んだにもかかわらず、実は長い間オペラが好きではありませんでした。多分、興味も持っていなかったというのが正しいか。理由は、私の性格上、わざとらしいこととか、おおげさなこととか、これ見よがしなこととか、そういった一連のことが好きじゃないんですが、オペラってまさにそれ(笑)、って思っていたんです。みなさんの中にはオペラ大好きな人や、私なんかよりもオペラに詳しい人もいるだろうから、「何を言ってるんだ」と思われるでしょうが、オペラは好きではなかったのが事実なんです。。。もちろんオペラの「音楽」は多少知っていました。有名なアリアだとか、有名な序曲だとか、耳では聴いて知っていたし、声楽科の友人たちの伴奏とかで勉強もしましたが、いつも部分部分だけだったのです。オペラを全幕見た、聞いたというのは、我らが大学の院生によるオペラだけなんです。しかもなぜか、私が在籍していた時はモーツァルト続きでしたね。この院オペラも楽しく見せてもらっていましたが、それ以上の興味はなく、自発的に本物のオペラを身に行くということは、日本にいたときに一度もなかったのです。
それが人生は不思議なもので、モンペリエに来てから本物のオペラの世界にどっぷり入り込んでしまったんです。「・・・しまった。」なんて言うと、嫌々こうなったと聞こえるかもしれませんが、そういうわけではなく、知らず知らずのうちに、何かの縁でこうなったんです。そして今では、「オペラなんて興味ない」という考えはがらっと変わり、オペラファンの人のように「オペラが大好き」というのとはまた違うんですが、オペラの舞台裏で働くようになったおかげで、オペラがもつ「いろいろな職業の人がチームワークでなしとげる大きな舞台芸術」という世界が大好きになりました。
この道のりは、まずオペラjrという団体のピアノ伴奏者になったことから始まりました。この団体についてはまた後日書かせてもらいたいと思いますが、彼らが子役や子供合唱などでオペラに参加するたびに、私も少しずつオペラの舞台の裏側に関わるようになったわけです。当初、自分自身は彼らのピアノ伴奏者でしかなかったわけですから、音楽的に関わるだけで、しかも実際のところは彼らが歌う部分だけ。それでも実際にオペラの指揮者がやってきて一緒に練習したり、オペラ座の合唱団との練習とか、本番前のオーケストラとの練習とかに立ちあうだけでも、オペラの音楽の裏舞台にじかに接することができたわけです。一本のオペラを準備するに当たって、どんな人たちが関わってるのかよくわかるようになりました。例えば、合唱には、Chef des choeur という合唱指導の人と練習ピアニストが欠かせませんし、オペラ歌手、ソロの人たちにとったら、chef de chant というピアニストが何よりも大切。日本ではドイツ語で「コレぺティ」と呼んでいるような気がしますが、このピアニストたちは本当にすごい。歌手よりもオペラをよく知り、歌手を指導するんですから。音楽的にだけでなく、言葉の発音、発声(しかも数ヶ国語です!)にも注意を配る、すごい職業です。
私も時々、chef de chantとしての仕事をすることもありますが、フランス人にとっての自国語が私にとっては外国語なので、道は厳しい。。。イタリア語、ドイツ語もあやつれたらいいな~なんて思いますが、まずは今いるフランスの言葉を、フランス人歌手に指導するなんてレベルを夢見る前に、普通にきちんと、外国人だからというごまかしをなくマスターしたいものですね。。。
オペラ音楽に関して、フランスで豊かだな~と思ったのはやっぱりそのレパートリーの幅の広さです。小さなオペラ座であるモンペリエでさえ、モーツァルト、ロッシーニ、プッチーニ、ワーグナーといった王道オペラだけではなく、バロックオペラから現代オペラまで幅広く公演しています。バロックオペラでは、オーケストラもバロック楽器によるバロックオーケストラが演奏します。私としてはコダーイの「ハリー・ヤーノス」を見たときに、その新鮮さに驚きました。他にも、これはオラトリオとしてジャンル分けされてますが、オネゲルの「火刑台のジャンヌ・ダルク」は演出も含め、とてもよかったです。
音楽以外についてはというと、もう発見の連続です。オペラの演出家の仕事ぶりを見るのもとても興味深いし、舞台照明というものがいかに大きな効果をもたらすのかということも初めて知りました。でもオペラの裏側発見の一番のできごとと言えば、オペラのトップを務める指揮者と演出家に加え、Régisseur généralという職業の人がいることを知りました。日本語では舞台監督と呼ぶのか、舞台マネージャーと呼ぶのかよくわからないんですが、このRégisseur général というのは、オペラの進行をとりしきるために、すべてのことを把握し指示を出す、とても大切な役目なんです。つまり、指揮者、歌手、オーケストラ以外にも、大道具、小道具、衣装、メイク、照明、音声、などといったいろいろな人がオペラのために働いています。これらすべてを把握して、オペラの進行がスムーズに行われるために、舞台裏の作業についても時間を調整し指示を出しますが、舞台で実際に進行中のこともとりしきるのです。つまり歌手の登場、退出、舞台セットの変換などのキュー出しに加え、照明のすべての変換のキュー出し、音声効果のキュー出しなどなど、すみからすみまでを取り仕切っているのです。 このため、このRégisseur généralは、オペラ制作の一番最初である会議、歌手のオーディション、などなど、オペラができあがるまでのすべての工程に参加して、その一本のオペラについて知らないことはないという文字通りの状態ですべてを知り尽くしています。
大きな舞台や手の込んだ内容のときは、Réggiseur général の下にアシスタントのような形で Régisseur de scène、 つまり舞台上で実際に行われることだけを管理するRéggiseur が配置されます。
Régisseur という言葉、職業は、オペラだけでなく、演劇やテレビ業界、また映画の分野にも存在する大事なポストですが、フランスでも、演劇の世界のシステムと、オペラの世界のシステムは違うということを聞きました。演劇の分野では、Regisseur generalがすべてを指揮するのではなく、音声、照明の人たちも自立的にそれぞれ任務を行うそうです。私はこうしてフランスで初めてこの世界を知ったので、日本のオペラの裏側がどんな様子なのか知りません。基本的に、ヨーロッパにはこうしてオペラ座、オペラハウスがあって、そこにはオペラのための組織が常時存在するのに比べ、日本にはそういった組織が常時存在して、常時オペラ公演を行っているということではないから、きっと舞台の裏のシステムも違うんだろうな、と思います。どうなんでしょうか。ご存知の方、どうぞ教えてください。
とまあ、オペラJrと行動を共にして2、3年の間に一通りのことを目にしてきたつもりでいたんですが、昨年から、オペラjrとは関係なく、しかもピアノ伴奏者としてではなくて、モンペリエのオペラ座から他の任務を頼まれることがちょこちょことあるようになってきたんです。そしてつい最近は、先述のRégisseur de scène の仕事をこの私自身経験する機会を得たんです。そのときのことはまた近々報告したいと思いますが、もうこうなるとまさに身をもって学ぶ「体験」です。発見の連続。
よく思うことですが、「知らないこと」って、その物事の存在すら知らない時って、自分がそのことを知らないこと自体、知らないんですよね。今こうして、新しい物事に触れて接して吸収させてもらってるからこそ、自分がいかにたくさんのことを知らずにいたのかがよくわかります。
フランス語では舞台裏のこと、舞台袖のことを「Coulisse」(クリス)というのですが、パリに住む友人で音楽学者のLaurenceロランスは、このクリスの魅力にとりつかれて、オペラに関わる職業についての本を2005年に出版しました。
もちろん全てフランス語ですが、写真やイラストも満載で、フランス人のオペラファンの人にはとても好評でした。興味のある方はどうぞ!
ロランスのこの本を読んだ時には、自分がこの世界に足を踏み入れるかもなんて思ってもいなかったことですが、彼女が書いたことを、現場で目のあたりにして、実体験として学んでいる真っ最中です。新しい体験をする度に、自分の思い出のためにも人にみせるためにも写真をとりたくて、でも真剣な仕事の場で一人カメラでカシャカシャと撮ってたらひんしゅくかうよな~、、、といつも迷うんですが、でもやっぱりこれは「Reportage! 」(ルポルタージュ)ということで思い切って、できる限り写真を撮らせてもらってます。ですからこのブログの場を、私のルポルタージュの発表の場にしていけたらいいなと思っています。
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