それが先月、突然に彼の降板が発表され、41歳の女性キャスターが後を引き継ぐということになりました。誰もが驚いた知らせだったけれど、一番驚いたのは本人だったようで、彼自身、新聞を読んでいて自分の解雇を知ったのだそうです。本人がラジオのインタビューに語ったことによると、理由も前触れもない解雇通知で、ちまたでは政治的圧力がかかったためだとささやかれています。というのも、彼が新大統領サルコジ氏にインタビューしたときに、坊やのように扱われたと大統領が不服に思い腹を立てたからだとと言われているからです。一般的なフランス人とは一味違って、クールさとシビアさが売りのPPDAさんは、この解雇劇について、噂に関しては一切コメントしないというスタンスをつらぬいていますが、そんな彼でも、「この解雇通知は突然の乱暴なもので、これまでの年月と仕事を思ったらもう少しのエレガントさがあってもよかっただろうに。」と言っています。経営陣が勝手に決めたことであって、キャスターの座は退いてもらうけれど、なんらかの形で局には残ってもらうという提案もされたそうですが、彼は「押し入れの中にいるためだけに残るのはごめんだ」といって断ったそうです。そもそもTF1の報道局のスタッフなどは、彼とともに仕事をして、今後も彼と仕事をしていくと思っていたわけです。そのことは視聴者もよくわかっていて、国民のほとんどが今回の解雇に関するアンケートで、不可解で評価できないものと答えています。
解雇通知から一か月以上、PPDAはいつもどおりに月曜から木曜の夜のニュースを担当し続けてきました。それが昨日の夜、7月10日が最後の夜となったわけです。普段は国営のFrance 2のニュースを見ている私ですが、今日は特別にPPDAさんを見ようと思ってチャンネルをTF1に合わせました。
20時2分前に始まるTF1のニュース。PPDAはいつもの表情でいつものように「みなさんこんばんわ」で始めました。いつものようにクールにシビアにニュースを伝えていきます。テレビの前の私は「ああ、いくらこの人でも心の中はいっぱいだろうに、、、」と思ってみていると、番組終了のわずか数分前のところで、彼は突然別れのメッセージを言い出しました。視聴者と報道局のスタッフに感謝の言葉、そして自分の仕事への誇り。さらにTF1へのお礼も。「C'est un métier magique et c'est un bonheur de l'avoir exercé ici」(魔法のような職業であって、それをここTF1で行えたことは幸せです。)彼のメッセージの後、ほんの一分くらいの時間だけど、彼のこれまでの業績、キャリアをたどるような映像が流され、画面下の「ありがとうPPDA」というテロップから、スタッフの気持ちがよく伝わりました。彼の解雇の知らせから、各界様々な方向から次の仕事やポストの依頼、誘いがきていると言われていますが、PPDAの昨夜のメッセージも、「近いうちにまたみなさんとお会いできると確信しています。」と彼らしい小さな笑みで締めくくられました。
単にキャスターとしてでなく、ジャーナリストとして存在感大の彼は執筆活動にも熱心で、この番組を降板させられたといってもこれから先、彼の名前を聞かなくなるようになるわけはありません。たくさん提示されたという次の仕事についても多くは語らない彼ですが、「誰かのポストを奪うような形での誘いは受けない。」と明言しています。フランス人男性と言えば、たいていの人が人懐っこい笑顔で気の利いたことの一つや二つ言ってしまうものですが、このPPDAは一味違うシビアな鋭さが売りの人。彼のニュースキャスター、ジャーナリストとしての仕事ぶりだけでなく、今回の解雇劇で見られた彼の対応、態度から、スマートでストレートに立ち向かう本物の大物キャスターの姿が見えました。こんな彼をみながほっておくわけはありません。きっと早ければこの夏のバカンス明けには他局の重要な番組で大事なポストを務めることになることでしょう。私も彼の復活を楽しみにしたいと思います。
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