昨日、用事があってモンペリエのオペラ座コメディの事務所に立ち寄りました。
するとちょうどオペラの練習開始の時間だったので、スタッフがバタバタと準備していました。舞台での練習のようだったから興味をもち、「30分くらいのぞかせてもらっていいですか?」と頼むと「もちろん、もちろん」とOKをもらい、そっと控え目にホール内に潜入した私。
演目はイタリア人作曲家のエルマンノ・ウォルフ=フェッラーリ (Ermanno Wolf-Ferrari)が1931年に書いた「La Vedova scaltra」。日本語では「抜け目のない未亡人」だとか「利口な後家」だなんて、あんまり素敵じゃないタイトルになってますが、楽しいドタバタ喜劇のオペラです。モンペリエのオペラ座コメディで11月頭に公演予定となっています。
10分ぐらいで練習が始まると思っていたので、控え目ながらも図々しく、客席の真ん中に陣取らせてもらいました。舞台の上にはセットが準備されてるし、音声のスタッフたちもあわただしくしているから、てっきり舞台練習のいいところだと思ってたんです。
しかし、実はこの日が練習開始の顔合わせの日だったようで、スタッフと出演する歌手の皆さんが集まって同じ演出の録画を見るという段取りだったのです。そのため、客席の真ん中にいる私以外はすべて関係者というか、出演者。歌手同士も「久し振り!」とか、「元気?」とか、「はじめまして」とあいさつをかわしていて、指揮者、コレペティ、さらには今回演出を自らするモンペリエの音楽界の王様R.K氏も登場。私も微妙に知ってる顔が多いから、「はろ~。」なんてあいさつしつつも、この日の部外者は完全に私だけ。。。
だんだん「やばいぞ、やばいぞ」と思って、居心地悪くなってきたところへ、ある男性歌手が登場。かなりのキャリアのある方のようで、堂々と、落ち着いた感じであいさつまわりをしてらっしゃいました。そしてもちろん私のところにも来て、あいさつと自己紹介をされました。私はすっかり気まずくなって「どうも、こんにちは。でも実は私このオペラには参加してなくって部外者なんですけどね。。。」と断りました。するとこの歌手は、「あ、そうなんだ。でもいいじゃん。」みたいな感じで私の前に座り、すかさず質問をしてきました。
「あなたは日本人?」って。
普段、アジア人だとはみてわかるけど、って感じで「どこ出身?」と聞かれることがわりと多いのですが、この人は直球で「日本人?」って聞いてきたので、意外とびっくりして、「ええ、そうですよ。」と答えると、「僕、日本で歌ってきたばっかりなんだよ。この前の火曜日まで日本にいたんです。」というではないですか。それでつい話ははずみ、この人がアントワーヌ・ノルマンさんというテノール歌手だとわかりました。グノーのファウストでタイトルロールを歌ってきたというから、立派な国際的歌手ってことですよね。失礼ながら私は知らない方でしたが、東京から沖縄までまわって、コンサートからオペラまでこなしてきたそうです。日本に行ったのは今回が初めてだったそうだけど、たいそう気に入ったらしく、「今日にでもまた電話があったらすぐにまた飛び立つよ!」と言ってました。
立派な国際的歌手の自己紹介を聞いたあと、「あなたは?」なんて聞かれちゃって、「いや~、ちっぽけなピアノ弾きです。時々オペラ座でもいろんな仕事させてもらってて、今日は通りがかりでちょっと練習をのぞかせてもらおうなんて思ったもんですから。。。」と説明しました。そしたら「お名前は?」なんて聞かれちゃってねぇ、もうまったく。
でも二人で日本話をしていて、「何が気に入りましたか?」という私の質問に、「きれいなところ!(街が清潔という意味です。)」と答えてから、「それからこれ!」とカバンから何やら出してくれました。
なんだと思いますか?
実はマスク。白い大きなマスク。
日本では花粉症の人が常用している見慣れたマスク。でもこちらではそんなマスクを街中ではめている人はまずみることはなく、手術する外科医か歯医者さんかというようなもの。彼は大笑いしながら「これいいよね~!」と歌手らしいみつけものをしてきたようです。しかも携帯にはしっかりひょうたんの中に仏像さんが入ったおまもりがくくりつけてあって、発見した私は「うわ~、これまさに日本ですねえ!懐かしい!」と喜んじゃいました。しかもちゃっかりひょうたんの中のぞかせてもらっちゃったりしてる私(笑)
そんなこんなをしていると、王様R.K氏の解説ものもと、みなさんそろってのビデオ鑑賞がはじまりました。
まあ聞いたことのないオペラをちょっと垣間見れてありがたいのですが、なんせ私は30分くらいみせてもらおうと思ってただけの通りすがりの身で、仕事に行く時間がせまってます。でもど真ん中にすわってしまったがために、ビデオが始まって早々席をたつというのは申し訳なくて、一人そわそわと座ってて、一幕の終わりの所でそそくさと退席しました(笑)。王様も「なんだあいつ」はと思ったことでしょう。
ふらっと立ち寄っただけでしたが、思いがけない日本話をできて、いい気分転換になりました。
元気出していきましょう。
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