2009年7月15日水曜日

ハプニング発生!!

ラジオフランスのフェスティバル初日の夜のコンサートは、有名なオペラ作曲家ベッリーニの知られざる作品「ザイーラ」Zaira のコンサート形式による演奏でした。

1829年に作曲されたこのオペラは、10作品のオペラを作曲したベッリーニの5つ目のオペラ。でも当時の初演から、なぜかほとんど演奏されることなく今日に至ったのです。ほとんどタイトルすら知られていません。

フェスティバルのディレクター、クリング氏は知られていない作品、知られていない作曲家などにスポットをあてることに積極的で、こうして知られざる作品がプログラムに組まれているのはとても意義があることだなあと感心。

「ザイーラ」は十字軍遠征の時代のエルサレムが舞台のドラマ。現地のスルタンの捕虜となったフランス人の娘ザイーラを主人公としたストーリー。みなしごだと思っていた彼女がフランス貴族である父親と再会、その父の死、ある人物の正体が実の兄だと判明、でもそのことを知らずにザイラを妻にしたいと思っていたスルタンの激しい嫉妬のために最後を迎えるザイラ、そして事実を知ったスルタンは自ら命を絶つ、、、という100パーセント悲劇です。
タイトルロールを歌うのはアルバニア出身の若いソプラノ歌手エルモネラ・ヤホErmonela Jaho。そしてその周りはアルメニア出身のメゾ・ソプラノ歌手ヴァルドゥイ・アブラハムヤンをはじめ、イタリア人テノール歌手、中国人バス歌手、韓国人バリトン歌手、そして地元モンペリエテーノール歌手とメゾソプラノ歌手の二人が出演しました。オケはモンペリエ・ナショナル・オーケストラ、そして合唱は「カルミナ・ブラーナ」にも参加したラトヴィア・ラジオ合唱団です。そしてこのすべてを率いるのはイタリア人若手指揮者エンリケ・マッツォラ氏。こう見るだけでもインターナショナルな顔ぶれですね。

このマッツォラ氏は、かなり頻繁にモンペリエで指揮をするし、去年のフェスティバルではオペラjrの子供たちも共演しました。彼のことをまたいつか別くちでお話したいと思います。

さて、このオペラが演出なしのコンサート形式で演奏され、私は字幕操作担当で参加しました。
場所はCORUMの大ホール。私は二階席奥にある音声ミキサー室でひとりぼっちの仕事。ここはガラスでしっかりとホールから隔離されているので、演奏が生で直接聞くことができません。いつもマイクで拾われてスピーカーから流れる音で仕事をするのです。

でもこの日は、コンサートがラジオフランスで中継生放送ということで、私の横にあるスピーカーからは、同じくホール内の別のミキサー室にいるアナウンサーによるラジオの生放送が入ってきていました。コンサートのために仕事をしていながら、同じホールにいながら、私はラジオの音を聞いて仕事をするという変なコンディション。
作品の紹介や歌手の紹介など、生中継なだけにミュージシャンたちの舞台入場のタイミングなんかとばっちりで、舞台を見ながら生中継のアナウンスを耳にするのも、これもまたおもしろい体験かなと思って仕事がスタートしました。

全2幕のこのオペラは第一幕が一時間ちょっと。二幕が一時間弱です。

さて、コンサートは順調に進行し、一幕の終盤にさしかかったころ、私が聞いている音声が一瞬悪くなったかと思ったら、大きな音で二人の女性の会話が入ってきました。電話か無線かで会話している感じ。この音がすごくはっきりと大きな音で入ってきたために、私は進行中の歌が聞き取りにくくなってしまい、「やばい!」と思いました。

が、何がやばいって、そのことよりも生中継のラジオであるところから、コンサートとは全く関係のない二人の女性のプライベートのやりとりが聞こえてきていることです。「え?これどうなってんの?みんなに聞こえてるの?私だけ?それとも会場でも聞こえてるの?ラジオは?」と私は一人で思いっきりドキドキ。

でも私は進行中の音楽からはずれないように全神経を集中させて楽譜を追っている最中だし、しかも私は一人ぼっち。誰かに知らせようにも知らせる手段も瞬間もない。

一人っきりりで「ええ!?これって大問題発生中なんじゃないの?!」とパニックになりつつ、何十秒間か続いた会話が終わるのをドキドキしながら待っていました。


で、1幕が終わったところで隣の部屋にいた音声のテクニシャンが、「どう?順調だった?」と声をかけに来てくれたから、「え=!ていうか、何が起きたの?!」と問う私。そしたら彼はラジオからの音声を聞いていたわけじゃないから、やっぱり何も気づいてなかったみたいで、私の発言を受けて、「電波がひっかかっちゃんたんだよ。気をつけるように言ってくるよ。」と、冷静なのかのん気なのか微妙な感じで、「ホールやラジオには影響ないと思うよ、、、」と言い残していきました。


しかし私の予感はあたっていたのです。


2幕の終了後にまた声をかけにきてくれた彼が、「やっぱりさっきの、電波にのっちゃんたんだって。『もう二度と起きません!』って言ってたけど、あいつらかなり参ってた。」と言う。


そりゃあそうでしょう。


だってオペラ、しかも悲劇のオペラの真っ最中に、「ねえ〇〇、さっき言ってた話、やっぱりこうしようよ、・・・一緒に〇〇みんなでしようよ。・・・・」なんて会話が全国生放送で流れてしまったんだから、そりゃあやばいでしょう。

しかも声の主は生放送中のアナウンサーご本人だったのです。

でも驚くことに、番組終了際にも詫びの一言がありませんでした。
「テクニックトラブルで、、、」とか言うかと思ったのに何もなし。アナウンサーは何事もなかったかのように、コンサートの終了で拍手喝采を受ける歌手や指揮者の様子を伝え、さらには「モンペリエから生放送でした。みなさん今後一週間の間、インタネットのサイト上でこのコンサートをお楽しみいただくことができます。それではよい夜を。」としめくくったのでした。

これは何事もなかったかのようにするのがスマートと判断したのかしないのか。

日本だったら「責任者は誰だ!」的な大騒ぎをしてお詫びを何度もいれるところですよね。

こんなところでまた文化、慣習の違いを感じたのでした。

まあ、コンサートは成功。華々しくフェスティバルの一夜目が幕を閉じました。

裏話ですが、今回の出演者の中にモンペリエのコンセルヴァトワールで勉強中の20歳過ぎくらいの学生さんがメゾ・ソプラノで出ていました。とてもいい響きで歌い、ラジオ放送のアナウンサーも「モンペリエで勉強中のとても若いメゾ・ソプラノ歌手が、、、」とコメントしていたので、きっと彼女にとったら大きな飛躍となるコンサートとなったと思います。

彼女は一年ほど前に、たまたまラッキーなめぐり合わせでクリング氏に目をとめてもらったラッキーガール。今シーズンのモンペリエオーケストラのコンサートで、何度か歌うチャンスを与えてもらっていました。でも実際、モンペリエのコンセルヴァトワールで現在勉強中というには驚くほどの成熟した響きをもっています。実力と運とを併せ持った人がすすんでいける世界。彼女は今のところ、大きな学歴もコンクール歴もないままに大舞台にたつ機会を得たけれど、きっと今後も順調にすすんでいくことでしょう。

そんなこんなで、華やかな舞台裏ラジオ生放送のあちゃちゃハプニングの報告でした。

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