2009年7月30日木曜日

ボリス・ベレゾフスキー様

27日の月曜日の20時のコンサートは日本でも人気の高いピアニスト、 ボリス・ベレゾフスキー Boris Berezovsky とブリジット・エンゲラー Brigitte Engerer のピアノドュオでした。


ベレゾフスキーはモスクワ音楽院で学んだロシア人ピアニスト。1990年のチャイコフスキーコンクールで優勝し、その演奏は審査員と聴衆を圧倒させたエピソードで有名です。彼ももう40歳になっています。若手新鋭ピアニストの衝撃デビューから時もたち、今やすっかり熟成された中堅世代になった感じです。
一方のエンゲラーはパリ音楽院とモスクワ音楽院で学んだ人。彼女は長いキャリアをもつ実力派ベテランピアニスト。


この二人は皆が驚く超絶技巧のヴィルトゥオーゾでありながら、アンサンブルにもとても興味をもっているようで、室内楽や伴奏の演奏活動をとても熱心にしています。そしてピアノドュオも積極的に行っていて、この二人でコンビを組んでCD録音や世界各地でのコンサートもしています。

さて、私がこのコンサートに行ったのは、まずベレゾフスキーの演奏を一度生で聞いてみたかったというのと、プログラムに私の大好きなボロディン作曲の「ダッタン人の踊り」があったからです。この日も招待券を頂いて、私の席に向かってみると、そこは前から6列目の得々特等席でした。なんせ王様クリング氏が座る列ですから。。。

ちょっと恐縮してしまいましたが、周りをみてみると顔をしっている新聞批評家たちもこのエリアに座っていました。プレス関係者のための席でもあるってことですね。


さて、この席からはなんの苦労もなくアーティストの顔がよくみえます。演奏中の表情もよく見えます。エンゲラーはベテランおばちゃん(といっては失礼だけど)なだけあって、肝の座った感じでとてもおもしろかったです。というのも譜めくり担当の人がちょっとミスしかけたときの、「ちょっと待って、まだよ!」という感じや、「このページは自分でするわ。」と言ったりするときの表情がとても豊かで観客の笑いをさそっていました。



プログラムは「ダッタン人の踊り」のほか、ラフマニノフの二台のピアノのための組曲一番、そしてリストのハンガリー狂詩曲の連弾バージョンやメフィストワルツの2台ピアノバージョンなどでした。

さて、この二人、本当に圧倒的な技術力ですごいスピードとすごい迫力なんですが、それだけではない「深さ」がありました。二人がフォルテで弾くとオーケストラをうわまってるんじゃないかと思うほどの音量音響で息をのむほどですが、二人がピアノ(弱く)弾くところはデリケートで優しい音で、そのコントラストがとっても豊かでした。

そして二人とも私の嫌いな意味不明の過剰表現(顔の表情や体の動き、体のゆれ、腕の過剰な動き)が全くなくて、とても正統派で深みのある豊かな音楽でした。いわゆる「本物」と言われるタイプのアーティストですね。


ベレゾフスキーはとても大きな体で、それが年を加えてさらに恰幅がよくなったというか大きなくまさんのような感じもしますが、これまでにいろんなインタビュー記事などを読んで感じていた真面目で内向的な人柄というのがそのままの感じでとても好感がもてました。って、私がえらそうにいう立場ではありませんが、彼の演奏、そしてオーラともにとても素敵でした。


内容の濃いプログラムに加えて、なりやまない拍手にこたえた彼らは、なんと4曲もアンコール曲を弾いてくれました。そんなにアンコール曲を準備していたわけではなくて、楽譜をめくりながら「あ、これにしよう。」とか「あ、これはパス。」といったところを見せてくれて、観客も楽しませてもらいました。

超人的テクニック爆発の曲、旋律豊かな歌う曲、どれをとっても息がぴったりで、文字通り観客を圧倒。

スーパーピアニストでありながら、こうしてアンサンブル活動も熱心にしているところもとても素敵だと思います。「共有」することに喜びを感じていることがよくわかりますからね。







今回のフェスティバルで私はピアニストのコンサート4つに行くことができました。普段、根本的に私は「作曲家ありき」的な考えをもっているので、演奏家というものにあんまり興味をもってないんです。そのため「どの演奏家のどの演奏がいい」といった議論には参加できないタイプなんですが、今回4つのコンサートを立て続けに聞いて、私の好み、私なりの考え嗜好が改めてよくわかりました。4つのコンサートというのはジャン・イヴ・ティボデー、ラベック姉妹、アルド・チッコリーニ、そしてこのベレゾフスキーとエンゲラーのコンサートです。私の好みでいうと、おじいちゃんチッコリーニがもう別格、別世界ですが、このベレゾフスキーの演奏は深みがあって「蔵人」的なものを感じていいなーと思いました。それに比べるとティボデーの演奏、ラベック姉妹の演奏ともに、テクニック抜群で華やかな演奏なんですが、ちょっと否定的な言い方をすると「軽い?」という感が否めないかなとは思います。そんなこと言っても彼らはジャズとか好きだし、それぞれの曲のスタイルに適する演奏スタイルがあるわけだから当然なんですけどね。

数日間で世界一流レベルのピアニストの演奏を聞けて、しかもタダで、しかも特等席で、なんという贅沢をさせていただいたんでしょうか。私もピアノ弾きのはしくれ。勉強になりました。

ありがとうございます。

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