
場所はモンペリエの北西エリアにあるシャトー・ドー Chateau d'O にある野外コンサート施設。毎年夏のフェスティバルの時期にここで私も大好きなジャズの無料コンサートがあって、このブログでもお伝えしたと思いますがその場所です。
ここで毎年この季節に屋外でオペレッタやミュージカルを楽しもうという趣旨で立ち上げられたのがフォリー・ドー Folies d'O という組織。指揮者のJ・P氏をディレクターとし、発足から3年目となりました。失礼ながら私がその存在を知ったのは、今年の5月ごろでしたが、モンペリエの7月の行事の一つとして着々と地をかためていっているようです。
今回私はケガをしたコレペティさんの代理として、緊急でプロダクションに参加し、「これでいいん?」と心配もしましたが、完全初見でのピンチヒッターという状況を知る人たちからはたくさんの「ブラボー」と「メルシー」のねぎらいの言葉を頂いて、まあ大変だったけど、こういう状況下での貴重なよい経験をさせてもらってよかったと思います。
結果的には、私ともう一人、合唱の練習準備をしてきたピアニストのVとでスケジュールを分け合い、オーケストラがやってくる7月2日までを乗り越えました。
歌手のソリストたちやダンサーの中には、ハイレベルでかつとてもプロフェッショナルでありながら、とても気持ちのいい人たちもいて、そんな人たちと知り合えて一緒に仕事できたのはほんとよかったです。
オペラの練習伴奏ピアニストのことを日本ではコレペティと呼びますが、フランス語ではChef de chant シェフ・ドゥ・ション。この職業のピアニストは指揮者のもとで伴奏するだけでなく、歌手たちをトレーニングしてサポートする大事な役目があります。そのため、一つのオペラのプロダクションの準備の中で、歌手たちとコレペティはとても密な関係で一緒に練習を重ねて、舞台を仕上げていくのです。今回のプロダクションでは、そのコレペティが突然来れなくなり、しかも代わりに来た人は一人ではなく、日によって違うピアニストという状況になったので、歌手たちとってはちょっと混乱を招く難しい状況だったことだろうと思います。ま、それも経験ですね。
本番で伴奏を務めるのはアヴィニョンのオーケストラ Orchestre Lyrique de Région Avignon Provence。私は役目から解放されて、初日の公演に招待券を頂いたのでのんびり気分で行かせてもらいました。
本番開始は21時半。
屋外ですから、日が落ちる時間と照明の効果を計算に入れてのスタート時間の設定なのです。
私が会場に着いた時の空はまだこんな明るい空。これで21時15分です。
この会場には、屋外ホールでありながら、ちゃんとオーケストラピットがあるところがすごい。
私は練習に参加したとはいっても、全体像を把握していなかったし、衣裳はごく一部しか見なかったし、私のピアノの位置からは歌手たちのやりとりが見えなかったので、一般のお客さんとほぼ同じ立場で舞台を楽しむことができました。
まず、しょっぱなから度肝を抜かれる予想外のスタート。ヘリコプターの爆音とともに、ダンサーや合唱の男性陣が皆、ゲリラ戦闘隊のように、舞台、客席、会場のあちらこちらから飛び出してきたのです。そしてオーケストラのコンサートマスターの指揮で、ワーグナーのワルキューレの有名な序曲の演奏が始まり、会場と舞台ではゲリラ隊が走りまわっているのですが、なんとその中に指揮者J・P 氏も混ざっていて、彼は頭まで黒いフードをかぶり、ゲリラ隊のリーダーのようないでたちで、水平タイプのアーチを手に指揮台まで走り出て来て、突然そのアーチから指揮棒を取り出して、指揮を振り出したんです。私の隣には彼の友人らしきカップルが座っていたのですが、J・P氏を知っている私と彼らは大笑い。はっきりいって、どんな演出にしたってここまでやる指揮者はそういないと思います。ああ、ビデオに撮ってみなさんに見せたかった!
そんな開始部分からノリノリの音楽と演出が続きます。一幕、休憩をはさんでから二幕と三幕の舞台は退屈することなく、楽しむことができました。オペレッタというのは軽めの音楽で喜劇の要素もりだくさんなところへ、今回の演出家 F・de C 氏はパロディもたくさん盛り込んで徹底的にコメディ路線でまとめあげました。もしかしたらやりすぎだと思った人もいたかもしれないけれど、私は夏の夜の屋外での心地よいスペクタクルを楽しませてもらって満足しました。
後半部分では、私が練習に参加していたときにはまだ挿入されていなかったけれど、マイケル・ジャクソンへのオマージュとして、スリラーの音楽とダンスがいれこまれていて、私には嫌な感じがしませんでした。アーティストたちからアーティストへの敬意の現れと感じたから。
一緒に練習をしたチームが晴れの舞台を迎え、なんなくとすべきことをこなし、しかも喜劇だから楽しんでやってるように感じられるのはいいもんですね。
オペレッタというのはしゃべりの部分が多く、歌手たちには役者としての能力が問われます。今回兵士フリッツ役を歌ったのはロイック・フェリックス Loïc Félix というアフリカ系フランス人のテノール歌手ですが、彼は私と同年代の人で、まっすぐで気持のよい人柄なうえに、技巧的に難しい曲のオンパレードを見事にこなす上に、コメディタッチの演じる部分もほんと上手にこなすから感心してしまいました。関心というのも失礼ですね。もうあちこちで活躍している人なので、今後の活躍がとても楽しみです。心から応援したいなと思う歌手さんでした。
この夜は満月で、涼しい風もあり、屋外でこうしてスペクタクルを楽しめるのは贅沢なものだなとつくづく思いました。
屋外でオペラなんてなかなか思いつかないし、実現も難しいけれど、この会場でこの時期にするというアイディア、なかなか成功ですね。
最後にちょっぴり余談を。。。
お恥ずかしながら、この公演までこのオペラタイトルも知らなかった私ですが、仕事の話が来て急きょストーリーとかも勉強しなくっちゃと思った私はインターネット上で驚きの事実を知ったのです。実はこのオペラ、明治12年(1879年)に日本で紹介され、浅草オペラなどで大ヒットを記録した作品だったのです。当時の日本タイトルは「ブン大将」。ブン大将というのは登場人物の一人なのですが、ちょっとまぬけでこっけいな役で、それにぴったりのおもしろいアリアがあるんです。それが明治当時の聴衆にうけたんですね。
ヨーロッパの人にとったら、日本人が西洋クラシック音楽をしたりオペラまですることに驚きを感じる人もたくさんいますが、それが明治時代となると驚きも倍増ですね。
音楽史の意外な一コマを知って、おもしろいなーと思いました。
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