モンペリエのオペラ座の新シーズン2009-2010は「魔笛」で開幕するんです。そのため8月24日から稽古が開始。オペラ座のスタッフも夏のバカンスを終えて再集結した感じ。シーズン単位で働く彼らのリズムはまるで学校に行く子供たちと同じ。だからバカンス明けの再会はいつも賑やかで楽しいものです。
みんなが互いに「久し振り!」、「元気だった?」、「バカンスはどうだった?」と声をかけあいます。
で、9月にも入り、ただいま演出稽古のまっ最中です。このプロダクションはオペラ座コメディではなくて、CORUMの大ホールで行われます。
私のブログでおなじみのジャン=ポール・スカルピタ氏の演出による舞台ですが、実は2年前に同じものをモンペリエでしています。今回はパリのシャトレ劇場で10月頭に公演が決まったことを受けて、二年前の舞台にちょっと変更や手直しを加え、キャストにも多少の変更が入っての再演ということになりました。
演出が次期オペラ座ディレクター就任が決まっているスカルピタ氏で、指揮は今シーズンからモンペリエのオーケストラの音楽監督に就任するアメリカ人で世界的に有名な指揮者ローランス・フォスター氏。新シーズンの幕開けとシャトレ劇場での公演とあって、気合いの入った華やかな顔ぶれです。歌手たちもさまざまな国籍の歌手が勢ぞろいで、とても質の高い舞台が期待されます。
この写真は2007年の時の公式写真。
私は今回何をしているかというと、「魔笛」に出てくる三人の少年(クナーベン)役が、オペラjrの子供たちかの中から選ばれたソリストなので、ヴァレリーと一緒に、クナーベンの準備・練習に専念しています。
オペラの中には児童合唱が必要なオペラも結構ありますが、「魔笛」のこのクナーベン役は、合唱ではなくてれっきとしたソリスト。昔は大人のプロの歌手が務めることが主流だった時代もあるほどで(もちろん現在でもプロの大人が歌うことも多い。)、3人が3パートで歌う難易度も高い、重要な役です。
今回はパリとモンペリエで計6公演があるので、3人ずつのグループを二つ作り、毎晩交替で出演させることになりました。もしも病気やなにかがあったときに別のグループの子が代わりに歌えるという保険つきで。
この6人を選ぶために、オペラjrでは5月ごろに12人くらいをピックアップして特別練習をはじめ、バカンス前に7人まで絞り、最後の一人は残念ながら8月末にはずされました。
こういう選考って簡単じゃないんですよね。声楽的要素はもちろんですが、演技的能力もなければいけなし、さらには2000人のお客さんを前にした大舞台で力を発揮できる性格が不可欠。もちろんプロではないうえにまだまだ子供ですから、何が起きるかわからないということだって大前提だけれど、ハードな練習にも耐えて、大舞台で力を発揮してくれるだろうと私たちが信頼できる子でなければいけないわけです。
12人から最終の6人に絞る過程で、涙あり悔しさありのドラマがあったのはいうまでもありません。毎度のことですが、親がからんできたりするのが一番厄介だったりする、、、。ま、この話はまたいずれ。。。
8月24日に稽古がはじまって、昨日で無事に二週間の稽古が終ったところです。実は指揮者のフォスターさんは超有名指揮者ということだけあって、過密スケジュールの持ち主。世界のあちこちで指揮をふってらっしゃいますからね。そのためにマエストロのモンペリエ入りは9月1日でした。
ではそれまでどうしていたのか?
実はそういうときに必要とされる人がいます。それは副指揮者と呼ばれる人。フランスではアシスタント・シェフといいますが、コンサート本番で指揮をする指揮者が来るまでに練習をおこなってまとめておく、あるいは指揮者が来てからもいろいろとサポートする人です。
どんなオーケストラにもこの役目をもった人が常時いるわけですが、実はモンペリエ・オーケストラには昨シーズンから、日本人女性のアシスタント・シェフがいるのです。それは阿部加奈子さん。今回の「魔笛」でも彼女がしっかりと練習をまとめてきました。彼女のことを絶対に近々ブログで紹介するぞ~と思っているのでお楽しみに。
さて、ここで「魔笛」知らない人のためにざーっと「魔笛」豆知識を。
冒頭でモーツァルトのオペラとはいいましたが、厳密にはドイツ語でジングシュピールと呼ばれる歌芝居です。歌われる部分、音楽にのってほとんど話すような部分であるレチタティーボに加えて、実際に話される部分があるんです。
モーツァルトとというとフリーメンソンという団体とのつながりが有名ですが、なかでもこの「魔笛」はフリーメンソンがらみの逸話にことかきません。フリーメンソンでは「3」という数がとても重要なのですが、「魔笛」にはいろいろな「3」がでてきます。子供たちクナーベンだって3人の男の子なわけでして。。。
あらすじはというと、タミーノという名のある国の王子がパミーナというお姫様を救い出し、二人はめでたく結ばれる、、、というもの。
パミーナの母である夜の女王と、彼女いわく悪魔のような高僧ザラストロという二人の登場人物がとても大事。そもそも「愛するわが娘がザラストロに連れ去られてしまった。どうか娘を助け出して来てほしい。」とタミーノに頼んだのは夜の女王自身。タミーノはその話をうのみにして、しかも美しいパミーナの肖像画をみて一目ぼれし、必ず助け出してみせると誓います。そこで夜の女王の3人の侍女から与えられるのが魔法の笛。これが身を助けてくれるというのです。
もう一人の重要人物がパパゲーノ。彼は鳥を捕まえては夜の女王に献上していました。おしゃべりで我慢や努力が苦手というキャラクターの彼は、成り行きでタミーノの冒険に同行することになります。
タミーノはザラストロの神殿に忍び込みます。パパゲーノとははぐれ、そこで一人ザラストロ本人と遭遇し、実は「悪」は夜の女王であると知ります。ザラストロは賢者であり、世界を手中におさめようとする夜の女王の欲望と邪心からパミーナを守ろうとしたというのです。
パパゲーノはというと、ザラストロの家来でありながらパミーナに言いよるモノスタトスと出くわし、お互いが相手の姿を見てびっくりして逃だします。でもパパゲーノはパミーナのところに引き返し、タミーノと二人で助けにきたことを告げます。結局タミーノはモノスタトスにつかまりますが、逆にザラストロはモノスタトスを罰し、逃げ出したパミーナのことも許し、タミーノとパミーナはめでたく対面。
そこでザラストロがタミーナに試練の儀式を提案し、見事うちかったらパミーナと一緒になれるといいます。タミーノは試練の儀式を受けると決め、その資格もあることを認められます。一方、めんどうくさいことはいやだというパパゲーノにも、熱望しているパートナーを得るために試練の儀式がかされました。
オペラの第二幕はこの試練の儀式が展開します。夜の女王も娘に復讐をしろと命じます。タミーノ、パミーナ、そしてパパゲーノがピンチを迎えるたびに現れてアドバイスを与えるのが3人の男の子クナーベンです。彼らはタミーノに魔法の笛を使えとアドバイスし、パパゲーノには魔法の鈴を与えます。こうして彼らは試練を乗り越え、ザラストロはタミーノを称えます。
計画がまるで狂ってしまった夜の女王は、三人の侍女、そして女王の手下となったモノスタトスがザラストロの神殿に乗り込んできますが、ザラストロにはかなわず闇の中に落とされます。
オペラの最後はタミーノとパミーナの若いカップルが結ばれ、またパパゲーノとその彼女パパゲーナがたくさんの子供に恵まれ、皆でザラストロそして太陽神イシスとオシリスを讃えて幕が下ろされます。
こんな感じのストーリーですが、オペラの台本としてはかなりしっちゃかめっちゃか。なんせ「善」と「悪」が入れ替わるんですから。
モーツァルトにこの作品を依頼したのは、当時ヨーロッパ中を巡業する劇団のオーナーであり、本人自身役者であり歌手であったシカネーダー。モーツァルトとは以前からの知り合いで、仕事がなくなって苦境にいたモーツァルトをサポートしたりもした人です。「魔笛」の台本はこのシカネーダーが自分の一座のために書き下ろしたといわれていますが、いろいろとモデルになったといわれる作品も多く、また他にも台本を書いたのは自分だと主張する人もいたりで、真相はあまり定かではないようです。台本がしっちゃかめっちゃかなのは、計算されてのことなのか、それとも既存の作品のつぎはぎだからなのか、、、。
いずれにしても1791年に行われた初演は大成功。モーツァルトはこの年の12月5日に亡くなってしまい、彼の最後のオペラとなりました。
「魔笛」というオペラは世界中の舞台で公演されている人気オペラですが、やっぱり演出によって全く違う舞台ができるというのがおもしろいところ。
スカルピタ氏の演出はいつもながらイマジネーションとファンタジーに富んでいてとてもきれいです。
この舞台で彼のオリジナルなイマジネーションとファンタジーを象徴しているのが次の二つでしょう。
まずはクナーベンたちが空飛ぶベンチに乗って現れること。
ワイヤーでつられた黄色のベンチ。上下にも左右にも移動ができるんです。
こどもたちはベルトとロープで一応サポートされていますが、それでも空飛ぶベンチに座って歌うというのはなかなかできる経験じゃない。
そしてそれを操るのはマシニスト、つまり大道具さんたちです。
ロープをひっぱってコントロールしてますが、大男ぞろいのマシニストたちにとってもさすがにこの作業はきついらしい。かなり険しい顔をしていつもがんばってらっしゃいます。
舞台裏でベルトをつけた子供たちが徐々に高く上がっていく様子を見ていると、まるで遊園地のジェットコースター発進前の気分です。
もう一つ、ファンタジー度100パーセントの目玉作品というのが、巨大操り人形とでもいうのでしょうか、大きな大きな金色のライオンさんです。
ザラストロの国の太陽を象徴しての役どころ。
身体を張ってこの巨大ライオンを操っているのが、マリオネット、つまり人形遣いの人。すさまじく重いだろうに、すごいな~と驚かされる。そんな彼はムキムキの筋肉マン。しかもライオンは彼が作ったのです。とてもオリジナルですね。
練習が進むにつれて、ここに衣装や照明などが加わっていくわけですが、スカルピタ・マジックができあがっていく段階を追って見れるのが私は大好きです。ちょっと特権を得てる気分になっちゃいます。
また追って「魔笛」ネタをお伝えしたいと思うのでお楽しみに。
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