横文字にして「Bistanclac」。モンペリエ・オーケストラのトロンボーン奏者ブデ氏が作曲したオペラのタイトルでもあります。去年の秋ごろ、女性ボーカルアンサンブルのHeliadeの練習に参加したときの話を覚えてる方もいるでしょうか。一世紀前の紡績工場で働く女性たちの労働環境を題材としてとりあげた作品です。
Heliade にとったらこの「Bistanclac」は彼らのために作曲された本当のオリジナル作品であり、モンペリエ近郊の土地に根差した題材であり、女性や子供の労働環境、人権にテーマが及んでおり、数年をかけて作り上げる覚悟でとりかかった意欲作なのです。
Heliade のホームページでこのプロジェクトの説明スライドがあるので見てみてください。
プロジェクトが立ち上がった時に、彼らはまず作品のごく一部を舞台で演奏し、「ビスタンクラック・プロジェクト」として発表しました。そして今年の春には全オペラ11番までのうちの9番までをセートの劇場で発表しました。その後もB氏の作曲作業は続いて、全11番が完成。そしてこの10月に、このオペラの完成版の初のお披露目コンサートがおこなわれたのです。しかもオペラの題材となった紡績工場が実際にあった町St. Jean du Gardでの公演。大事なコンサートです。
Heliadeにはいつも演奏しているピアニストがいるのですが、今回のコンサートの日程に彼の都合が合いませんでした。
そのために声がかかったのがこの私。
去年の記事でも言いましたが、Heliadeのメンバーの多くは私がモンペリエに来た年に出会った人たち。そんな人たちと一度コンサートで共演するのはいい機会だと思ったので、私自身もなんとかスケジュール調整をして参加することを決めました。
9月に二日間の練習をもうけて、10月にはコンサート前日と当日の練習で本番を迎えるというスケジュールを伝えられていました。
しかし実際は諸事情によって厳しいことになったのです。。。
そのことはまた改めて詳しくお伝えするとして、今日はSt. Jean du Gard の様子を紹介することにします。
St. Jean du Gard というのは名前にあるようにガール県にあります。モンペリエのあるエロー県のお隣。県庁所在地のニームはモンペリエから東側にありますが、St. Jean du Gard となると北側に位置し、モンペリエからは車で一時間半のところです。
St. Jean du Gard というのは名前にあるようにガール県にあります。モンペリエのあるエロー県のお隣。県庁所在地のニームはモンペリエから東側にありますが、St. Jean du Gard となると北側に位置し、モンペリエからは車で一時間半のところです。
コンサートは10月10日土曜日。モンペリエからの移動は天気に恵まれて、青い空ときれいな自然の景色のなか気持のよいドライブとなりました。
コンサート会場は村の中のプロテスタント教会。
今回のコンサートはオラトリオバージョンということで、オペラとしての演出はなしのバージョンでした。が、単に歌手が並んでつったって歌うだけというのではあまりにも味気ないので、オペラバージョンで使われた映像と照明はそのまま使うことになりました。
そのため14人の歌手と指揮のエレーヌと私だけでなく、演出家のベラと映像担当者、さらに舞台設置のスタッフも参加。モンペリエ在住のものセート在住のもの、またそのほかのところからメンバーがこの教会で現地集合となりました。
かつて紡績業が重要な産業だったこの村にとって、今回の「Bistanclac」は村の歴史を語るオペラでもあります。市内のあちこちでコンサートの予告ポスターが見られました。

St. Jean du Gard の村はかなりの山間にあって、周辺はのどかな自然の景色です。
一世紀前もこのままの風景だったんじゃないかと思われる景色。
さて、教会の中に入ると、、、
舞台が設置され、正面には映像を映し出すためのスクリーン。
映像と照明がはえるように周囲には暗幕がはりめぐされていました。
このオペラの内容自体は過酷な労働条件を扱っているので暗く厳しく重いものです。そして演出はないとはいえ、映像と照明の効果によってもたらされる舞台効果は大きくて重要。このコンサートでの歌手たちは全員華やかなステージ衣装ではなくて、グレー色の作業着っぽい私服で統一するようにとの指示が演出家ベラから出ていました。
私たちは12時現地集合で昼食と夕食の間の5時間、練習を行いました。
20時に開場され、20時半に本番スタート。一時間半ほどのノンストップオペラ。
内容も重いし、観客はもちこたえるのかとちょっと気にかかっていましたが、結果は「感動」に包まれた聴衆の盛んな拍手喝さい。
この村で実際にあった物語が題材ということでしたが、聴衆の中には当時紡績工場で働いていた女性の娘や孫たちもいて、皆それぞれに思いをはせ、感無量になったとの感想をたくさんいただきました。
前にも言いましたが、interesting な音楽で、映像や照明を効果的に使った素敵な演出もそろい、とてもオリジナルでユニークな素敵な作品だと思うのですが、何よりも重要なのは紡績工場の規則をオペラのテーマに選んだブデ氏の発想でしょう。聴衆からの反応の声の中でも、そのアイディア、発想、そしてなによりもそれを実現、実行したブデ氏の取り組みをほめたたえる声がとても多く聞かれました。
ピアニストとして参加した私にもたくさんの方が「Bravo 」と声をかけてくれましたが、「Merci !」という声がたくさんかかったのが印象的でした。この村の住民にとったら特別な思いで受け止めてくれたんでしょうね。
そんなこんなで結果的には感動的な夜となったコンサート。
しかし関係者、出演者にとってはかなり厳しい現実状況の中のコンサートでした。そしてそれは今回限りのピンチヒッターで参加した私にとっては、人生の記録に残るであろう厳しいものだったのです。
その舞台裏の話をまた今度詳しくお伝えします。
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