2009年11月15日日曜日

私をフランスに向かわせた人

よく人に聞かれる質問に、「どうしてモンペリエに来たの?」というのがあります。

どうして私がモンペリエに来たのか、どうしてフランスに来たのかというのには、それなりに理由やきっかけがあって、現実的な面を考慮してとった判断やリサーチの結果など、いろんなことが関係しています。
かなり若いころから(小さいころから)「いつか海外で暮らす」とか「旅行ではなくて、たとえ短期間でも海外で生活する」ということを漠然と人生の計画に入れていた私ですが、考えや候補となった計画はいろいろあったうえで、私が決断したのは「2002年フランス留学」という計画。

語学留学という手段をとらず、ワーキングホリーデーの道も選ばず、さまざまなボランティア活動でもなく、音楽学の研究で大学院留学という選択をし、しかもアメリカでもイギリスでもイタリアでもなくてフランスを選んだわけですが、その進路選択にはある人物が大きく影響しています。

それは友人でも家族でも恩師でもなく、私の目をフランスに向かわせた人というのはガブリエル・フォーレ(1845-1924)。フランスの作曲家です。
私が日本のとある大学音楽学部をピアノ科で卒業してから、大学院で音楽学の勉強をしたいと思ったときに私が研究テーマに選んだのがこのフォーレ。理由はとても単純明快。「フォーレの音楽が好きだから。」
音楽を専門に勉強しておいて「好きだから。」という発言はとっても素人染みてるかもしれませんが、フォーレの音楽が一番心にしっくりきたんです。一般的にフォーレの音楽はフランスのサロン音楽とか、甘い音楽とかやさしいとか、とにかくソフトでエレガントなイメージをもたれていますが、彼だってシリアスで堅い音楽もたくさん作曲しています。しかし、やっぱりどれをとってもファーレならではの何かがあるんですね。で、私個人的に言うと、それは「区切りのない流れ。」でした。こんな漠然としたフィーリングをそのまま研究テーマにした私は、彼の室内楽作品を通して作曲技法の分析研究のようなものをして修士論文を提出しました。
音楽学の分野で、研究を一度するとその作品や作曲家から離れてしまう人が結構いる中で、私はそれからずっとフォーレの音楽が大好きです。

大学院を修了後、就職を含めて次の進路を考えた私。
そこで結局選んだのが「フランス6人組と映画音楽」という研究テーマでフランス大学院留学だったのです。
このテーマの発端はというと、もともと映画が好きで映画音楽がとても好きな私がある日、フォーレが生きていた時代に、映画のために作曲したクラシック作曲家がいたということに目を向けたことに始まります。もちろんフォーレ自身が作曲していてくれたらよかったんですが、残念ながらその記録はありません。でも、フォーレの弟子のラヴェルは映画のために作曲しています。
そもそも、私たちが「映画」と呼ぶものが誕生したのはフランス。
そんなあたりをいろいろほじっていたら、「フランス6人組と映画音楽」というテーマでフランスで研究するというプランが現実的に形をなしていったのでした。

そんなわけで、私がフランスに目を向けたのはフォーレのおかげ。

だって、もともとフランスという国には特別に興味もなかったし、多くの日本人が抱くようにフランスに「おしゃれな国」という憧れももっていなかった。国としてはイタリアに惹かれていました。

でも音楽学という研究分野のことや、大学研究機関のことや、都市の大きさとか物価のこと治安のこととか、いろいろ真面目に考えたうえで、「映画が誕生したフランスで映画のために作曲をしたフランス人作曲家について研究する」ことに決定したのでした。

なんでモンペリエかという話はまたの機会においておくとして、とにかく、私がフォーレの音楽を初めて知ったのが高校生のときで、かれこれ15年以上、ずっと好きだということになります。フランスに来てから日本にいた時はあまり知らなかった作曲家の作品にも触れる機会が増えて、私の知識レパートリーは増えましたが、それでもいまだに一番好きな作曲家はフォーレなんです。interestingな作品やiterestingな作曲家はいるとしても、その全作品を通して好きな作曲家はフォーレです。

フランスに来てからフランス人が歌うフォーレの歌曲やフランス人が演奏するフォーレのチェロの曲とかを聞くとなんだかうれしくなってしまう私でしたが、なんと今、オペラjrの若者グループ「Groupe Vocal」は11月末のコンサートのためにオールフォーレのプログラムを準備中なんです。 こんなことめったにないことです。

ことの発端は、バカンス前に合唱指導・指揮のヴァレリーと新年度のプログラムのことを話していたときのこと。彼女が「フォーレの『ジン』がやりたいんだよね。」と言ったんです。そこで「あ、ほんと?!フォーレは私の一番のお気に入りの作曲家なの。やろうやろう!私、日本でフォーレについて修士論文発表したし、彼の作品は全部知ってるよ。」と、とびついた私。すると彼女も「あ、そうなの?私もフォーレの音楽が大好き。」というではないですか。
ヴァレリーというのは、とてもエネルギッシュでカリスマもある華やかな女性なんですが、そんな彼女がフォーレを好きというのには、正直ちょっと驚きました。でもこれはうれしい驚き。

当初は「フォーレの作品をメインにしたプログラム」を考えていたのですが、結局、フォーレだけの音楽になりました。混声合唱の曲、女声合唱の曲、そしていくつか歌曲をいれて一時間弱のプログラムのできあがりです。一人の作曲家の作品のみでプログラムを作るって、ありそうで意外とめったにないんですよ。

この週末も集中練習をしてきましたが、いい音楽ですよ~。

ある日、彼らと練習し終えたとき、私が満面の笑みをうかべて「うれしい。」とつぶやいたから、ヴァレリーも「何々?どうしたの?leonardo なんでそんなにうれしいの?」と尋ねてきたけど、なんのことはない、私はフォーレの音楽ばかりのプログラムができてうれしかったのです。

フランス人フォーレが作曲した曲を歌うフランス人たちをピアノで伴奏するというだけでも、やっぱりうれしいのです。そんなところに私の素人感覚がまだまだ残っていますね。

コンサートまであと10日ほど。「好き」とか「うれしい」という単純な気持ちを大事にしたまま、お仕事としてきちんとよい成果が出るよう、準備をしようと思います。

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