2010年1月15日金曜日

ソリスト登場!

モンペリエに戻るや否や、平常通りの活動を再開した私ですが、今週にはあの「ドイツレクイエム」のコンサート本番を迎えるために、火曜日から毎日エルヴェ・ニケ氏(Hervé Niquet)のもとLe Choeur Symphoniqueの合唱団も集結して、オーケストラとの練習を重ねています。

前回ニケ氏と練習をしたのが11月末のこと。以来、超多忙な彼はこの本番の週までモンペリエに来ることができなかったため、なんだかぶっつけ本番的な感じで、オーケストラと合唱とソリストの調整をして金曜と日曜の本番を迎えます。
火曜日、水曜日の日中、オーケストラだけの練習をし、火曜日の夜からはオーケストラと合唱の練習をし、水曜日の夜には二人のソリスト歌手が到着しました。
すでにオーケストラがいるわけですから、私のお役目は練習前のウォーミングアップを兼ねた確認プラス調整の30分だけ。ピアノを弾く内容的にはもう楽なんですけど、本番を直前にしてわずかな時間で問題を解決していかないといけないために、どうしてもピリピリムード。さらなる緊張感が必要で、短い時間ながらかなり意識が消耗されます。。。

さて、ブラームスの「ドイツレクイエム」は7曲からなるのですが、うち3曲目と6曲目にはバリトンのソロパートが、5曲目にはソプラノのソロパートがあります。
今回コンサートに参加するのは、今日のフランスバリトン歌手を代表する人 ロラン・ナウリ氏(Laurent Naouri)とデンマーク出身(確か、、、)の歌手 ヘンリエット・ボンド=ハンセンさん(Henriette Bonde=Hansen)です。
二人とも国際舞台での経験豊富な一流アーティスト。
水曜日の夜20時から初めて全員がそろっての練習があったのですが、その前に1時間だけ、指揮者とソリストの顔合わせ練習が私のピアノ伴奏で予定されていました。

この日、寒波と悪天候とストライキなんかも重なったために、ハンセンさんは飛行機のキャンセルと遅れのために約束の時間に間に合わず、ナウリ氏との練習だけになりました。
練習開始は18時とされ、私はオペラjrの練習が終わってからあわてて同じCORUM内の約束のリハーサル室にむかうと、もうすでにニケ氏もナウリ氏もいた!
ニケ氏は「あ~、君が弾いてくれるのか、よかったよかった!」と言ってくれ、その横でロラン氏はきっと予想外の姿の私の登場に「誰だこの人は?」的な顔をしていました。だって私はアジア人だし、この世界ではまだまだ若い方。一見、アジアの女の子でしかありません。

実はこのナウリ氏、フランスのスーパースターソプラノ歌手ナタリ・ドゥッセイさんの旦那さんなのであります。世界の舞台で夫婦共演なんかもしているカップルです。バリトン歌手らしく体格がよく、しかもスマートで見栄えのいい彼を、実は私はテレビで見たことがありました。
その人が私に向かって手を差し出して「こんにちは、ロランです。」と言い、なんちゃってピアニストの私は「初めまして、leonardoです。」とニッコリ握手。するとナウリ氏は「え?」と私の名前を聞き返しながらも、見事な発音で「leonardo?」と確認してくれました。

そう、こういう瞬間がいつも新鮮なのです。
まず、こういう大物スターを前に、今や緊張することもなく普通に自己紹介してしまえている私に我ながらちょっと笑えちゃう。
そして、やっぱりこちらの国ですから、こういうときもしょっぱなからお互いファーストネームで入るんですね。私からすれば、テレビで見たスターがいきなり自分の前で「ロランです。」ですからね。おもしろいもんです。

ざ~っとバリトンパートの合わせをしましたが、いや~なんという贅沢。フランスを代表する歌手の声を私のすぐ横から聞けてしまい、なにより、その人の伴奏を自分がしているんですから。
素晴らしい声ながらも、要求の高いニケ氏はやはり容赦なく気がついたことを指摘していきます。

こういうソリストと指揮者の初顔合わせって、いつみてもエキサイティングな瞬間です。
まずはお互いが腕自慢じゃないけど、自分のもってる力を披露しないといけないし、相手を魅了しないといけない。一緒にいい音楽をするためにそこにいるんですからね。で、たとえすでに名の知られた一流アーティストでも、指揮者の要求にそうようにしなければいけません。超ベテランの指揮者もいれば、まだ若手の指揮者もいる。若手の指揮者の場合、たとえまだ若いとはいったって、その舞台をまとめるのは指揮者の仕事。年配のベテラン歌手相手に遠慮ばかりしていてはいけません。この辺りからはそれぞれの人の性格が左右していきますね。

さて、この日のニケ氏とナウリ氏はだいたい同じ世代の二人。私から見ると、ニケ氏が彼らしく、細かいところまで自分の描くビジョンに沿って要求をバンバン言っていました。途中何度かナウリ氏に「うんざりさせてごめんね。」と言い、ナウリ氏も「いやいや、僕も同感だから。」とか言い合ってました。

ともあれ、ナウリ氏の声はぴかいち。「ドイツレクイエム」のソロパートにバシッとはまる声量と表現で、初合わせはうまくいきました。

お互いに「ありがとう」と言い合ったあとで、ナウリ氏が部屋を去り、残った私にニケ氏はいいました。「彼、いいよね~。素晴らしい声だしインテリジェントだし。」
ここら辺がニケ氏らしい。本人の前でべた褒めすることなんて絶対ないんだけど、心の中では「すごい!」と高く評価しているわけです。
私が「二人で一緒にするのは初めてなんですか?」と聞くと、「それがね、20年前に一回共演したんだよ、ここモンペリエで!」という。当時、彼は指揮者のアシスタントとして、歌手の準備をまかせられてたんだとか。
20年前と言うと、二人ともまだまだ若手の売り出し中ミュージシャンだったわけです。そういう二人が今こうしてそれぞれフランス音楽界を代表する人となっているって、彼ら自身にとってもうれしいことだろうし、励みになることでしょうね。

ナウリ氏はテレビで見たときとは違って、地味目で控え目で普通の人っぽい。そしてやるところはバシッと決め、かっこいいです。
もともと私はテノールの声よりも、バリトンの声のほうがずっとか好きですが、現在フランスを代表するバリトン歌手の声に惚れ惚れとしてしまいました。
きっとコンサートの観客も魅了されることでしょう。

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