その前の木曜日には通し最終リハーサルのジェネラル(日本でいうゲネプロ)があったんですが、正直言って、聞いていた私はハラハラドキドキ。よくいえばエキサイティングな演奏なんですが、やっぱりアマチュアの大合唱団はどうしても不安定な部分があります。
そもそも80人のオーケストラミュージシャンはプロとは言っても、統率するのが容易ではないのに、そこへプラス160人のアマチュア合唱団。「ドイツレクイエム」という大曲を前に、「無難な運転をすればいいのに、、、、」とついつい私も思ってしまいそうなニケ氏の挑戦的な運転。
プロのオーケストラは見事指揮についていくとしても、160人のアマチュアの中にはついていけてない人がちょこっとでもいると、全体の演奏は危険にさらされるわけです。
そんなわけで木曜日のリハーサルが終わった時点で、私の心境はちょっと複雑でした。
10月の練習開始の時期からしたら、アマチュアのみなさんはすごい進歩をして、すばらしい取り組みをしたことは明らかなのですが、普段の練習時にうまくいった時と比べると、この木曜日の出来はちょっと残念なものでした。
ソロのプロ二人はもちろん素晴らしいし、特にバリトンのナウリ氏はさすが。大ホールではどう響くのかな~と思っていたけど、響き抜群でした。
金曜日の本番前のウォーミングアップに行くと、ニケ氏に「君、昨日の練習聞いてた?」と聞かれました。複雑な心境に陥っていた私は、失礼にも彼に声をかけずにこっそりと立ち去ってたんです。
で、改めて感想を聞かれたからには正直に思ったことを言いました。良いところと悪いところを。まあ、アマチュアなんだから、プロと仕事をするときと同じ要求はできないのはわかりきってます。でもやるからには、いい結果を出したいに決まってます。その辺の要求度と現実の理解とのラインをどこにおくかが人それぞれの判断ですよね。
で、私としては感想のレジュメとして、「アマチュアの彼らの残念なところは、100発100中の成功度には達せていないところ。」と言わせてもらいました。そしたらニケ氏も全くの同感という感じで、「そうなんだよ!それだよ!やる度に毎回うまくいってくれないんだよね。。。」と。
この日のニケ氏はやっぱり自分の責任に対するプレッシャーからかなりピリピリしてました。私とは普通にしゃべってくれるんですけど、合唱団のみなさんにはかなり言いまくり。
アマチュアのみなさんだから本番を前に余計に緊張との戦いとか大変だろうに、それに追い打ちをかけるような指揮者の言葉を聞いて、「う~ん、ニケさん、それってちょっと逆効果なんじゃ、、、、。」と思ってしまいました。(笑)
ま、そこら辺もリーダーの性格、人柄によりけりですよね。
この金曜日は私は他の仕事があったためにコンサートは聞けず、ニケさんにも「今日は聞けないんです。ごめんなさい。」と言うと、「気にしないで、自分だって最後まで残らないかもしれないから。」とかかなりのブラックジョークで返してきたから、ちょっとは本心も入ってるだろうけど、「まあまあ、そうは言わずにがんばって!よいコンサートを!」と声をかけて別れました。
さて、金曜日のコンサート終了後の人々の話によると、結構よかったんだけど、2か所、コーラスが一部ずれてしまうハプニングがあったそうです。
日曜日の本番前にニケ氏にあうと、同じことを言ってました。「最後なんてかなりよかったんだけどね~。」と。
日曜日のコンサートは招待券をいただいたので、ウォーミングアップを終えてからはホール内の特等席で聞くことができました。
演奏中、相変わらず私はハラハラドキドキでしたが、みんな見事な集中力を発揮して、あやうくなりそうな部分もあったけれどちゃんとしがみついて、ピンチのたびに乗り越えていました。
大迫力のパッセージなんて鳥肌がたつほど見事だったし、「みんな厳しいニケ氏の指導によくついてがんばった!おめでとう!」という気持ちで、聴衆の拍手の口火を切らせてもらいました。
木曜日と比べたら断然よかったし、普段の練習のことを考えても、満足のいくとてもよい結果だったと思います。ブラボーだって飛んでました。
ニケ氏もホッとしたようで、最後は拍手をうけながら、指揮台の手すり棒をひっこぬいて肩に担いで退場するアドリブギャグをサービス。
彼にコンサート終了後に楽屋に来てと言われていたのですが、この日は木曜日のような複雑な心境ではなく、晴れやかな気持ちで楽屋をたずねました。
すると先客はモンペリエの音楽界の王様クリング氏。
「おっ。」と思いましたが、どうやら二人は穏やかに言葉を交わしている。つまり、二人とも満足してるってことですね!
王様にも挨拶をして、「入って入って!」とニケ氏にうながされて楽屋に入るや否や、「どうだった?」と聞かれました。ごく正直に「よかった!」と答え、とくに「あなたのエネルギーはすごい!」と伝えました。
というのも、この驚きのニケ氏、実は金曜日のコンサートが終わってから、土曜の朝一の飛行機でスイスのバーゼルに飛び、土曜日の夜はそこでコンサートを指揮し、日曜日の朝一の飛行機でモンペリエに戻ってきてこのコンサートを指揮したというんですから。
普通に考えて、80人のオーケストラと160人のアマチュア合唱団と2人のソリストを指揮するのって、普通の人からは考えられない集中力とエネルギーを要するのに、この驚異のスケジュールをこなすこの人って。。。
正直言って、普通の人ではありませんね。
最後にニケ氏が「とにかくサポートしてくれてほんとありがとう。」と言ってくれたので、「こちらこそ、一緒にやろうと声をかけてくれて、参加さえてくれてありがとう。」とお礼をいいました。そしたらこの厳しいニケ氏が、伴奏ピアニストとしてとってもうれしくなることを言ってくれたうえ、「次回も君にやってもらいたい。」と言ってくれたので大きな励みになりました。なんたって、この人はインターナショナルな活動をしているだけでなく、若いころパリのオペラ座でコレペティを務め、同じくパリオペラ座の合唱指揮も務めた人で、オペラの世界のピアニストがなんというものかを知っている人。そのうえ厳しくて有名な人ですから、そんな人に称えてもらったらほんとうれしくなっちゃいます。
「ではまた今度!」と言って別れたのですが、合唱団のメンバーが楽屋での打ち上げに呼んでくれて、みんなと談笑してたら、最後にはニケ氏と二人のソリストも顔を出しにきました。
合唱団のメンバーがそれぞれお礼とともに、私のピアノに対する感想を言ってくれて、うれしかったんですけど、特におもしろかったのは、ピリピリしてみんなを恐怖に陥れるニケ氏の横で(笑)、いつも落ち着いて穏やかな様子の私にみなさん救われたということ。私のもつムードのおかげでニケ氏までもが柔らかくなっていたとまで。「ハハ、それは何より!」てなもんです。
打ち上げはニケ氏によるスピーチと合唱団のまとめやくイヴのスピーチで閉められました。ニケ氏はいつもながらちょっと毒舌もまぜながらも満足をした様子で、クリング氏も満足されたとのよい知らせを発表しました。つまり、また来シーズンも続けられるというわけです。晴れて「また次回!」とスピーチを終えられました。
合唱団のみなさんはそれぞれ普段の仕事を普通こなしながらのこのコンサート参加。みなさんお疲れ様~!また来シーズン!
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