
さて、今回のコンサートは、今年6月に演出つきでの公演が決まっているブリテン作曲「The Golden Vanity」を中心としたプログラムで行いました。
イギリスを代表する作曲家ブリテン(Benjamin Britten)は児童合唱のためにたくさんの曲を書いていて、その多くは子供らしい「純粋さ」とか「若さ」を表現してますが、16世紀の抒情詩をもとにして作曲された「The Golden Vanity」は、「裏切り」とか「厳しい現実社会」がテーマの悲劇なため、音楽も不協和音がふんだんに使われていて、「なにやら尖って鋭く激しいもの」っぽい音色で覆われています。
少年合唱とピアノのために作曲されたこの作品、1966年に有名なウィーン少年合唱団のために書かれて、ウィーン少年合唱団によって初演が行われています。演奏時間20分弱で、オペラというわけではないのですが、きちんとストーリーにそって音楽は展開し、配役もあります。作曲者による注意書きには、「衣装をつけて演じるのは可能だが、演出舞台はなしで。」とか、「ロープなどの最低限の小道具は使ってよい。」などの文が見られます。
オペラjrでは、それをカトリンヌの演出とジスランのオリジナル衣装とともに6月に一般公演をする計画を立てました。
The Golden Vanityというのは財宝を輸送中のイギリスの船で、トルコの海賊と遭遇したところからストーリーは始まります。激しく攻撃してくる海賊に苦戦しているイギリス船の中で、海賊船を沈没させるために海にもぐって策をしかけるという大役に名乗り出た船乗り見習いの少年が主人公です。勇敢な彼に、イギリス船の船長は、成功したあかつきには財宝と自分の娘をやろうと言います。少年は荒波の海に飛び込み、見事海賊船をパニックにおとしいれるのですが、任務を完了した少年に言い放たれる言葉は「この財宝を守るためには、いかなる約束も価値のない意味のないものだ。」というもの。大波にもまれながら少年は「ロープを投げてください!早く助けて!波にのまれる!」と必死で叫ぶけれども、船長は「助けてやらない。」と言い放ち見ているだけ。力尽きた少年がぐったりとしたころになって、ようやく船乗りたちは少年をひきあげます。でももちろんすでに時は遅し。少年はもう息をひき取っていました。その後、船乗りたちはこの海峡を通る度に、「波にのまれる!」と叫ぶ少年の声を聞くのでした。。。。
という何とも残酷な生々しいストーリーなんです。これが子供向けの音楽だなんて、はっきりいってショッキング。
6月の演出付き公演を前に、今回のコンサートではこの音楽からの抜粋にストーリーの展開を説明するナレーションをつけて発表しました。不規則なリズム、不協和音の連続で難しくデリケートな音楽です。そしてピアノパートは半音の衝突や不協和音のクラッシュがあちらこちらにちらばる激しい楽譜。
一時間のコンサートにまとめるために、20分弱のこの音楽をメインにして、船乗り、海賊、港にちなんだ音楽を集めてプログラムを組みました。les marins というのがフランス語で船乗りたちのこと。
1・まずは目下Le Choeur d'enfants がコンサートに参加中のヴェルディ(Giuseppe Verdi)のオペラ「オテロ Otello」から、子供たちが登場して歌うパッセージを。ちょうどいいことに、この場面は帰還した船を出迎えるために、民衆が港に集まっている場面なので、コンサートのテーマにもぴったりマッチ。
2・「The Golden Vanity」。お客さんたちも、予想だにしてなかった残酷な悲劇に驚いて、ナレーションに対して息をのんで「え~!」とか「まさか!」と声を出してリアクションを示してくれていました。難しい音楽ですが、子供たちもびしっと決めてくれて、うまくまとまったと思います。
3・ダリウス・ミヨー(Darius Milhaud)が子供のために書いた歌曲から「船長の歌」(Chanson du capitaine)をソリストが独唱。
4・フランスで古くから伝わる船乗りたちにまつわる民謡を、フランス現代音楽の第一人者デュティユ(Henri Dutilleux)が多声のアカペラ曲に編曲した「Chansons de bord」。「航海の歌」といった意味ですが、デュティユは10曲を3つのグループに分けました。今回は4曲ある「Quatre chansons à virer」を選び、そのなかからまず「ロシェル(地名)の娘たち」 (la filles de la Rochelle)、「もうマリオンには会えない」(Je n'verrons plus Marion)、「 グラン・クルー(船の名前)」(Le grand coureur)の3曲を歌いました。
6・ピエルネ(Gabriel Pierné)の「仕事の歌」(Chansons de métier)から「綱作り職人」と「靴職人」。さすがに「靴職人」はテーマの船乗りと全く関係なかったりしますが。。。。(笑)
7・ミヨーが子供のために書いた歌曲集から「風のバラ」(la Rose des vents)。3つの歌からなる組曲で、「船乗りの歌」(Chanson du marin)を男の子たちが歌い、続いて「女中の歌」(Chanson de la servente)をLe choeur d'enfants の中でも年長の女の子が5人で歌い、最後には「歌」(Chanson)を、Le choeur d'enfants出身で今ではLe Groupe Vocal のメンバーで、16歳になった今は立派なバリトンの声がでてきたマキシミリアンがソロで歌いました。
8・マクダウウェル(Edward MacDowell)の「海」(The Sea) をソロで。
9・デュティユの「Quatre Chansons à virer」から残る一曲「マルゴ」(La Margo)を歌ってプログラム終了。
実は、このコンサートのプログラム、1週間前になってようやく決まったものだったんです。というのも、このシーズン、オペラjrとしてあまりにも行事やらプロジェクトが多くて、このコンサートのための準備期間が落ち着いてじっくりもててなかったんです。いつも1時間のコンサートとしてやってますから、それだけの音楽が必要なわけですが、楽譜が読めない子供たち相手の作業はなかなか予期しずらい面もあって、土壇場での決定もめずらしくありません。私個人としても、本番の1週間前に楽譜をもらうことなんてめずらしくありませんが、さらにはキー(音程)を上げたり下げたりの移調を知りもしない曲で命じられるとちょっと苦しかったりする。今回はミヨーの曲2曲で3度キーを上げる移調をしなくてはなりませんでした。近現代の曲での移調は簡単ではないですから。。。
そんなわけで、よく知らないままの曲を移調して弾き、最近の忙しさのためにちょっと「集中・没頭」に欠けてた感もところどころあるうえ、ここ近年悩まされている指先と爪のトラブルのために絆創膏を貼りまくって演奏したピアニストでした。やっぱりスケジュール調整とコンディション調整という問題は、きちんと対処しないといけない大きな課題ですね。
お客さんはいっぱいで席は完売だったのですが、いつもならジャーナリストや音楽関係者が聞きに来て、専門家からの反応も聞けるわけですが、今回のコンサートでは今のところそういった人たちが来ていたとの情報が入っていません。それだけがちょっと残念。でもまあともあれ、無事に終わってよかったです。
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