2010年2月20日土曜日

音楽の宴  Les Victoires de la musique classique 2010

ちょっとご無沙汰していました。

もう二週間前のことになりますが、2月8日のLes Victoires de la musique classique 2010 は無事に、そして盛大に終わりました。



テレビを見た人、会場にいた人、誰に聞いても「よかった!」との声でした。招待券をあげた友人は「まるで音楽のおもちゃ箱をひっくり返したみたいな夢のような時間だった。」ととってもポエチックな感想をくれました。
もちろん、音楽と言ってもクラシック音楽に限られていたわけですが、クラシック音楽のもつすべてのレパートリー、ジャンルが集結していたわけですから、彼女の表現にも納得。

そもそも「クラシック音楽」というもの、もともと好きな人でも熱狂的マニアくらいのレベルにならないと、普段なかなかたくさんの曲を聴いたりすることはできません。そして知ってる曲も限られたものになっていて、それぞれの好みも手伝って、ピアノ曲とかオーケストラ曲とかオペラとか、ある特定のジャンルの音楽にだけ興味があったり、バロック音楽やロマン派の音楽といったある特定の時代の音楽だけを聴く人がほとんどだと思います。
そんな人たちにとったら、このセレモニーは知らなかったジャンルやスタイルの音楽を発見するチャンスとなるわけで、とっても意義のあるいい機会だと思います。しかも集まったのは超一流の演奏家たちばかり。誰もが圧倒されるのも当然です。

後日になって184000万人の視聴者が番組を見たと発表されました。主催者側もいろいろと趣向をこらしたかいあって、ここ数年減っていたテレビ視聴者の数が抜群に跳ね上がったそうです。よかったよかった。

さて、この日CORUMに到着した私は関係者バッジをもらい、

ちょっといつもとは違う雰囲気を写真に撮ったりしていました。

するとそんな変なアジア人ツーリスト化している私の横をすっと通っていった人がいて、その人はエレベーターに乗り込みました。で、私も写真はもうとったから同じエレベーターに乗り込みました。で、その女性は同じくその場にいて自分の髪型を気にしているオペラjrの7歳のちびっこに「その髪型とってもすてきよ。」と声をかけました。そこでその人の顔をみると、なんとなんととっても有名人ではないですか。世界中で活躍するエレーヌ・グリモーさんです。私の目の前20センチのところにその人がいて、どうやら私以外の人は彼女の正体がわかってないみたい。私も「うわ~!エレーヌ・グリモーさんですか?!」とか大騒ぎするのもどうもいけてないと思い、一瞬「なんと言おうか??」と迷いました。で、彼女はすぐに1階でエレベーターを降りていき、「Bonne soirée !」(素敵な夜を)と私たちに言ってくれたので、「素敵なコンサートをしてください!」と声をかけました。これなら彼女も私が彼女が誰かわかってるとわかってくれたことでしょう。

さて、このエレーヌ・グリモーHélène Grimaud。美人で有名なんですが、実物もきれいな顔にさらにチャーミングさが加わって素敵なうえに、肩の力の抜けたシンプルな雰囲気がとても素敵でした。で、目の前で見たので断言できますが、この人、めちゃくちゃ若く見えます。もともと私も30代、まあ35歳くらいかなあと勝手に思ってたんですが、なんと今年もう40歳なんですって!信じられません。

で、失礼な話、私は彼女のことを「美人なピアニスト」だから売れているビジュアル系ピアニストの一種かと思ってるところがありました。さらに彼女が野生のオオカミ保護活動をしていることも有名な話で、彼女の自叙伝はベストセラーにもなったし、話題が豊富なピアニストととらえていました。
でもこの夜、得意なラヴェルのピアノコンチェルトを弾いた彼女の姿を見てると、なんだか「のだめ」的な感覚的天才型のピアニストだという強い印象を受けました。音楽と一心同体になっているというか、楽しんでいるというか、自分のものにしつくしているというか、とにかく生き生きとしているんです。この日、彼女の演奏を生で聴いた人、テレビで見た人、みんなして彼女の世界に圧倒されていました。

彼女は15歳でCDデビューした早熟な天才児ピアニストだったわけですが、人間の精神面を追求する人でもあり、オオカミとの出会いからは大学で専門的な勉強をしたうえに資金集めの面でも全力をそそぎ、ついにNY郊外にオオカミセンターを設立、オープンさせた人。天に二物も三物も与えられたうえにエネルギーと情熱にあふれるユニークな人ですね。コンサートのキャンセルとかよくするのも有名で、気難しい人として知られていますが、実際に見た印象では、気取らないシンプルな人でした。

この日をきっかけに彼女に興味をもった私は、知り合いがもってた彼女の自叙伝を借りてさっそく読んでみることにしました。

この本は2冊目ですが、一冊目 Variations sauvages (日本タイトル「野生のしらべ」) とともにもちろん日本でも出版されています。

彼女のオフィシャルサイトはこちら

http://www.helenegrimaud.com/





さて、この日の舞台裏はというとけっこうごっちゃごちゃ。というのも、通しリハーサルというのがなかったうえに情報不足のために、それぞれの出演者が自分が登場する時間をはっきりと知らされていなかったのです。オペラjrもその例にもれず、当初はセレモニー開始から30分後くらいからスタンバイという話だったのに、実際に舞台裏に行ってみると、「あなたたちはまだまだ後ですよ!早すぎます!」と言われて控室にもどる始末。こんなことをしてるのは私たちだけじゃなくて、エルヴェ・ニケ氏のグループ Le concert spirituel のメンバーも舞台裏で時間を気にしてうろうろしていました。

さて、舞台袖にいくと、司会者であるマリーさんやロデオン氏のプレゼンテーションの様子が聞こえてきて、そこでようやくテレビの生放送なんだという実感がしてきました。私たちの前はヴァイオリニストのヴァディム・レーピン氏 Vadim Repin。ヴァイオリン界のスーパースターである彼は今年名誉賞に選ばれたんです。

彼とのちょっとしたインタビューが終わるといよいよオペラjrの番。さて、ここからは数日前にユーチューブに投稿された録画をご覧ください!モンペリエ・オーケストラのアシスタント指揮者に就任したばかりのロベルトさんの指揮で、フォーレ作曲の「パヴァーヌ」です。

http://www.youtube.com/watch?v=wMmb9tcrQis

どうでしたか?


私は舞台袖の生放送のモニターを見ていましたが、彼らの真剣な表情が心に来ました。ついさっきまでは楽屋でバカなことしてた若者たちですが、本番、やるときはびしっとやるんですね。感心です。そして直前には「怖いよ~!」と震えていたおちびたち。7歳~9歳の子たちですが、しっかりと舞台の世界に入りきっていてこれまた感心。親ばかみたいですけど、彼らのまっすぐな表情をモニターで見ていて、「ils sont magnifiques 」 と思ってしまいました。私がこんな表現を使うのはめったとないこと。

彼らの登場時間は4分半。合唱指揮のヴァレリーと今回振付を担当したジスレンヌがあいさつに舞台にでて終了。かなり熱狂的な「ブラボー!!」が飛び交っていましたが、これで本当に終了。本当にあっというまのできごとでした。

終了後、若者も子供たちも本番があまりにあっというまだったためか、興奮が後から来た感じで大騒ぎ。みんなで写真をとったりして成功を祝いました。

彼らにとったら一生ものの経験であり、一生ものの思い出となったことでしょう。

今回このプロジェクトに参加したのはLe Groupe Vocal はほとんど全員ですが、Le choeur d'enfantsと La petite choraleからはほんのごく一部の6人ずつ。大部分のメンバーは参加できなかったわけで、 うらやましく思っていたことでしょう。

気がつけばもう22時に近く。せっかくだからやっぱりホール内で残りのセレモニーを生で聞くことにしました。

するとちょうどニケ氏のオーケストラが演奏中でした。



そのあとピアニストや歌手の演奏もあり、続いて再びニケ氏。今度はモンペリエ・オーケストラを指揮するのですが、何やら最初からギャグの演出。そしてScieley et Dino で有名なコリンヌとジルが出てきてどたばた喜劇に。お笑いのプロですからやっぱりおもしろいし、ニケ氏はプロ顔負けの徹底ぶり。

会場もにぎやかになったところへ、変なピエロが登場。実はこれが前回の記事でも書きましたが、モンペリエ・オーケストラのヴァイオリン奏者であり、私の恩師の息子であるニコ氏です。



「忘れられた楽器の嘆き、、、」と言って始まる彼のシーンもユーチューブに投稿されたので、ビデオをご覧ください。

http://www.youtube.com/watch?v=30y17PVjpHM&feature=related




この不思議な楽器、フランスではscie musicale シー・ミュジカルと呼ばれますが、シ―とはのこぎりのことです。
このトリオ、実はハープ奏者もアルプス・ホルンを吹くのもオーケストラのミュージシャンでした。
ニコ氏は実に多才な人で、タンゴの演奏なんかもすごくうまいし、傍らではピエロとしても活動しているとか、、、。



この夜は本当にいろんなジャンル、いろんな編成での音楽が聞けるコンサートでした。私が実際にきけたのは後半さいごのほうだけですが、その中で純粋に「演奏」にはっとさせられたのはピアニスト Alexandre Tharaud タロー氏の演奏。彼はショパンのノクターンの遺作を弾きましたが、その時にピアノの音色に心打たんです。こんな大きなホールの最上階でピアノのソロの演奏を聴くのは初めてですが、ピアノの音色だけが会場に響き渡って、誰もが息をのむようななんだかクリスタルな時間でした。この日、何人かのピアニストの演奏を聴きましたが、同じピアノを使って演奏しているので、それぞれのピアニストの持つ音色の違いがはっきりとわかったのです。うん、すごかった。



さて、このコンサート&セレモニーはちょっと遅れが出て放送延長をしながらの幕閉めとなったようです。会場内に並んだ大型テレビでは生放送の番組の映像が映し出されていたので、スタッフの名前や番組終了のテロップが流れているのを確認しながら、舞台上で続く演奏を聴いたりして、なかなかおもしろい経験でした。


私はヴァレリーとジスレンヌとともに最上階の席で聞いていたのですが、セレモニーが終わってから関係者の皆さん方にあいさつしに降りて行きました。

そこで、この日の私のおめあてであるマリーさんとしゃべれるかな~と期待したけど、彼女の周りにはあまりにたくさんの人がいて断念。でも目の前50センチで生マリーさんを見ました。テレビで見る通り、いやそれ以上にきれいな人。テレビで見る知的なイメージよりもチャーミングな雰囲気も加わって素敵な人。ですが彼女の華奢な身体には驚きました。まず、私よりも背が低かったのにも驚きましたが、スマートを通り越してちょっとやせすぎだったんです。仕事が忙しいのはわかりますが、ちょっと心配になる痩せ方でした。。。身体には気をつけてくださいね、マリーさん。


この後はCORUMの吹き抜けロビーに準備されていたワインを片手におしゃべり。

関係者や出演者の打ち上げパーティーみたいなものだったわけですが、そこではオペラjrに対して称賛の嵐。「こんなの見たことない!」という反応がほとんどでした。確かに、児童合唱とかどこにでもあるにしても、ただ並んで歌うだけではなく演技や動きを伴って歌うグループは めずらしいもの。そして彼らの「自然体」も高く評価されました。顔つきも若者や子供らしいそのままの自然な顔で、動きも変に作られていないところ、そして声ももちろんトレーニングをしているとはいえ、個彼らの年齢にそった自然な声。

児童合唱というのは、もともと西洋では教会の少年聖歌隊から由来しています。そのせいでフランスでもいまだ子供合唱の団体はメトリーズ(maîtrise 聖歌隊養成所の意味)と呼ばれるのがほとんどなのです。クラシック音楽作品のなかでも児童合唱の部分は天使だの聖歌隊だのに関係したものが多い。そんな教会からきてる影響で、西洋の少年合唱団、児童合唱というのは声の質にも一定の傾向があります。ちょっと閉まった感じというか、ひきつった感じというか、堅いというか、、、。あの有名なウィーン少年合唱団だって、やっぱりこの路線にたっています。
一方、日本は合唱が盛んな国で児童合唱というのも各地にあります。とてもよく練習されていてぴしっとまとめられていますが、何やら気にかかるのはどこのグループも同じようなあの笑顔。明るい調子の曲だといっそう際立つ、思いっきり作られてしまっているあの笑顔。。。アジアの某国のセレモニーに通じてしまいかねないあの笑顔を見ると、これはアジア人の性質からくる傾向なのかな~と考えたりもする。


ともかく、声も顔つきものびやかで自然体のオペラjrのカラーは、初めて見る人に強い印象を与えました。


指揮者やミュージシャン、関係者たちと言葉を交わしながら女3人でしゃべっていると、気がつけばもう周囲は閉店状態。いつのまにやらワインなどをサービスしていたカウンターもスタッフもいなくなり、会場に残ってるの最後の10人の中の一人になっていました。

外は雨。0時45分。

音楽の宴を終えた夜でした。

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