2010年3月31日水曜日

Amahl and the Night Visitors アマールと夜の訪問者たち

私が最近めちゃくちゃ忙しくしてる理由の一つが、来週公演本番を迎えるオペラ「アマールと夜の訪問者たち」の練習。私はこのプロダクションでコレペティを務めています。3月20日からは金曜日を除き毎日6時間の舞台稽古を重ねてきました。

そして昨夜、オーケストラとの練習開始を前にした最後のピアノリハーサルであるGénérale piano が行われ、私の大事な任務も半ば完了。ということで、ちょっと一息ついてるわけです。

このオペラ、原題は英語で「Amahl and the night visitors」で、フランス語タイトルは「Amahl et les visitors du soir」です。

片足が不自由な貧しい羊飼いの少年アマールが主人公です。明るく夢見がちな彼には作り話をするという悪い癖があります。ある日、キリスト誕生のエピソードで有名な東方の三賢者が現れて、「外に3人の王様がいるよ!」と言うアマールに、「もう作り話はいい加減にしなさい!」と怒る母親。けれども実際に3人の姿を目にし彼女は驚きます。賢者たちは「神の子の誕生を告げる星を追ってここまできた。」と言い、「まだ旅は続くのだけれども一晩だけ休ませてくれないか。」と頼むので、アマールの母親は「貧しくて何もない我が家ですが、、、。」と家に通す。そこへ羊飼いたちが賢者たちにお供え物を持って集まってきます。おもてなしの宴も終わり、皆が疲れて寝静まったころ、三賢者がもつ金銀財宝の山をじっとみつめる母親。神の子への贈り物である宝の山ですが、「この貧しさから抜け出せるのなら。ほんのちょっとぐらい、、、」と金貨に手をのばしたところ、賢者の付き人に見つかります。そこへ母親をかばいにくるアマール、許しを乞う母親、神の子は宝など必要としないからもっていきなさいと言う賢者。「私たちも待ち望んでいた神の子に何か贈るものすらない、、、。」と嘆く母親。そこへアマールが「僕の松葉づえを贈ろうよ!」と言った瞬間、奇跡が起こる、、、、。というのがあらすじです。

当初、フランス語上演をするか原語上演にするか議論されたんですけど、歌詞のフランス語訳がいまいちだったことが決め手となり、私たちは英語上演の翻訳字幕付きで公演を行うことにしました。

この作品はイタリア出身でありアメリカで生活をした作曲家ジャン=カルロ・メノッティ(Gian Carlo Menotti 1911-2007)が1951年に作曲した全一幕のオペラです。台本も彼が書いています。テレビ放送のために作られた作品で、今日、アメリカではクリスマスシーズンの定番オペラとして親しまれています。その作品を春真っ盛りの4月にするので、私の英会話の先生でアメリカ人のヴィッキーは「なんて季節はずれなことするの?!」と大笑いしてました。

さて、この音楽、簡単に言ってしまえばクラシックだけどクラシック過ぎない音楽とでもいいますか、とても耳に心地よい音楽で私は大好きです。メロディアスな部分とちょっとオリエンタルな音色もあって聴く者を飽きさせません。いつも同じ曲ばかり練習するというのはうんざりしてきて当然のことですが、私は飽きることなく毎回喜びをもって弾いてましたからうれしいことです。

このオペラの演奏時間は約50分。この作品をモンペリエ・オペラ座がオペラjrとの共同制作で公演するのです。日程は4月6日の火曜日、7日の水曜日、そして9日の金曜日の三公演。本番での伴奏はモンペリエ・オーケストラ。指揮はジェローム・ピウモン氏(Jérôme Pillement)です。実はこの彼、昨年秋にオペラjrの新ディレクターに就任した人です。これまでにフランス各地はもちろん、西ヨーロッパや北アフリカ、中国なんかで指揮を振ってる指揮者さんです。私は去年の6月、野外公演のオペラのコレペティの代役ピンチヒッターで呼ばれたときに、一緒に仕事をさせてもらったことがあります。

この舞台がオペラjrの今年度の超目玉作品の一つではあるのですが、参加するのはこのプロジェクトのためにだけ一般募集された若者15人のグループと、オペラjrの中心グループであるGroupe Vocal(26人) による合同メンバー。一般募集のグループはAtelier de création と呼ばれ、審査・オーディション一切なしで集まった15人。歌経験、舞台経験ゼロの初心者集団です。

この作品では主人公のアマールとその母親、そして東方の三賢者とその使いがソリストとして登場します。合唱は羊飼いたち。作品中4分ほどの踊りのシーンがあって、普通は歌う羊飼いたちと踊る羊飼いたちはそれぞれ、歌手とダンサーが務めますが、オペラjrではすべて自らする!ソリストに選ばれた子たちを除いたメンバー全員が、歌いあり踊りありの舞台に挑むのです。合唱パートは4曲しかないとはいえ、ほとんどがアカペラ。正直難しいです。

Atelier de création の彼らとは9月から週に一回と月に一回の集中練習を重ねてきましたが、初心者相手と言うのはやっぱり勝手が違いますね。発声の仕方、身のこなし方からなにからなにまで何も知らない、そこら辺にいるごく普通の子たちであるその彼らに与えられるのがあまりに大きな舞台なので、こちらもどうしたって要求過多になってしまいますもん。

一方、Groupe Vocal の子たちはもともとオーディションを通って入会しているうえ、オペラjrのメンバーになってすでに数年が経ってる子たちがほとんど。例のテレビ出演経験にしろ、とにかくもう舞台に慣れています。そして何より歌うのが好き、踊るのも好き、演じるのが好き!というこたちばかり。彼らは9月からいろいろなプロジェクトを抱えながらの参加なので、はっきり言って「アマール」のためにしてきた練習はほんのわずか。月一回の集中練習と2月末の一週間の集中練習のみでした。

このようにレベルの差が大きい2つのグループですが、うまいこと融合して、経験豊富なGroupe Vocalのメンバーが初心者グループを上手にサポートして共に 舞台作りに励んでいます。

この若者たちをとりまく私たちスタッフについてもまたいずれお話したいのですが、まずは演出家だけでもご紹介しておきたいと思います。まだ30代後半の若い俳優さん、リシャール・ミトゥ氏(Richard Mitou)が演出を務めます。彼は昨年このブログでもとりあげた現代オペラ「Affaire étrangère」で演出を務めた人。リアリズムを重視する面とファンタジーいっぱいの面をうまく融合させるスタイルをもった人だな~、というのが私の個人的感想。舞台にそそぐ情熱あふれる彼の演出は素敵です。彼が集めた仲間が衣装と照明美術を担当し、舞台美術はモンペリエ音楽界の王様クリング氏の息子殿が務めます。(本人はこう呼ばれるのが嫌だろうけど、、、。)ここにダンスの振付師も加わり、オペラjrの合唱指導のヴァレリー、私がコレペティで参加し、残りの音声、照明、メイク、小道具、大道具etc のスタッフはモンペリエ・オペラ座のチームです。

例年、オペラjrとモンペリエ・オペラ座の共同制作はバカンス中に舞台稽古をするようにスケジュールを組み、バカンス明けに本番を迎えるというのが定番だったのですが、今回はモンペリエ・オーケストラとのスケジュール調整のため、バカンス前に本番ということになってしまいました。何が問題かと言うと、参加する子供や若者は学校が普通にある時期に連日練習が入ってしまうということです。3月20日から最後の公演が4月9日ですからその間のほぼ3週間、午前中は学校に行き、午後は学校を欠席して午後から練習、宿題をこなしつつも夜も練習で家に帰るのは23時というスケジュール。しかも土日も練習。この三週間で休みは金曜日が一回、本番初日前の日曜日と祝日、そして最終公演日前日の一日だけ。ほんとにフル回転です。

そのために私たちの心配は彼らの疲労。プロとは違って、歌うということの加減の仕方をまだ身につけていない彼らですから、下手に繰り返し歌って声が潰れてはもともこもない。そして集中力の使い過ぎによる疲労だってあります。

音楽面でこなすべきこと、要求されることに加え、演出面で要求されることの情報量は膨大です。プロのオペラ歌手にとっても大変なことですからね。

そして一番の敵は緊張と不安からくるストレス。ソリストであっても、合唱のメンバーであっても、やっぱりこんな舞台にたつというのは非日常のことですから、いくら「歌が大好き!」と言う子でも、内にたまって増大していくストレスはちょっとやそっとじゃありません。毎年こういう目玉プロジェクトでは、毎回のことながら必ず何人かはある日突然たまってたものが爆発して涙をみせます。そこらへんもうまいことサポートしながら誘導していくのが、私たち大人でありプロのスタッフの大事な役目の一つでもあります。

今回の舞台ではアマール役と母親役が二人ずつ選ばれ、それぞれのペアによるダブルキャストで公演を行います。公開ゲネプロと公演一夜を務めるペアと、学校相手の教育的コンサートの枠組みで行われる公演と最終日を務めるペアにわりあてられました。

アマール役を務めるのはオペラjrの児童合唱グループle Choeur d'enfants のメンバーである14歳の男の子Vと15歳の女の子L。母親役はle Groupe Vocal から去年ディドンとエネでも準主役のベリンダ役を務めた16歳のNとディドンの代役を務めた20歳のB。

このダブルキャストの選択のために、練習時間は半分に目減りしたようなもの。限られた練習スケジュールの中で、どちらのペアにも十分な時間を与えないとだめですからね。

このダブルキャストのために、昨日のジェネラルピアノも2回行ったんです。ジェネラルピアノというのは、本番直前にやってくるオーケストラとの練習開始を前にしたピアノリハーサルの最終段階であると同時に、衣装とメイクも含め、すべてを本番通りに通すという意味で、スタッフにとっては重要なリハーサル。衣装やメイクの準備にかかるタイムスケジュールの調整はもちろん、舞台照明に対して衣装やメイクのバランスなど、細かいところまでチェックが入れられます。

実は私、昨日当日まで通しを二回するとは知らされていませんでした。このオペラの上演時間が50分弱というのは幸いでしたが、それでも50分の本番を休憩挟んだだけで二回通すというのは集中力の面でかなり疲れるものです。私なんて20時から一度通しをして練習終了予定時間の23時より大幅に早く終わって家に帰れるぞ^^、だなんてとんでもない見込み違いをしていたもんですから、19時ごろに2回ぶっつづけの事実を聞かされ「ええ~~~==聞いてないよ~~~!」と騒いだもんです。

このところのたまってる疲労のせいで腕はパンパン、まるで丸太ん棒のようで悲鳴をあげていましたが、好きな曲というのが救いともなり、なんとか任務遂行できました。リハーサルの最後にはスタッフ全員から拍手と歓声をもらいました。私は「どーもー」なんて日本語で返してました。

翌日からはオーケストラが登場しますから、音楽面ではまたガラッと状況がかわります。オーケストラとの練習は2日間で行われたのち、プレ・ジェネラル(いわゆるゲネプロの全段階)とジェネラル(日本ではドイツ流にゲネプロと呼ばれる最終通しリハーサル)が一日ずつあります。まずは一刻も早く歌い手がオーケストラの音に慣れないといけません。ピアノ伴奏で練習してる間、使ってるのはオーケストラの楽譜をピアノ用にアレンジされたものにすぎませんから、やっぱり音としてはだいぶ変わってきます。

私もコレペティとして練習ピアニストの任務は完了したわけですが、ここからはホールの客席から音量のバランス、テンポのバランスなどのチェックをしていくのが私の役目でもあります。そのためみんなとは最後まで一緒。

今回の舞台、去年の「ディドンとエネ」とは全く違うスタイルですが、私は演出も衣装も照明も好きです。

特には演出は演出家の個人的解釈、意見がとりこまれていて、アメリカでクリスマスの定番として知られるこのオペラに新しい一面を与えています。そもそもはキリスト教色の強いストーリーですからね。私がインターネット上で見る限り、アメリカでの公演も日本で行われた公演も、どれをみてもなんだかクリスマスのキリストにまつわる舞台劇みたいな感じで、どうもピンときません。でも私たちの演出家リシャールは普通の人々の「貧しい生活」に焦点を置き、東方の三賢者も実は三賢者の御一行を名乗って詐欺・ペテン行動をしながら旅を続ける一行に設定しています。そして最後の奇跡の場面も、「奇跡なんて存在しない。」という超リアリズムの主張をしています。ここら辺が聴衆にはどれくらい伝わるのか、、、というあたりが見ものでもあります。

オペラjrのメンバーもこれまでよく練習重ね、それぞれが進歩してきました。あとはさっきも書いたように緊張やストレスにどう対処していくか。たとえばアマール役の14歳のVは、一週間前ぐらいがとてもよかった。声ものびてたし自然な子供らしい声でとっても素敵でした。でも昨日、今日は疲れもたまってて、ちょっといまいち。これからどうもちなおしていくか。

プロじゃないだけに、その日その日で出来具合が違う彼ら。関係者としてはスリリングな状況ですが、練習成果を発揮してくれることだけを祈ってます。

子供からお年寄りまで楽しめるスペクタクルになることは間違いないと思います。モンペリエ周辺にお住まいの方、どうぞ聴きに来てくださいな。

チケット情報はこちら http://www.opera-montpellier.com/francais/rep_amahl.html

それではまた後日追って舞台風景などをお伝えします。

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