2010年4月11日日曜日

Piano Trio de Shostakovich

去年の秋ごろ、音楽学校の同僚でヴァイオリンの先生であるマチアスから「leonardo、僕らと一緒にショスタコヴィッチのピアノトリオをやらない?」と誘われました。同じく同僚でチェロの先生であるマリーと彼は、ある日ラジオから流れてきたこの曲を聞いて「やるっきゃない!」と思ったのだそうです。
で、ピアノは誰が?というところで、「もちろんloenardoでしょう!」、と思って声をかけてくれたのでした。
私はこの曲を知らなかったのですが、「ショスタコヴィッチの音楽のピアノパートは私にはきついだろうなあ、、、」という不安がよぎったのが事実です。
でも、室内楽というのは私が好きなジャンル。学生時代からたくさんの楽器の伴奏をして、コンチェルトやソナタのピアノパートは弾いてきましたが、本当の意味で対等に室内楽を楽しめたのは、モンペリエのコンセルヴァトワールの室内楽科に登録した2年間だけでした。しかも、当時の私が大学での授業や仕事に追われて忙しくしてたために、大規模な編成のグループには参加できず、チェロ、バスーン、そしてフルートとのそれぞれドゥオとして組ませてもらったので、ピアノトリオやピアノカルテットに本当に取り組んだことはなかったのです。

そこへヴァイオリニストとチェリストからのお誘い。
そりゃ、「OK!」と返事して当然です。

「せっかくやるからには、音楽学校のコンサートかなにかで演奏する機会を作ろうね!」と言って楽譜を受け取りました。




早速CDを聞いたり、ちょろっと弾いてみたりしてました。かっこいい曲なのですが、正直言って自分が弾くにはどうもピンと来ていませんでした。

これが去年の秋のお話。

それから12月に入って、とある日の夜。仕事が終わってから留守録を聞くと、マリーから「今、マチアスと二人で譜読みしてたんだけど、ピアノと一緒だとどうなるかな?と思って、leonardoがもし時間あったら一緒に譜読みしたいなと思ったの。連絡ちょうだい!」とのこと。残念ながらその時はもう23時で、「ごめんね~。」しか言えなかったわけですが、その後私が日本に帰省したりしたもんだから、年は変わって2010年1月。

仕事で忙しくしてて譜読みすらろくにしないまま2月。

でも音楽学校の4月のコンサートで弾くことにしようということは決定したので、そろそろ練習せんとだめでしょう、、、という気になったのが2月のバカンス明け。

で、いざ3人で練習しようと思っても、3人ともそれぞれいろんなところでの仕事をかけもちでしてるもんだから、なかなか予定が合いません。やっとのことで見つけた時間が3月18日の木曜日の21時から。
音楽学校でのコンサートは4月10日に決まったので、1か月切ってるわけです。

1回目の練習の約束を決めてから、3人それぞれ個人練習をドタバタとしたのでしょう。
この木曜日の夜、各自仕事を終えてから、St.Georges の教室に集合しました。

「じゃあ、やってみる?!」てな感じで、第一回。

ショスタコヴィッチのピアノトリオ第一番 作品8。
13分くらいの単一楽章からなる作品です。
まさにロシア色。でも激しい部分あり、空中を浮遊するような部分あり、スコットランド音楽みたいな部分ありで、いろんなキャラクターが一曲の中におさまっていて、とっても充実した音楽です。

ピアノ、ヴァイオリン、チェロのそれぞれのパートに、強烈に激しく16分音符が不規則に並ぶ音型のパッセージがあるんですけど、3人が3人ともうまく弾けなくって「ギャー!」とか叫びながら格闘。

周囲には民家が並び、防音もなにもない古い家の一室にある教室での夜間練習。
激しい音楽がご近所さんにはまる聞こえだったことでしょう。

「弾けないよ~!」というところは一杯あるものの、楽しくって気がついたら23時過ぎ。

そんな感じで第一回目の合わせは「、、、というわけで、各自練習しましょう。。。」という感じだったわけですが、反省よりも不安よりも、「この曲カッコイイ!!」という思いが断然もりあがってきたのです。

仕事ですっかりオペラや合唱団との演奏の専門の道に傾いていた私にとっては、久しぶりの室内楽。久しぶりの器楽奏者とのアンサンブル。そして久しぶりの純音楽です。
マチアスは、ヴァイオリンを教える傍ら、録音スタジオをかまえて忙しくしてる人。マリーはチェロを教える傍ら、ロック歌手のグループのバックでチェロを演奏したり、ハープとフルートとのグループを結成しえて演奏活動をしています。そんな彼らにとっても、久しぶりの室内楽、久しぶりのクラシック音楽、そしてピアノと演奏するのも久しぶりのことだったのです。

そのため3人ともすっかりうれしくなってしまいました。やる気満々になってしまいました。
お互いに忙しいわけですが、一週間に一回の練習を設定して、4月10日のコンサートに向かってきました。

この時期、私はめちゃくちゃ忙しかったわけですが、さらにピアノトリオのこの練習が加わったために、この上なく忙しくなってしまってたんです。
でも、その気になれば練習時間とかはとれるんだ、ということに気がついた私。
これまでもピアノトリオとかやりたい!って思ってたんですが、「時間がなくって、、、」と言う理由で重い腰を上げずにいた私。
でも、オペラのプロダクションの時期に入って毎日6時間練習に参加してても、朝から夜遅くまでピアノのレッスンに走りまわってても、ちょこっとの個人練習と週一回の合同練習ができたわけです。

コンサートで人前で弾くわけだからそれなりの形にしないと、、というのはもちろんありましたが、ギャラも何もないボランティア的な自発的行為。それでも3人で練習を重ねたのは、純粋に楽しいから、うれしいから。
こんなことってもしかして初めて?

改めて考えると、今の私の仕事は、もっぱら指揮者のもとでのピアノ演奏がメインです。
その指揮者の求める音楽に応えてなんぼ、指揮者のテンポに合わせてなんぼの職業です。そこでは私は自分なりに音楽を感じて表現して、それが指揮者の描くものとぴったり合えば喜んでもらえる、評価してもらえる、というところもあります。が、「私はこう感じるけどどう?」的な私からの提案はありません。

一方、以前の私がしてたのはヴァイオリンやクラリネットなどの器楽奏者のピアノ伴奏。お互いの呼吸が合うように聴きあって、フィーリングを感じあって練習をし、演奏してきたわけですが、どの場面も、試験やオーディションのために頼まれてしていたこと。

これまでに何度かだけは、お互いに好きな曲をドゥオやトリオでトライみたいなこともしましたが、その時は初見大会みたいに楽しんだだけでした。

だから、好きで楽しくて、しかも練習を重ねるというのは、実はこれが初めてのことなのかもしれないんです。
お互い聴きあって呼吸を合わせていく。テンポのことなんかは意見を出し合って決める。
これが対等に作り上げる音楽ってやつですね。

ショスタコヴィッチのピアノトリオ第一番。
聴けば聴くほど味がわかってきて、どんどん好きになりました。
技術的には「なんでこんな音型にしたんだ~!?」と叫びたくなる難しい個所がいくつもありますが、音楽的には自然と形が作れていく。

ほんとかっこよくてドラマチックできれいな部分もある素敵な曲です。

しかも、後になってわかった衝撃の事実。

ショスタコヴィッチは17歳でこの曲を作曲したんです!

どういう人間がこういう音楽を17歳で書けるのか?!

音楽の才能に関しても、感情の表現の仕方にしたって、普通、17歳がこんなことできるか?!

戦争の恐怖がはびこる社会情勢が生み出すものなのか、それとも誰かに激しく恋してる17歳がこういうものを生み出すのか、はたまた単に天才なのか。

皆さんもぜひ聞いてみたください。

4月10日のコンサートの様子はまた後日お伝えしますが、只今leonardoは室内楽モードに入ってますという報告でした。

今後、このまま室内楽熱がフィーバーしていく予感大です。

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