メノッティ作曲のオペラ「Amahl and the night visitors」の公演が終了して、はや2週間になろうとしています。
昨年の9月から未経験者ばかりの新人新米グループAtelier de création と週一回の練習を始め、11月には演出家リシャールや振付師アンヌと出会い、Groupe Vocalのメンバーも練習に加わり、2月には衣装デザイナーのジャンヌと出会い、3月20日からはモンペリエ・オペラ座のスタッフが加わり、31日にはモンペリエ・オーケストラが加わり、4月6日、7日、9日に公演が行われ、7ヶ月に渡る冒険が幕を閉じました。
「冒険」はフランス語で「aventure アヴォンチュール」。
公演初日で照明デザイナーのダヴィッドと衣装デザイナーのジャンヌと別れ、公演最終日をもってリシャールともお別れ、そして新人集団Atelier de créationともお別れをしました。まさに一つのアヴォンチュールが終わったという感じです。
いつもの例にもれず、今回の冒険もいろんなトラブル、話題には事欠かず、喜び、怒り、不安、感動にあふれる密度の濃い7ヶ月でした。
公演が終わって賛否両論もちろんいろいろ感想は聞きましたが、大方の反応は「素敵だった!」です。夢があふれるというか、ファンタジーあふれる舞台で素敵だったという反応。
私も個人的に好きでした、この演出、そしてこの舞台。
いろいろと話題にしたいこともあるのですが、今日は写真とともに舞台の様子をざっとお伝えしたいと思います。
アマール役と母親役はダブルキャストで行ったので、写真にはそれぞれ二人ずつ別の子が写ってますのでご了承を。
「アマールと夜の訪問者たち」
オーケストラの演奏開始とともに幕が上がりました。
雪がちらつく中、松葉づえをたよってびっこをひきながら歩くアマールがいます。
この幕が上がる瞬間が私は大好きです。お客さんからすれば、幕の向こうに別世界が存在したわけで、この瞬間、お客さんからは夢の世界に入り込む「わ~。」という声にならない声や、「はっ。」という声にならない声があがり、それが実際にあちらこちらから聞こえるんです。スペクタクルの舞台がもつ魔法の力。私にとって大好きな瞬間の一つです。
満天の星空を見上げるアマール。

母と息子の貧しい二人暮らし。
夜になると二人は寄り添いあって寝ます。
突然ドアがノックされて目を覚ます二人。
東方の三博士が登場するシーンです。
三人は舞台後方にいるのですが、弱い照明でシルエットが見える程度。演出家リシャールはここで三人の顔のアップをビデオで舞台一面に映し出し、お客さんの笑いを誘っていました。

東方の三博士と言うとキリスト誕生にまつわる有名な登場人物で、普通なら知的で厳かな感じもあるキャラクターのはず。でもリシャールは、この三博士を三博士のふりをして民からの貢物をだましとる仲よしペテン師集団と設定しました。
三人を家に迎え入れると、母親はアマールに三人の邪魔をしないように言いつけて暖炉を暖める木を拾いに出かけます。
邪魔をするなと言われても、彼らに興味津津のアマールは次々と質問を投げかけます。
三博士は、作曲者メノッティのト書きに従って、バルタザールが黒人、メルキオールが白人、そしてカスパールはアジア人という設定です。

カスパールは耳が遠くてアマールの質問を「ええ?」と聞き返してばかり。
これも作曲者の意図です。

リシャール版の三博士はだまし儲けたお金を数えたりしてます。

アマールはカスパールがもつ魔法の小箱に興味津津。

そこへ母親が戻り、怒られるアマール。
三博士をもてなしたくてもアマール親子は貧しくて何もないので、母親はアマールに仲間の羊飼いたちにも何か捧げものを持ってきてもらうように声をかけに行かせます。
アマールが留守の間、三博士と母親の間で彼らが探し求める神の子についてのやりとりが美しい四重唱で歌われます。このオペラ中、一番よく書けていて一番感動的な曲ではないでしょうか。
そして羊飼いたちの登場。
合唱の登場です。4声からなる合唱パート。
まずはアカペラの曲で「みんな元気かい?」といった感じで仲間同士声をかけ合います。
続いてみんながお供え物をもってくる場面ですが、リシャール版ではみんな貧しくって何も捧げるものがないんだけど、、、、と言う設定。
みんな興味と怖さ半々で三博士を歓迎します。
合唱パートが二曲つづいた後、踊りのシーンに移ります。

たいていよくあるバージョンでは、コーラスが歌った後、ダンサーたちによるバレエに移るわけですが、オペラjrは全部やる!ので、合唱メンバーたちは二曲の歌のあとはダンスシーンへと続けていくのです。

ちょっと未開的野性的な味をつけて、というリシャールの要求にこたえたアンヌの振付。
この振付についても賛否両論いろいろ聞きましたが、関係者の一人としての私から見たこのシーンは、何がすごいかって、踊りの経験なんてないごく普通の若者たちを、身体表現の点でこのレベルにまで導き、若者らしいエネルギーをうまく使って五分間の踊りのシーンを堂々と演じさせたということ。
振付で使われたそれぞれのアイディアはもちろん、さすがだなあと思うところがあちこちありましたが、7ヶ月前にはまっすぐ立つ、まっすぐきれいに歩くことすら難しかった普通のいまどきの若者たちが、エネルギッシュで野性的でオリジナルなこのダンスシーンをやりきる姿をみて、私はただただほれぼれとしてしまってました。

三博士たちは、なんだか不気味な羊飼いの集団にどぎまぎしています。
フィギュアスケーター顔負けの回転技あり投げ技あり。

ヒップホップダンサー顔まけの連続早業ジェスチャーあり。
私はジェネラル・ピアノまで舞台下のピアノに向かっていたので、舞台上の様子がちゃんと見れてなかったんです。オーケストラが来てからの練習では、このバレエシーンを見るたびにわくわくしてました。

みんなが寝静まったあと、息子アマールを貧しい暮らしから救うために、ついつい宝の山に手をのばしてしまった母親。
三博士の付き人にすぐに見つかって捕らえられてしまいます。

母親役のN。去年の「ディドンとエネ」でも重要なベリンダ役をこなしたN。彼女の迫真の演技はすごいものです。実は彼女、女優志望でこの夏からパリに進出します。まだ17歳なのに、人とは何か違うオーラを放つ彼女。きっと世に出るに違いありません。
付き人と三博士から激しく非難される母親をアマールがかばいにきます。
「悪いのは僕でママは悪い人じゃないんだ!うそつきはこの僕で、ママは悪い人じゃないんだ!ママをぶたいないで!ママをぶったりしたら僕がお前を骨の髄までくだいてやる!お願いだからママをぶったりしないで!」というアマールのソロ。
この曲の終りでアマールは「お願いだから、、、。」と言って母親のそばで泣き崩れます。
アマール役の二人はまだ14歳で器用な演技テクニックなんかないだけに、子供の自然な弱さ不安定さがかえって劇的効果を増して、お客さんの心にぐっとくるシーンでした。
アマール役の二人はまだ14歳で器用な演技テクニックなんかないだけに、子供の自然な弱さ不安定さがかえって劇的効果を増して、お客さんの心にぐっとくるシーンでした。
母親は許しを請い宝を返そうとしますが、三博士は「宝は返さなくてもよい。我々が探す神の子は宝など必要としないから。」といって、神の子がつくる夢の国について語ります。

この後、「せめてその神の子に僕の松葉えづえを贈りたい」とアマールが言ったところで奇跡が起こります。
なんとアマールは普通に歩けるようになったのです。
実はこの奇跡について、リシャールは奇跡なんてないという設定を行い、夜、夢遊病状態のアマールは実は松葉づえなしでも普通に歩いているというシーンをオペラの前半で見せています。
でも、それはちょっと見ててもわかりにくいんじゃないかな~~~という微妙な演出でした。
ともあれ、アマールは歩けるようになり、三博士たちの旅に加わることになりました。

リシャール版では三博士たちはペテン師なわけで、アマールもお金を稼ぐ一団に加わったというわけです。愛する息子を旅立たせる母親はもちろん複雑な思い。「身体には気をつけなさいね。」と声をかけますが、遠く立ち去る息子の後ろ姿を悲しそうにずっと見続けるのでした、、、、。
そして幕が静かに下ります。
The End。
一つの舞台作品をこんなふうにはしょってお伝えするのは無理がありますが、どうでしょうか。
やっぱりArt vivant 生きた芸術ですからね。生でその空間にいて体験体感してもらうのが一番です。
結果的にはこの舞台の演奏時間はたったの45分。
あっという間の45分です。
お客さんは夢の世界に入り、カーテンが下りるのと同時に夢からさめる。
3公演ともブラボーが飛び、熱心な拍手がいつまでも続いていました。
オペラjrの公演としてはもちろんのこと、この舞台は一つの作品として大成功を収めたと思います。演出や舞台照明にたいしても、新聞などの批評も好意的なものばかりでした。私を含め、オーケストラに対する不満を抱いた人はだいぶいましたが、、、、。またその話も今度。
本当の素人を含めた普通の若者が数カ月かけて取り組んだ成果。舞台のために働くそれぞれのプロたちが能力を出しあって作り上げた舞台。これがたったの3公演だけで終わりというのはなんとももったいない話です。
またいつかどこかで再演ということになるのかならないのか。
そんな話も含めて、お伝えしたいことはいっぱいですので、またの機会をお待ちください。

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