2010年10月10日日曜日

The Golden Vanity

先週の木曜日と金曜日に行われたコンサートで、この一年をかけて取り組んできた冒険が一つ終わりました。

それはオペラjrのLe Choeur d'enfants による「The Golden Vanity」のスペクタクル。


ベンジャミン・ブリテン(Benjamin Britten 1913-1976)の「The Golden Vanity」とアンリ・デュティユ(Henri Dutilleux 1916- )の「Chansons de bord」で構成された舞台。歌うだけのコンサート形式ではなく、オペラjrが独自に制作した演出、照明、衣装つきのれっきとしたスペクタクルです。
昨年の過密スケジュールの中、秋から徐々に練習を始めて、5月末にはモンペリエの北側にあるモンフェリエー(montferrier sur Lez)という町で発表、続いて6月にはモンペリエ市内の舞台で発表。
バカンスをまたいでから、今回また別の劇場での新バージョンの発表に向けて練習を再開し、無事に最終公演までなしとげたのです。

「The Golden Vanity」は厳密に言ってオペラではないのですが、作曲者ベンジャミン・ブリテンが演出付きで演奏されることも想定して書いた1966年の作品です。少年合唱のために多くの作品を書いたブリテンですが、この「The Golden Vanity」も例にもれず、ピアノ伴奏とともに少年合唱によって歌われるために作曲されました。

ストーリーは16世紀のイギリスの抒情詩がもとになっており、運航中にトルコ海賊船と遭遇したイギリス船に乗っていた見習い水夫の少年が主人公。敵からの攻撃を受ける中、自ら「海底にもぐって敵の船をやっつけてみせます!」と名乗り出た彼。ただ「成功したら褒美をください。」という彼に、イギリス船のキャプテンは金銀財宝をやると提案しますが、少年はそんなのはいらないと言います。しかしキャプテンが陸地で帰りを待つ娘をやると言って写真を見せると、少年も合意。まだ見ぬ少女を夢見て、勇敢に海に飛び込んで行きました。少年は見事敵の船の船底に致命的な打撃を与えて、トルコの海賊船は沈没。波にのまれそうになりながら、早く船に引き揚げてくれと必死で叫ぶ少年に、イギリス船のキャプテンと水夫長は「約束なんかは存在しない。」と言って放ちます。この態度には衝撃を受けた船員たち。そのまま少年を海に残して見殺しにしようとするキャプテンの意に背いて、船員たちはぐったりとした少年を船のデッキに引き上げました。しかし時はすでに遅し。少年は息を引き取ってしまうのです。
この事件があった海峡を船で通る度に、人は「波にのまれてしまう!」と助けを求める少年の声を聞く、、、というお話。

。。。と思いませんか?

これが子供のために書かれた作品なんでしょうか?
要するに、純粋で勇敢な少年が、信頼した大人の裏切りにあい、死に至るというストーリーです。
世の中の現実の教訓というにも、ダークで強烈な話ですよね。
このダークさがブリテンらしいというか、、、。

で、音楽はどうかというと、まさにそのまんま。
強烈です。
不協和音と激しい連打音。そしてリズムもそれぞれのパートが違う拍子とテンポで歌ったりします。
言うなれば難易度特上といったところでしょうか。
でもやっぱりブリテンカラー満載です。単純なようでコンプレックス。でも難解ではなくって、シンプル。

今思い出せば、初めて楽譜を見たとき、「はたして子供たちはこれをマスターできるんだろうか?」と一抹の不安を感じたものです。そして自分自身、「え、この激しいピアノパートを私が弾くの?大丈夫?」と思ったものです。
だって私が好きなタイプの曲ではまるでないですから。私が得意なタイプな曲ではまるでないですから。

でも一年かけて取り組むと、すんなりと身体に入って行ったというか、愛着まで湧いたといえるでしょう。
もう終わったというのが不思議な感じです。

激しく内容の密度が濃い作品なのですが、演奏時間は20分ほど。

そこで海、船乗りをテーマにしたつながりで選ばれたのが、デュティユの「chansons de bord」です。こちらは子供のために書かれた4曲からなる3声のアカペラ合唱曲。

海をテーマにとはいいつつも、実際、なんの関連性もないこの二つの作品で、一つの舞台を作り上げる、その演出の仕事を任されたのがこのブログでも何度か名前が出ているキャトリンヌ。本人、舞台で活躍する俳優さんですが、子供や若者への演劇の教育活動も熱心に行っています。
全身全霊のエネルギーをかけて仕事に取り組むパワフルな人なんですが、私はもう彼女の想像力の大ファン。文字通りゼロから彼女のアイディアだけをもとに作り上げられた今回の「The Golden Vanity」の舞台も、私の記憶にずっととどまることになるでしょう。

彼女の仕事ぶり、彼女の才能についてだけを、また別の記事で改めて書かないとだめですね。
今回のプロジェクトではオペラjr初の試みがありました。
それはニームにある高校とタイアップして、衣裳をファッション・モード学科の生徒が担当するというもの。キャトリンヌの舞台構成には、衣装の使い方のアイディア自体がカギとなっているので、彼女と日ごろからよく一緒に仕事をしているジスランが、高校とオペラjrの間のパイプ役となって活躍してくれました。
                                                          
さて、皆さんに舞台の様子を伝えるのに好都合なのが、地元ローカルテレビによる取材のビデオ。でもそのまえに、先週の舞台はニューバージョンだったといいましたが、何が進化したのか順を追うために、まずは6月にモンペリエ市内の小さなスタジオで行われた舞台の写真をご覧ください。
名前がLa Chapelle(シャペル)というだけあって、もともとチャペルだった建物をスタジオ化したところ。
その前に公演を行ったモンフェリエーの舞台とも幅、奥行はもちろん、照明装置や収容キャパシティーなど全部違う中で、キャトリンヌはうまいこと対応して演出内容を適応させていました。
こちらはトルコ海賊船のクルーとキャプテン。



こちらはイギリス船のクルーと見習い水夫の少年。




イギリス船のキャプテンと水夫長。




最後、船のデッキに引き上げたところで少年は息をひきとる、、、。




チャペルのステンドグラスをバックに、ラストシーンはこんな光景でした。




天井が高く、ステンドグラスを通して、外の日に光が入ってくるという難点も、こうしてみると美しさを増していていいですね。


ここまでの公演は合唱指揮がヴァレリー、ピアノが私、演出がキャトリンヌ、衣装がジスラン、そして照明がベルトランというチームで行いました。


さて、一方で先週公演を行ったのは、モンペリエ市が所有する劇場の中でも重要なところの一つ、Théâtre Jean Vilar ジャン・ヴィラー劇場です。





一番線のトラムの終点エリア、移民街で俗にシテとよばれる地区にあります。
毎年さまざまな演劇の充実したプログラムを発表している劇場で、今シーズンの幕開けに選ばれたのが、私たちの「The Golden Vanity」でした。

サイトはこちら。
http://theatrejeanvilar.montpellier.fr/pages/index.php

こじんまりとしていながらも、演劇の上演のためのプロの施設といえるでしょう。


実は、ここでの公演に際して、キャトリンヌにはさらに新しい作業が加わりました。それは舞台に関わるテクニシャンを養成する学校とのタイアップにより、学生たちを最後の研修として舞台に参加させるというもの。つまり、音声さん、照明さん、舞台美術さんなどのスタッフが学生と指導担当者ともに加わるというわけです。
照明担当者が変わったので照明の作業はゼロからやりなおし。
でもマイナス要素ばかりかと言えば逆で、ここでは舞台の設備がこれまでとは違って充実しているので、音響効果を入れたり、舞台正面のスクリーンを利用したりできるのです。
そこでキャトリンヌは港の音や船のきしむ音などの音響効果を入れました。そしてもちろんスクリーンを利用して照明を充実させ、ビデオで波の映像を入れ、さらには字幕を加えました。

そうなんです。
「The Golden Vanity」は原語の英語で歌うので、6月にはせっかく見に来てくれた子供たちが「ストーリーがよくわからなかった、、、。」と言ってたんです。
これも字幕のおかげで解消!

イギリス船と海賊船も、舞台美術・小道具担当の学生さんが立派にバージョンアップしてくれました。

というわけで、この10月の公演が最終バージョン。
晴れて!と行きたかったところなんですが、実はいろいろなゴタゴタつづきの末、合唱指導・指揮のヴァレリーが休みをとってしまていないのです。彼女のプロジェクトだったのに、彼女なしで最終を迎えるというのはなんとも残念なこと。急きょこの新年度開始から代理を務めてくれたのがヴァンソン。
こんな難曲をピンチヒッターでやるなんて、不安はもちろんありましたが、彼と私、コミュニケーションを十分に取って、なんとか無事に仕上げることができました。

さて、ではようやくここで、木曜日に取材に来たローカルテレビ局のニュース内容をリンクします。
短いですが、雰囲気は見てもらえると思います。

http://www.dailymotion.com/video/xf4h7o_l-opera-junior-au-theatre-jean-vill_creation

インタビューの様子を見ると毎回思わされるのが、フランス人はインタビュー上手ということ。
だって自然体で上手にしゃべるんだもん。
日本人だったら変に作っちゃったりして準備したりするでしょうに。

それにしても、こうして客観的に見ると、みんな歌はもちろんのこと、生き生きとのびのびと、そして真剣に演技してていいですね。
歌って演技して。
やっぱりこんなことができる団体はそうあちこちにはありません。
オペラjr、この先も長く存続していけるといいけどな。

最終公演後はみんな気持ちが高ぶって笑顔と涙の打ち上げとなりました。
バカンスをまたいで、昨シーズンからのもちこしで行った今回の舞台。だから10月という時期ながらも、この日でオペラjrを去る子、Le Choeur d'enfants を卒業してLe Groupe Vocal に移る子などがいたのです。
でもやっぱりみんなが慕うヴァレリーがいなかったことでなおさら。みんな感情が爆発したのでしょう。

いろいろ変化を迎えながら、こうしてまた一つの冒険が終わったのでした。

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