2015年7月11日土曜日

ここはどこでしょう? in l'Ecusson de Montpellier  その2 : Mikvé

皆さんは、ミクヴェというものが何かご存知ですか?
私は二年前まで聞いたこともなく、まったく知りませんでした。

ミクヴェ Mikvéというのは、ユダヤ教徒が身を清める儀式を行う水浴場のことなのです。

モンペリエは地中海の近くに位置し、昔から東西南北各方面からの様々な民族が交わる場所でした。街の基礎は10世紀にでき、その後、宗教、商業、医学といった様々なものが、交流と衝突を経ながら豊かに発展していった街でした。12世紀ごろには文化教養の面では、ヨーロッパ随一のレベルを誇ったともいわれています。

その様々な民族の中に、ユダヤ人がいました。モンペリエが発展した背景には、モンペリエのユダヤ人コミュニティーの存在があったのです。そもそも、10世紀にモンペリエの街が形成されていった時期に、すでにユダヤ人もこの土地にいました。そして12世紀になると、スペインから追われてきたユダヤ人が数多くモンペリエとその周辺の地にやってきました。
けれども14世紀にもなると、ユダヤの人たちは今度はフランスからも追い出されてしまいます。このようないきさつがあったために、ユダヤ人に縁のある場所、施設といったものは、街の表舞台から消えてしまったのです。18世紀のフランス革命時の人権宣言もあって、ユダヤ人も晴れてフランスの市民であると認められました。

1985年になって、モンペリエ市が現在の県庁近くに位置するユダヤ人地区の発掘と修復に取り組みます。この一帯にユダヤ教寺院であるシナゴーグや学校、そしてこのミクヴェがあったのです。


中世の時代のミクヴェの跡は、ヨーロッパ中を見てもあまり残っておらず、モンペリエのミクヴェは数少ない現存するミクヴェ、しかも保存状態のよいミクヴェとして、とても貴重な遺跡なのです。



現在、モンペリエ市の観光案内所がオーガナイズするガイドさん付のツアー、もしくは秋の文化遺産の日に開放される以外、私たちが見学することはできません。
そのせいもあって、モンペリエ市民でもこの遺跡の存在を知らない人が多いと思います。日本人ならなおさら。

私は一年ほど前から、このミクヴェに興味を持っていて、つい最近、モンペリエ市民ながらも、あえて観光案内所のツアーに申し込んで、見学させてもらったのでした。

通りからは、普通の建物しか見えないので、まさか内部にこのような遺跡が残っているとは想像もできません。
建物の内側の中庭的な空間に、ミクヴェの入り口があります。古い石の壁、頑丈な鉄格子を見ると、この先に大事なものが隠されているというムードが高まります。

ユダヤ教徒が身を清めるための儀式に使う水浴場ですから、もちろん水があるわけです。しかも純粋なきれいな水でなくてはいけません。
何世紀も前の人々は、モンペリエの街が丘の上にできていて、その下には地下水が流れていることを知っていました。街中の建物の地下を掘って、水を得たのです。
そのため、ミクヴェは石階段を下りた先にあります。石の壁の建物の中を降りていくだけで、すぐさま体感気温がぐっと下がりました。



地下水を得るほどの深さとは、と思って、てっきり地下何階分も降りていくのかと思ったら、なんと地下二階半分くらい降りたところでしょうか、そこがもうミクヴェだったのです。



前もって写真で見ていたこの空間。



この緑色に光る水は、てっきりライトアップの効果なのだと思っていたら、これは自然な水の色なのだそうです。
しかも驚いたことに、地下水は石の壁を通して入ってくるのだそうです。さらには自然の力で、水は絶えず出たり入ったりと流れていて、純粋な良質の成分のを保っているのだとか。
昔の人の英知、そして自然の力には脱帽です。






下に降りる前に、ガイドさんから説明がありましたが、そもそもこの身を清める儀式は、男性教徒が一人っきりで行うか、女性教徒がもう一人の女性の付添い人を伴って行うと定められているので、水浴場の空間は、もともと少人数の人のために作られているのです。
見学ツアーで中に入った私たちは、お互い譲り合ってせましい中を見学。誰もが空間にびっくりあっけにとられての見学だったことは、言うまでもありません。





4畳半ほどの脱衣所があって、そのとなりの六畳ほどの空間が水浴場です。
身を清める人は階段を降りていって、頭まで水に浸かります。さらには水の中で必ずジャンプして、身体全体が水に浸かる、そして水に触れるよう、足の裏も底についたままではなくて、足を底から離して水に触れなくてはいけないというのが掟だそうです。


世界には様々な宗教がありますが、水で身体を清めるというのは、日本に古来からある風習、宗教ともつながっているような気がします。

ユダヤ教では、食器や調理道具も初めて使うときには、このミクヴェで清める儀式を行うのだそうです。

モンペリエの街中に、こんな遺跡が隠れていたとは、本当に驚きです。知らない人も多いだろうから、宣伝しなくては。
もともといかなる宗教にもうとい私ですが、人類の過去の歴史を探るには、どの宗教も民族の発展、文化、科学の発展に直結していた存在です。
モンペリエ市がこの遺跡の発掘と修復を行うと決定したことは、本当に優れた判断だったと思います。

ユダヤ教徒の世界、そしてモンペリエの歴史を垣間見た、とても有意義な見学でした。


1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

きれいに保存されているね!