モンペリエのオペラ座、今シーズンの第三作目は皆様ご存知、有名なオペラ作品であるプッチーニの「トゥーランドット」でした。
大型コンサート複合施設であるCORUMの大ホールにて、2月7日の日曜日、9日の火曜日、そして11日の木曜日の三回公演がなされ、どれも満席となりました。この大ホールBerliozは2000人収容できますから、かなりの集客率です。
上演前の舞台にはいかにもアジアンな幕が下りていて、観客はすでにトゥーランドットの世界に足を踏み入れた雰囲気になっています。
ヨーロッパのオペラシーズンは9月スタートですから今シーズン第三作目なわけですが、2016年のオペラ幕開け作品として選ばれたのがこの超大作。三年前にナンシーのオペラで初演されたものを今回モンペリエで再演ということですが(同じ演出ということ)、ナンシーでは小さな劇場で行われたものが今回はモンペリエのCORUMの大ホールで行われたので、演出というよりも規模の拡大という面で、いろいろな手直しが行われました。
特に合唱団はモンペリエオペラ座合唱団とナンシーオペラ座合唱団、そこに何人もの補足団員が加わっての特大合唱団となりました。
オーケストラもオーケストラピットぎりぎりのメンバーで、しかも指揮はオーケストラ団員からの数年に渡るラブコールに答える形でモンペリエの主任指揮者となったMichael Schønwandt (ミカエル・シェーンバント)氏。とてもおおらかで暖かい人間性にあふれる彼のエネルギッシュな指揮に、総勢ほぼ200人のアーティストが懸命に答える感じで迫力万点、まさに巨大スペクタクルとなりました。
ネット上で練習風景からまとめられたティーザーがご覧になれます。
モンペリエオペラ座「トゥーランドット」ティーザー
三度の公演を無事終えて、批評、メディアも軒並み賛辞を送った様子で、ここ長年、さまざまなトラブルやスキャンダルで低迷してきたモンペリエのオーケストラ・オペラ座ですが、こうしてようやく少し復活か、といううれしい兆しを感じることができました。
ネット上で練習風景からまとめられたティーザーがご覧になれます。
モンペリエオペラ座「トゥーランドット」ティーザー
今回のプロダクションは語るべきところがいくつもあるので、またの機会にこのブログでお伝えできればと思いますが、今日のタイトルにあるコリアンパワーは、今回私にとってもうれしい出会いというか、うれしい発見となった、すばらしい韓国人歌手についてのお話です。
オペラ「トゥーランドット」には、メインとなる役が三役あります。中国のお姫様である冷酷残酷なトゥーランドット、名前と身分を隠した異国の王子であるカラフ、そしてカラフとその父に仕える召使のリューです。オペラアリアのレパートリーとしては、トゥーランドットよりもカラフやリューが歌うアリアの方が有名で、世界各国で親しまれています。
私は今回字幕担当として参加したので、現場に居合わせれたのはピアノによる最後の通し稽古であるジェネラル・ピアノからでした。日本ではピアノリハーサルというのでしょうか。ピアノリハーサルというのは、演出、演技の練習を一通り終えた後で、衣装、メイク、照明などの調整が初めて行われる段階ですから、歌手たちはエネルギー消耗を避けるためにも本格的に歌うことはあまりありません。この日はトゥーランドットはもちろん、カラフ役のテノール歌手も、「あれ、バリトン歌手?」と思うような低音でずっと歌っていました。
舞台が中国の「トゥーランドット」ですから、出演者は皆、アジアンな衣装とメイクをしているわけですが、このテノール歌手は遠くからみてもアジア人だとわかる風貌で、あえてもっと言えばモンゴルから来たおすもうさんに似た感じの人。大きな体格をしています。遠くから姿を拝見する以外あまり歌声をきけなかったので、このときの私は「アジア人だけど、ヨーロッパのオペラの世界でがんばってるんだな。」、「一地方都市のモンペリエのオペラ座とはいえ、主役級がはれるなんてすごいなあ。」くらい印象でしかとらえていませんでした。
それが「びっくりたまげた!」としか言いようがないことになったのが、本番前のオーケストラによる最後の通し稽古ジェネラル(日本ではドイツ語からきたゲネプロ)でのことでした。
以前から若者を相手にした音楽教育活動にかなり熱心なモンペリエオーケストラ・オペラ座ですが、今シーズンからはさらに学生に対してコンサート無料招待を行ったりしていることもあって、この通し稽古は単に関係者に公開しただけでなく、多数の若者で客席がうまり、熱気のあふれる雰囲気となっていました。
そこで、私だけでなく、お客さんも皆さんびっくりたまげたのです。
このテノール歌手の声に、演技に、その存在に。
テノールとは一口に言っても、その声域、声質によって、いくつかのカテゴリーに分類されます。高く軽い声質から順番にあげると、レッジェーロ→リリコ→リリコスピント→ドラマティコとなります。スピントやドラマティコとなると、高い声だけではなくて、低音もしっかりひびかせないといけませんし、太く奥の深い、そして迫力のある声量が求められます。
「トゥーランドット」のカラフ役は、まさにこのテノールドラマティコの花舞台です。残忍なトゥーランドットや大コーラスに負けない迫力と存在感、そして有名なアリア「Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)」を歌い上げる音楽性が求められるわけです。このアリアはかのルチアーノ・パヴァロッティによってメジャーになった名曲です。テノール歌手にとったら、このカラフ役はイタリアオペラを代表する最上級、そして最難関の役といってもいいでしょう。
今回の「トゥーランドット」は、モンペリエオペラ座の今シーズンの目玉作品で優秀な歌手がそろったとは言え、世界的大スターが来たわけではありませんでした。お客さんは「ごく普通に」有名なオペラ作品の演奏が始まるのを楽しみにしていたはずです。
「トゥーランドット」は出だし、上演が始まってからしばらく大合唱の大迫力の場面が続き、観客はすぐにこのオペラの世界に吸い込まれます。
そこからしばらくたってテノール歌手が最初の一声をあげた時が問題の「?!」の瞬間でした。お客さんは皆、「え?」と反応したはずです。
2000人収容の大ホールにいとも簡単に響き渡る声量はもちろん、オーケストラを軽々と飛び越えるパワー、そしてなんとも彼は自然体なのです。歌い方も演技も、すべてが気持ちいいほど自然としっくりきているのです。
私は何度も言うようにオペラがあまり好きではないだけに、オペラ歌手にはウルサイ輩です。パワーで押せ押せ派や、テクニックだけの機械的な声や、オーバーなわざとらしい演技や、いかにも光を浴びているのが好きであろう陶酔派など、いわゆるオペラ歌手によくあるタイプの人は正直言って好きではありません。ソプラノの声も少しでもヒステリックな感じや金属質な要素があると、あまり聞いていたくありません。
そんな私が彼には新鮮な驚きとともにすっかり魅了されてしまいました。
彼が観客をとりこにした様子はすぐに見て取れました。アリア「Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)」の後、オーケストラは演奏し続けるのですが、そこで彼への拍手と歓声がわきあがりました。ミラノスカラ座などで見られるような大拍手です。
オペラ終了後のカーテンコールでも、他にもすばらしい歌手がそろっていたので、観客の拍手は最初から大盛り上がりでしたが、一番の主役はやっぱりこのテノール歌手でした。軽やかに、ちょっぴりひょうきんな感じで挨拶にでてくる彼の様子がますます観客をひきつけて、それはそれは盛大な拍手と歓声をもらっていました。
この韓国人テノール歌手はルディ・パーク(Rudy Park) さんといいます。年は私よりちょっと若いくらいか同じくらいか、30代半ばのようです。韓国で声楽を学んだあとイタリアに渡り、ローマでディプロムを取った後も、ドイツとイタリアで研鑽を積み、ヴェローナの劇場で舞台デビューしたそうです。それからというもの、主にイタリア、ギリシャ、フランス、スイス付近で活躍なさっていますが、アメリカはデトロイトと日本は東京にも行かれたことがあります。
ネット上で見てみたら、数年前に東京二期会のトゥーランドットの公演で、まさにピンチヒッターの代役としてカラフ役で出演し、日本のオペラファンをびっくりさせた様子でした。
それからすでに数年たっていますから、腕がさらに磨きをかけられた状態を私は目の当たりにする幸運を得たわけですが、歌手としてだけ考えても、この先まちがいなく、「トゥーランドットのカラフ役はルディー・パークだ。」と全世界で言われる歌手になると思います。もちろん好みは人それぞれですから、ネット上では彼の過去の出演作について多少批判的な意見も目にしましたが、その後もどんどん経験を積んでいっている彼のことです。彼に目をつけているオペラファンは、すでに世界中にたくさんいるようです。
モンペリエオペラ座で公開された彼の経歴はこちらです。Rudy Park氏 経歴紹介
いわゆるオペラファンではない私の関心はさらに別の方向に向きました。本番中の舞台上の彼の自然体の姿を見て、直感が働いたのです。「この人は心底自然体な人に違いない。」と。
つまり傲慢でもなければ、ナーバスでもなければ、変なカッコつけでもないだろうと読んだのです。
早速実際に一ヶ月に渡って彼と一緒に仕事をしてきたスタッフに聞いてみればドンぴしゃり。「本当に愛らしい人だったよ。」、「本当に謙虚な人だったよ。」、「めずらしくすごく普通の人だったよ。」、「誰もが彼みたいだったら最高なのに!」との声がぞくぞくと。テレビ業界でも舞台業界でも、現場を支えるスタッフ達は、人の人間性を目の当たりにしますからね。信用できる証言です。
「わあ、やっぱり!」と、それだけですでに喜んでる私でしたが、そこからさらにミーハー行動まっしぐら。たまたま楽屋ですれ違ったときに、私の顔を見るなりとても改まった感じで頭をさげて会釈してくれて、さらには「コンニチハ。」と言ってくれたように聞こえたのです。
「あれ、何で日本人ってわかったのかな。」と思いつつも、よくあるいつものパターンかな、とも思いました。一応私もささやかながら現地の業界関係者ではありますが、現地スタッフ以外からは私の同僚であり舞台マネージャーチーフであり日仏ハーフのTさんの奥さんと思われることが多々あること、あるいはもっと位の高い業界人(例えば日本のエージェントの人とか)と思われることが時々あるのです。
初めての接触に気をよくした私は、最終公演の日には「これはサインを求めにいくしかない!」という気分になりました。
これから世界的スーパースターになりそうだから記念に、というのもありえますが、私にとってはそれよりもとにかくこの業界で、彼のようなハイレベルで、そこまで「普通の人」っぽい人というのがいかに貴重であり新鮮であるかを知っているからこそ貴重なのです。
最終公演の舞台が下り、これからカーテンコールが始まるというときに、私は字幕操作のポストからすばやく離れて5階から0階まで一気に階段を駆け下り、カーテンコール真っ最中の舞台袖に向かいました。
お客さんの興奮はそれはすごいもので、長い長いカーテンコールがようやく終わり、舞台裏では関係者同士のねぎらいと拍手のやりとりとなりました。ディレクターやエージェント関係者など、いわゆる位の高い人もたくさんいましたが、私は辛抱強く待った後、楽屋に向かおうとした彼の前に行きました。
改めておすもうさんのように大きな体格です。私が「ブラボー!!」と言うや否や、彼の方から「ああ、あなたは日本人ですか?」と聞いてくれて、お互い英語で少しやり取りをして、サインをお願いしたら「Of course !」と快く応じてくれました。イタリア語で彼の本名の説明もしながら書いてくれてました。ちょっと考えてから「アリガトウ!」と言ってくれ、心底自然体で気取らず着飾らない姿にうれしくなった私がそれこそ心底素直に「これから先素敵なキャリアに恵まれますように!」と伝えると、彼もまさにおすもうさんの満面の笑顔となりました。業界関係者がいならぶ空間の中、我ながらハートウォーミングなひと時となりました。
日本と韓国はお隣同士の国で、私には韓国人の友人はいませんが、南仏モンペリエのオペラ座の舞台裏で、年のそう変わらない私たちがお互いに英語、フランス語、イタリア語を混ぜてこうやって少しおしゃべりをして、なんだか不思議な感じです。こっちはすっかりモンペリエのローカル色にそまってしまった一日本人ですが、韓国人の彼がオペラ本場のヨーロッパ、そして世界の大舞台でこれからどんどん活躍していくのをお祈りしますと直接伝えられるとは、ますますうれしくなっちゃいました。
断然、俄然、応援します!
実は6月のプロダクションでも、彼がモンペリエに来ることが決まっているので楽しみです。
日本の皆さんも、またいつか彼の生演奏に触れる機会が得られるよう願っています。そのときはどうぞためらわずにチケット買って聞きに行ってくださいね!
さらに私ごとを言ってみれば、私も今の身体の故障がなければ、このプロダクションでコレペティとして彼と一緒に仕事をしていたかもしれません。いろいろありすぎてモチベーションも奪われていた私ですが、一気にポジティブな気持ちが復活してきました。これからが楽しみです。
私は今回字幕担当として参加したので、現場に居合わせれたのはピアノによる最後の通し稽古であるジェネラル・ピアノからでした。日本ではピアノリハーサルというのでしょうか。ピアノリハーサルというのは、演出、演技の練習を一通り終えた後で、衣装、メイク、照明などの調整が初めて行われる段階ですから、歌手たちはエネルギー消耗を避けるためにも本格的に歌うことはあまりありません。この日はトゥーランドットはもちろん、カラフ役のテノール歌手も、「あれ、バリトン歌手?」と思うような低音でずっと歌っていました。
舞台が中国の「トゥーランドット」ですから、出演者は皆、アジアンな衣装とメイクをしているわけですが、このテノール歌手は遠くからみてもアジア人だとわかる風貌で、あえてもっと言えばモンゴルから来たおすもうさんに似た感じの人。大きな体格をしています。遠くから姿を拝見する以外あまり歌声をきけなかったので、このときの私は「アジア人だけど、ヨーロッパのオペラの世界でがんばってるんだな。」、「一地方都市のモンペリエのオペラ座とはいえ、主役級がはれるなんてすごいなあ。」くらい印象でしかとらえていませんでした。
それが「びっくりたまげた!」としか言いようがないことになったのが、本番前のオーケストラによる最後の通し稽古ジェネラル(日本ではドイツ語からきたゲネプロ)でのことでした。
以前から若者を相手にした音楽教育活動にかなり熱心なモンペリエオーケストラ・オペラ座ですが、今シーズンからはさらに学生に対してコンサート無料招待を行ったりしていることもあって、この通し稽古は単に関係者に公開しただけでなく、多数の若者で客席がうまり、熱気のあふれる雰囲気となっていました。
そこで、私だけでなく、お客さんも皆さんびっくりたまげたのです。
このテノール歌手の声に、演技に、その存在に。
テノールとは一口に言っても、その声域、声質によって、いくつかのカテゴリーに分類されます。高く軽い声質から順番にあげると、レッジェーロ→リリコ→リリコスピント→ドラマティコとなります。スピントやドラマティコとなると、高い声だけではなくて、低音もしっかりひびかせないといけませんし、太く奥の深い、そして迫力のある声量が求められます。
「トゥーランドット」のカラフ役は、まさにこのテノールドラマティコの花舞台です。残忍なトゥーランドットや大コーラスに負けない迫力と存在感、そして有名なアリア「Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)」を歌い上げる音楽性が求められるわけです。このアリアはかのルチアーノ・パヴァロッティによってメジャーになった名曲です。テノール歌手にとったら、このカラフ役はイタリアオペラを代表する最上級、そして最難関の役といってもいいでしょう。
今回の「トゥーランドット」は、モンペリエオペラ座の今シーズンの目玉作品で優秀な歌手がそろったとは言え、世界的大スターが来たわけではありませんでした。お客さんは「ごく普通に」有名なオペラ作品の演奏が始まるのを楽しみにしていたはずです。
「トゥーランドット」は出だし、上演が始まってからしばらく大合唱の大迫力の場面が続き、観客はすぐにこのオペラの世界に吸い込まれます。
そこからしばらくたってテノール歌手が最初の一声をあげた時が問題の「?!」の瞬間でした。お客さんは皆、「え?」と反応したはずです。
2000人収容の大ホールにいとも簡単に響き渡る声量はもちろん、オーケストラを軽々と飛び越えるパワー、そしてなんとも彼は自然体なのです。歌い方も演技も、すべてが気持ちいいほど自然としっくりきているのです。
私は何度も言うようにオペラがあまり好きではないだけに、オペラ歌手にはウルサイ輩です。パワーで押せ押せ派や、テクニックだけの機械的な声や、オーバーなわざとらしい演技や、いかにも光を浴びているのが好きであろう陶酔派など、いわゆるオペラ歌手によくあるタイプの人は正直言って好きではありません。ソプラノの声も少しでもヒステリックな感じや金属質な要素があると、あまり聞いていたくありません。
そんな私が彼には新鮮な驚きとともにすっかり魅了されてしまいました。
彼が観客をとりこにした様子はすぐに見て取れました。アリア「Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)」の後、オーケストラは演奏し続けるのですが、そこで彼への拍手と歓声がわきあがりました。ミラノスカラ座などで見られるような大拍手です。
オペラ終了後のカーテンコールでも、他にもすばらしい歌手がそろっていたので、観客の拍手は最初から大盛り上がりでしたが、一番の主役はやっぱりこのテノール歌手でした。軽やかに、ちょっぴりひょうきんな感じで挨拶にでてくる彼の様子がますます観客をひきつけて、それはそれは盛大な拍手と歓声をもらっていました。
この韓国人テノール歌手はルディ・パーク(Rudy Park) さんといいます。年は私よりちょっと若いくらいか同じくらいか、30代半ばのようです。韓国で声楽を学んだあとイタリアに渡り、ローマでディプロムを取った後も、ドイツとイタリアで研鑽を積み、ヴェローナの劇場で舞台デビューしたそうです。それからというもの、主にイタリア、ギリシャ、フランス、スイス付近で活躍なさっていますが、アメリカはデトロイトと日本は東京にも行かれたことがあります。
ネット上で見てみたら、数年前に東京二期会のトゥーランドットの公演で、まさにピンチヒッターの代役としてカラフ役で出演し、日本のオペラファンをびっくりさせた様子でした。
それからすでに数年たっていますから、腕がさらに磨きをかけられた状態を私は目の当たりにする幸運を得たわけですが、歌手としてだけ考えても、この先まちがいなく、「トゥーランドットのカラフ役はルディー・パークだ。」と全世界で言われる歌手になると思います。もちろん好みは人それぞれですから、ネット上では彼の過去の出演作について多少批判的な意見も目にしましたが、その後もどんどん経験を積んでいっている彼のことです。彼に目をつけているオペラファンは、すでに世界中にたくさんいるようです。
モンペリエオペラ座で公開された彼の経歴はこちらです。Rudy Park氏 経歴紹介
いわゆるオペラファンではない私の関心はさらに別の方向に向きました。本番中の舞台上の彼の自然体の姿を見て、直感が働いたのです。「この人は心底自然体な人に違いない。」と。
つまり傲慢でもなければ、ナーバスでもなければ、変なカッコつけでもないだろうと読んだのです。
早速実際に一ヶ月に渡って彼と一緒に仕事をしてきたスタッフに聞いてみればドンぴしゃり。「本当に愛らしい人だったよ。」、「本当に謙虚な人だったよ。」、「めずらしくすごく普通の人だったよ。」、「誰もが彼みたいだったら最高なのに!」との声がぞくぞくと。テレビ業界でも舞台業界でも、現場を支えるスタッフ達は、人の人間性を目の当たりにしますからね。信用できる証言です。
「わあ、やっぱり!」と、それだけですでに喜んでる私でしたが、そこからさらにミーハー行動まっしぐら。たまたま楽屋ですれ違ったときに、私の顔を見るなりとても改まった感じで頭をさげて会釈してくれて、さらには「コンニチハ。」と言ってくれたように聞こえたのです。
「あれ、何で日本人ってわかったのかな。」と思いつつも、よくあるいつものパターンかな、とも思いました。一応私もささやかながら現地の業界関係者ではありますが、現地スタッフ以外からは私の同僚であり舞台マネージャーチーフであり日仏ハーフのTさんの奥さんと思われることが多々あること、あるいはもっと位の高い業界人(例えば日本のエージェントの人とか)と思われることが時々あるのです。
初めての接触に気をよくした私は、最終公演の日には「これはサインを求めにいくしかない!」という気分になりました。
これから世界的スーパースターになりそうだから記念に、というのもありえますが、私にとってはそれよりもとにかくこの業界で、彼のようなハイレベルで、そこまで「普通の人」っぽい人というのがいかに貴重であり新鮮であるかを知っているからこそ貴重なのです。
最終公演の舞台が下り、これからカーテンコールが始まるというときに、私は字幕操作のポストからすばやく離れて5階から0階まで一気に階段を駆け下り、カーテンコール真っ最中の舞台袖に向かいました。
お客さんの興奮はそれはすごいもので、長い長いカーテンコールがようやく終わり、舞台裏では関係者同士のねぎらいと拍手のやりとりとなりました。ディレクターやエージェント関係者など、いわゆる位の高い人もたくさんいましたが、私は辛抱強く待った後、楽屋に向かおうとした彼の前に行きました。
改めておすもうさんのように大きな体格です。私が「ブラボー!!」と言うや否や、彼の方から「ああ、あなたは日本人ですか?」と聞いてくれて、お互い英語で少しやり取りをして、サインをお願いしたら「Of course !」と快く応じてくれました。イタリア語で彼の本名の説明もしながら書いてくれてました。ちょっと考えてから「アリガトウ!」と言ってくれ、心底自然体で気取らず着飾らない姿にうれしくなった私がそれこそ心底素直に「これから先素敵なキャリアに恵まれますように!」と伝えると、彼もまさにおすもうさんの満面の笑顔となりました。業界関係者がいならぶ空間の中、我ながらハートウォーミングなひと時となりました。
日本と韓国はお隣同士の国で、私には韓国人の友人はいませんが、南仏モンペリエのオペラ座の舞台裏で、年のそう変わらない私たちがお互いに英語、フランス語、イタリア語を混ぜてこうやって少しおしゃべりをして、なんだか不思議な感じです。こっちはすっかりモンペリエのローカル色にそまってしまった一日本人ですが、韓国人の彼がオペラ本場のヨーロッパ、そして世界の大舞台でこれからどんどん活躍していくのをお祈りしますと直接伝えられるとは、ますますうれしくなっちゃいました。
断然、俄然、応援します!
実は6月のプロダクションでも、彼がモンペリエに来ることが決まっているので楽しみです。
日本の皆さんも、またいつか彼の生演奏に触れる機会が得られるよう願っています。そのときはどうぞためらわずにチケット買って聞きに行ってくださいね!
さらに私ごとを言ってみれば、私も今の身体の故障がなければ、このプロダクションでコレペティとして彼と一緒に仕事をしていたかもしれません。いろいろありすぎてモチベーションも奪われていた私ですが、一気にポジティブな気持ちが復活してきました。これからが楽しみです。
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