さて、弦楽器製作職人である二コラ・ジル氏のアトリエのお話の続きです。
二コラさんは、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの制作を手掛けていますが、今回のアトリエではヴァイオリン制作を例に、素材となる木の選び方、切り方、保存方法、削り方、接着方法など、持参のモデルを見せながら詳しく説明してくれました。
アトリエの参加者の中には、ヴァイオリンを習っている子供から、転職先として楽器作りを考えている人、家具職人さんもいたりして、みんな興味津々で聞いています。
日ごろから木材を相手にしている人たちなんかは、二コラさんが持ってきた道具にも釘付けで、この小さなミニカンナに驚いていました。
管楽器のときもそうでしたが、制作過程としてはついつい切断過程や型作りに目がいってしまいますが、接着作業も重要な過程。強力に接着して、かつ、楽器の響きに差しさわりのないものなど、職人にとってよりよい材料探しというのは、永遠のテーマなんだとよくわかりました。
職人さんの世界では、永遠に改良改善を探求すると同時に、17世紀ごろの制作技術が今に至っています。数百年の時を超えても、当時の職人達の知識と判断が正しかったということであって、インターネットのおかげで情報量や情報伝達のスピード、または機械、ITによる時間縮減など現代の利点はあるけれど、その道を追求する本物のプロを前にすると、そういった現代の便利な技術も「スピードアップ」程度でしかなくて、400年前のプロのアドバイスに沿うことが一番確かなことなんだということもよくわかりました。
二コラさんは世界的に評価されている人だと前回お伝えしましたが、それがどういう意味なのかというと、世界中から発注を受けているということなんです。フランスの演奏家はもちろん、アメリカ人も日本人も、コンサートなどで活躍する演奏家が、二コラさんが作る楽器で演奏したいと思って、注文してくるのです。
そのためには、もちろん試し弾きなども必要なわけで、演奏家側も時間とお金を費やして、二コラさんのアトリエまでやってくるのです。そうでもして欲しいと思う楽器を作る人、という方向で見れば、すごい人なんだなあとつくづく思います。
さて、二コラさんは 最後に質問時間を設けてくれました。
製造技術の学び方や製造方法を説明してくれていたので、全体像をしっかりカバーできたのですが、それでも私には一つ質問したいことがありました。
いざ手をあげようと思ったら、先に質問した人が、まさに私が聞きたかったことを質問してくれました。それは「どうやって二コラさんのように世界中からお客さんがやってくるほどになるのか。つまり、どうやって知名度がそこまであがるのか。」という点。とくに二コラさんの場合、まだその道では若い人。現時点ですでに世界中に顧客がいるということに、私も質問した人も圧倒されたのです。
二コラさんの説明では以下の三点。
まずは国際コンクールの重要性。二コラさん自身、アメリカで開催されるコンクールで大賞をとっていますが、それによって音楽界隈で情報が回ります。完全匿名方式の厳しいコンクールで、制作者に関する情報は一切ない中で厳密な審査が行われます。その中で選ばれると言うのは、楽器のあらゆる「質」において選び抜かれたわけですから、超絶級の太鼓判をおされたようなもの。品質に対するゆるぎない信用を得るわけです。
また、国際見本市の重要性。二コラさん自身、世界で行われる弦楽器の見本市に何度か参加したと言っていました。世界中の同業者や演奏家との実際のふれあいによって、また新しいコンタクトも生まれるし、これも音楽界隈で情報が回る助けになります。
そしてあとは基本のきとなる口コミ。 優れた演奏家が素晴らしい演奏をして、「自分は二コラ・ジルの楽器を弾いている」ということがこのうえない宣伝になるわけです。演奏家が演奏家を呼ぶ形で、今や二コラさんの楽器を演奏する演奏家が世界あちこちにいるという現状に至っているのです。
すごい人だなあと思って質問したら、その返事と説明を聞いて、さらにすごい人なんだなあと圧倒された私たちでした。興味のある方は、ぜひ二コラさんの個人サイトを覗いてみてください。
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